16 別れ際に交わす再会の約束
翌朝、空が白み始めるころ、俺たちはミールの家を出た。
「本当に、もう行かれるんですか?」
「ミールとガティは、やっぱりここに留まるのか?」
ガティがいるとはいえ、今の状況では辛いことが多いだろう。
契約している精霊には基本的に声をかけないことにしているツァルも、昨夜はガティたちに、一緒に行かないかと誘っていた。
今は遺跡と化しているペリュシェスでも、手を加えれば人が生活することが可能らしい。
あちらには精霊がたくさんいるから、間違っても精霊憑きだなんて言われたりはしないし、ガティがいればミールと他の精霊との付き合いも上手くいくだろう。
それでもガティは断った。
俺からミールにも訊いてみたけれど、答えは同じだった。
無理強いをすることじゃない。
それでも最後にもう一度だけ、訊いてしまった。
「はい。わたしたちは、ここで」
『ミールの家族が眠っているこの地にいたいのです』
ガティの声はか細く、今にも消え入りそうだった。
けれどミールを想う気持ちがとてもよく伝わってきた。
羨ましいのか、とツァルに訊かれたことを思い出した。
俺は否定した。
他人は他人、自分は自分。
今日もこうして生きていられるだけでもうけもの。
そう思ってきた。
けれど、やっぱり少し羨ましいかもしれない。
誰かに想われるのは、どんな感じなんだろう。
誰かを想うのは、どんな感じなんだろう。
俺にはわからない。
「また、寄らせてもらってもいい?」
「もちろんです」
サリアとミールが手を握り合う。
一泊させてもらっただけなのに随分と仲良くなったものだ。
『気が向いたらいつでもペリュシェスに来ればいい。って、伝えてやってくれ』
ツァルの声は直接ミールには聞こえない。
俺がその言葉を伝えると、ミールは苦笑を浮かべた。
いつか旅行にでも、と控えめに言う。
サリアとミールが、互いの手をそっと離した。
「じゃあ、またね」
「さようなら。また、いつか――ね」
ふたりが別れの言葉を交わす。
「また会えるといいな」
「会いましょう。それまで、お元気で」
会いましょう、とミールは言った。
逃げ道のある俺の言葉とは違って、ミールのその言葉には逃げ道はなかった。
自らの意思で再会を、という約束だ。
「ああ、会おう。じゃあ」
俺は踵を返した。
サリアが続くのがわかる。
「お元気で」
背中に投げかけられた声に、俺は振り向かず片手を上げて応えた。
隣を歩くサリアは、しばしば振り返っては、大きく手を振っていた。




