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11 濃紺の軍服を着た男たち

 列車に乗り込んで二日目の早朝、水面が反射する太陽の光で目が覚めた。


 最初は湖かと思った。

 俺が住んでいたラドゥーゼには五つの大きな湖があって、同じ様な光景が見られたから。


 ツァルが『海か』と呟く声を聞いて、初めてこれが海なのだと知った。


 海。

 そこは踏み入れてはならない場所。

 海には世界の果てへと向かう流れがあり、その流れに逆らうことはできないと言われている。


「なんだ、あれ……」


 海沿いを走る線路。

 進行方向の海の中に、細い棒を組み合わせたような建造物が立っているのが見えた。


『何かの骨組みか?』


 ツァルにもわからないようだ。


「あれは、鉄道橋ですな」


 さっきまで寝ていたはずのトルダさんも、起きて窓の外に目を向けていた。


「鉄道橋って……もしかして、鉄道用の橋なのか?」

「ええ、名前のままですね」

『なんだって!?』


 ツァルの大声に、俺は思わず眉をしかめる。


「まさか。こんな重そうな物が乗ったら、潰れるに決まってる」

「いえいえ。それが、もう何度も行き来しているんだそうですよ」

『そんな馬鹿な!』


 まさに俺もツァルと同じ気持ちだった。


 話をしている間にも、車輌はどんどん鉄道橋に近付いてゆく。

 線路がゆるやかに曲がっているので、鉄道橋の様子がよく見える。

 どうやら橋は入り江にかかっているようだ。


 何故わざわざ入り江に線路を渡そうなんて考えたんだ。

 もっと内陸に造ればいいのに!


 さあっと血の気がひく。


 先頭の機関車が、今にも橋の上にかかろうとしている。


 いざとなったら……。


『窓から飛び降りろ。いいな、何か少しでも異常を感じたら、橋にかかる前に脱出するんだぞ!』


 俺の考えていることがわかったかのように、ツァルの声が聞こえた。

 ひどく真剣だ。

 俺はしっかりと頷く。


 そして向かいに座っているにこやかな老人の顔を見た。

 少しも怯えていない。


 もっと危機感を持てと言いたい。

 いや、でもこの態度。


 もしかして本当に大丈夫なのか?

 この車体はあの細い棒を組み合わせてできた橋を渡りきれるのか?


 俺はハラハラしながら機関車を見守る。

 線路が橋に向かって真っ直ぐになるために、先頭が見えなくなった。

 それでも様子を窺おうと、窓から身を乗り出す。


 車輌に異常はないようだ。

 破壊音も落下音も聞こえない。


 大丈夫なのか? 本当に?


 俺たちの乗っている車輌も橋の上にかかる。

 異変はない。


 少ししてからようやく詰めていた息を吐き出し、体から力を抜いた。

 景色を見る余裕が生まれる。

 海には波があるときくけれど、目の前にある海は湖とあまり変わらないように見えた。


 ここが入り江だからか? 

 沖に出たら、やっぱり海はうねっているのか?


 と、ふいに速度が落ちたのがわかった。


『何があった!? 脱出は、脱出はもう不可能なのか!?』


 きっと不可能だろう。

 ここはもう、鉄道橋の上なのだから。  


 窓から身を乗り出して様子を窺うけれど、前方で何が起こっているのかはわからない。


 今、鉄道橋を三分の一ほど進んだ場所にこの車輌はある。

 とりあえず橋に異常はなさそうだ。

 けれど、万が一橋の上で車輌が止まったらと考えるとぞっとした。


 高さはかなりある。

 ざっと見積もっても客車を縦に並べたとして四両分ほどはありそうだ。


 俺たちは、そんな場所に取り残されることになる。


「おや、何かあったんでしょうか。これは停止しますね」

「ちょっと、見てきます」


 俺は立ち上がった。

 機関車がどうなっているのか確認してくればいい。

 原因がわかれば、解決策も見つかるだろうし、何より不安が減る……かもしれない。


「気を付けて」

「はい」


 頷いたその時、車輌になだれ込んでくる一団があった。

 濃紺の軍服に同色のマント、マスクと軍帽。

 なんだこの怪しい奴等は。


 警戒しながら様子を窺っていると、先頭に立っている男と目が合った。


 俺!? 

 残念だけれど、こんな知り合いはいない。


 ――少なくとも記憶を喰われたあとは。


「顔を見せてもらおう」


 俺の正面に立った男が、命令口調で言った。

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