13 期待できない手助け
俺は片手を上げて、ドッツェが更に言葉を紡ごうとするのを制止した。
なるほど、こいつらは何故か俺のことをヴァヴァロナの王子だと思っているらしい。
だから自分たちを俺の親の仇だなんて言い方をしたんだな。
それはわかった。
わかったけれど、一番肝心なところが問題だ。
「おい、ツァル」
『……なんだ?』
姿は見えないけれど、返事は返ってきた。
「どういうことだ?」
『俺も知らねえよ』
「嘘をつけ。しつこく顔を隠せと言っていたのは、病の予防のためというよりは、俺の顔を曝したくなかったからじゃないのか?」
『だったらどうだってんだよ』
すっかり開き直るつもりだ。
「説明しろ。他人の空似で、ややこしいことになると鬱陶しいからっていうのが理由なら、それで構わない。どうなんだよ」
俺がぶつぶつ言い出したのを見て、ドッツェが不審そうな顔をしているけれど、そんなことに構っている場合じゃない。
『……逃げたほうがいいだろうな』
「つまり?」
『つまり、こいつらの言ってることは本当だってことだ』
「本当だって!?」
『今更驚くなよ』
「いや、驚くだろ。だっておまえ、そんなこと一言も言わなかったじゃないか」
『言う必要なんてないからな。ヴァヴァロナ王族はひとり残らず殺された。そんな過去、知らないほうがいいだろうが。俺の親心だ』
「親心って、おまえは俺の親じゃないだろ……」
訊きたい事が山積みだ。
けれどまずは、現状をどうにかしたほうがよさそうだ。
俺はドッツェに視線を向けた。
「覚悟はできたか?」
「なんの覚悟だよ」
「王族の生き残りとして処刑される覚悟だ」
「処刑!? なんでだ。俺は何もしてない」
「民の苦しみを取り除き、救うことのできなかった王室そのものが罪だ」
後ろにいる男のひとりが、するりと剣を抜いた。
観念しろ、ということらしい。
残念だけれど、俺としてはそういうわけにもいかない。
「ツァル、あとで全部聞かせろよ」
『話せることならな』
俺は小さく嘆息した。
今ここで、これ以上ツァルと話している余裕はない。
相手は全員剣を持っているのに対して、こちらは素手だ。
どう考えても不利だろう。
どうするか。
通路の両側には窓。さっきと同じように窓から脱出しようか、と考えていたら、まるでそれを察知したかのように男がひとり、車輌から出て行った。
すぐに、頭上から足音が聞こえ始める。
先回りされた。
さすがに、同じ轍を踏むような真似はしないらしい。
やるしかないか。
俺は腰を低くして、ドッツェを睨みつけた。
ドッツェは抵抗する素振りを見せた俺を鼻で笑うと、剣を握る男の後ろに下がる。
腕に自信はないらしい。
ふん、と鼻先で笑い返してやる。
「こいよ」
剣を手にした男が躊躇するのがわかる。
素手の相手はやりにくいのか?
こっちにとっては好都合だ。
相手が躊躇したその隙を突いて、男の手首を蹴り上げる。
その手を離れた剣が、くるくると回転しながら俺の手の中に収まった。
俺の記憶によれば、剣を握ったことなんか一度もない。
でも、俺はこの感覚を知っている。
剣を失った男は手首を押さえながら数歩後退し、そこにいたドッツェとぶつかった。
俺は横にある座席を踏み台にして、ふたりの上を飛び越える。
「さあ、これで思う存分やり合える。かかってこいよ」
俺は四人を前に剣を構え、挑発した。
でも狭い車輌の中、思う存分というのは言い過ぎだったかもしれない。
通路は狭いし、天井も低い。
なにより並んでいる椅子が邪魔だ。
けれど前後を挟まれた状態は脱した。
屋根の上に上ったヤツが戻ってこなければ、だけれど。
ふたりが剣を抜き、剣を失った男にはドッツェが自分の剣を渡した。
ぷかぷかと 三人が通路に一列に並び、ドッツェが最後尾に下がる。
そう、通路が狭いから、挟み撃ちをしない限りは、ふたり同時に攻撃することは不可能だ。ついている。
『殺すなよ』
「注文つけてないで、おまえも何か手伝えよ」
『俺に何ができるって?』
……何もできないんだよな、と嘆息する。
ツァルにできることといったら、俺の眼球の中をぷかぷかと漂うことと、ぶつぶつと説教をすることくらいだ。
ここは、自力でなんとかするしかないだろう。
俺は覚悟を決めて、唾をのみこんだ。




