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4 街で会った青い瞳の人形

『旅の方が、ここに何の御用?』


 警戒させてしまったのだろうか。


『白金色の髪と精霊を見る緑の瞳をもった小さな子を見かけなかったか?』


 人形はほんの少し首を傾げ、それからふんわりと微笑んだ。


『それは王女ナルシーア様のことでよいのかしら?』


 眼球の中のツァルの動きが止まった。

 ツァルがもし人間の姿をしていたら、俺たちは口をぽかんと開けて目を見合わせていただろう。


「誰だって?」

『リファルディアの王女ナルシーア様』


 王女? 誰が? 


 俺は思わず吹き出した。


「違う違う。そんな大層な人じゃない。ローブのフードをかぶった上に襟巻きで顔を半分くらい隠しているから、髪の色はわからなかったかもしれない。でも、深緑の大きな瞳は印象的だと思うんだけどな。声をかけられたりしなかったか? 背は俺の胸くらいの高さで、元気だけは有り余ってる女の子なんだけど」


『……ああ。そのお嬢さんでしたら、ついさっきお会いしましたわ。橋を南岸に渡って行かれました。途中でわたしたちにとても元気のよい挨拶をしてくれたので、たぶんその方ですわね』


「だな」

『間違いない。で、どこへ行くとか言ってたか?』


『さあ。わかりませんけれど……でも、この道を真っ直ぐ進めば、大学校と病院がありますわ』

「学校と病院?」


『そして、リファルディア王宮』


 俺は顔を上げて、橋の向こうに視線を向けた。

 そしてそこにこの街で一番高い塔を見つける。


 リフシャティーヌの塔だ。

 王宮の中央にそびえ立つ、世界にふたつだけの守護者の塔。


「まさか……」


 さっきは笑って否定した。

 有り得ない。


 彼女はルークからやってきたと言っていた。

 それに、彼女の立ち居振る舞いはどこをどう見たって王女とは思えない。


 育ちのいい人間は、その仕草の節々からそれが滲み出るものだ。

 けれど彼女のそれは市井の娘のものだった。


『追うぞ』

「ああ」


 数歩駆けたところで、ひとつ気になることを思い出して足を止めた。


『なんでしょう?』


 振り返った俺の視線を受けて、精霊が問う。


「その……王女様は体力には自信があるという話を聞いたことがある?」


 人形は青い目を見開き、そしてゆっくりと目を伏せた。


『そんなことはありません。それどころかナルシーア様はお体が弱く、王宮からは一歩も外にお出になられません。お顔を拝見したことも、数度ほどしかありませんわ。特にリフシャティーヌ様が眠りにつかれてからはずっと病の床に臥せっておられるとか』 


 この話が本当なら、やはりサリアとは別人だろう。


「そうか……。ありがとう」

『いいえ。お役に立てたのでしたら幸いです』

『ああ、随分と助かった。礼を言う』


 ツァルも俺も、さっきは礼も言わずに去るところだったことに気付く。

 よほど気が急いていたようだ。


『よい旅を』


 精霊の声に送られて、今度こそ俺は守護者の塔に向かって駆け出した。

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