1 芸術都市リファルディア
リファルディアは芸術都市として知られていて、五つの門で有名だ。
音楽の門、絵画の門、彫刻の門、演劇の門、そして万人の門。
そのどの門からでも都市に入ことができ、どこから入るかは全くの自由だ。
俺たちは南東に位置する万人の門から入った。
俺とサリアは、外套のフードをかぶり、襟巻きで顔の半分を覆っている。
門の外には、同じ様な格好の旅人が多かった。
けれど門をくぐり、街の中に踏み込んだその時、俺は息を呑み足を止めることになった。
目の前には一面に芝生が広がり、並木が美しく並んでいる。
小鳥がさえずり、花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。
「きれい……」
隣から吐息とともにもれた声が聞こえた。
訪れる者を歓迎するかのように噴き上げている噴水の飛沫が、太陽の光を浴びて輝く。
まるで楽園だ。
『これが噂のリファルディアか』
ツァルの声にも、驚きが滲んでいる。
絵を描く人、楽器を奏でる人、芝居の台詞を練習する人などの姿があちらこちらで見られ、さすが芸術都市だと実感する。
「さすが守護者が守る都市だな」
「でも、西の守護者リフシャティーヌは一年前、眠りについたんでしょ?」
『らしいな』
「大精霊の世界に戻ったってことか?」
『って話だな』
「守護者がいないって聞いていたから少し心配してたんだけど、それでもこれだけ精霊が残ってるんだね」
「すごいな。俺がこれまでに会ってきた精霊の数とは比べ物にならないくらいだ」
噴水の周囲で飛び跳ねる小人のような精霊、風に乗ってふわふわと飛んでゆく蝶に似た精霊。
なによりも驚いたのは、人間の姿を模した精霊が普通に道を歩いていることだった。
模しているとはいえ、二足歩行していること以外はそれぞれ個性溢れる姿をしているので、ひと目でわかる。
長い耳が腰まで垂れている者、髪が燃えているように見える者、鼻が象のように長い者。
『守護者が戻ってこなければ、いずれこの街も他の都市と変わらなくなるさ』
「ツァル……」
サリアが哀しそうに目を伏せる。
俺たちの世界は、かつてふたりの守護者によって守られていた。
東の守護者・ヴァルヴェリアスと、西の守護者・リフシャティーヌ。
ともに巨大な能力をもつ精霊で、ヴァヴァロナとリファルディアにある守護者の塔に棲み、両王家がそれぞれの守護者に仕えていた。
けれどふたりの精霊は世界のために力を使い果たし、相次いで塔から姿を消してしまう。
それを機に、精霊の多くは大精霊の世界へと去ってしまった。
「それで、どうするんだ? ここは精霊が多いみたいだけど、手当たり次第声をかけるのか?」
『いや、多すぎるな、これは。少しやり方を考えてみようと思う』
「じゃあ、先に宿を探すぞ」
『好きにしろ』
俺は小さく肩をすくめて、周囲を見渡した。
万人の門前の広場から何本かの道が伸びている。
リファルディアもエスーハのように都市の中心を川が流れていて、川の北側に店が多かったはずだ。
必要最低限の知識はなんとか詰め込んである。
旅をする途中で、目的地やそこに至るまでの土地の情報も集めた。
都市の中央にはかつてリフシャティーヌがいたはずの守護者の塔がある。
その最上階は雲に遮られて見えない。
それほど高いということだ。
立派な塔。
けれど、今はただの抜け殻と成り果てている。
隣を見ると、サリアも守護者の塔を見上げていた。
目を細めて、まるで雲のその向こう側を見透かそうとしているみたいだ。
次の瞬間、はっとサリアがこちらを見た。
俺の視線に気づいたらしい。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
サリアが先頭に立って、歩き出す。
俺は数歩遅れてそのあとに続いた。
と、背後に視線を感じたような気がして、反射的に振り返る。
けれどそこに怪しい人影はなかった。
まさか、エスーハからドルグワたちが追ってきたということはないだろうけれど……。
気のせいか?
視線をめぐらせて不審者がいないことを確認してから、俺はサリアのあとを追った。




