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14 枯れた精霊樹と二種類の死病

 ミールの家は、森の中を少し歩いたところにあった。


 丸太で作られた家で、周囲には獣避けの柵が張り巡らされている。

 近くには水の湧く泉があった。


 招き入れられた部屋はこじんまりとしているものの、生活しやすいようにきれいに整頓されていた。


 入ってすぐの部屋に調理場があり、机はたたんで部屋の隅に置かれている。

 奥には寝室だろうと思われる部屋が奥にひとつ。


 それだけだった。


 家の狭さや飯の質素さを詫びながらも、ミールは手厚く俺たちを歓迎してくれた。

 訊けば八歳のころからここでこうして暮らしているのだという。


 ミールを手放した両親は、死病に罹って亡くなったらしい。

 それでも、ガティが一緒だから平気だと、ミールは気丈に言った。


 食事の後片付けをサリアが手伝っている間に、俺は散歩してくると言い置いてミールの家を出た。


「ガティがいるから、か……」


 月光の下、森の中を散策しながら、ミールの言葉を思わず口にしていた。


『羨ましいのか?』

「まさか」


 俺が考え事をしていると、いつもツァルの邪魔が入る。

 俺は少々うんざりしながら答えた。


『ガティがいい精霊でよかったよな』

「そうだな」


 せっかく助けた精霊がツァルのような極悪精霊でなく、心の優しい精霊だったのは幸いだ。

 自分を助けてくれたミールに対して、随分と感謝していた。


『交わした契約は、ミールがガティに新しい宿り場を提供すること。ガティはミールに清らかな場を提供すること。精霊樹は清浄な場を作り出す精霊の寄る(ルチェ・シュテフス)に必要不可欠な樹だ。ガティにはさほど大きな能力がないとはいえ、ミールを死病から守る程度の能力はあるんだろう』


精霊の寄る辺(ルチェ・シュテフス)の中心部は空洞になっていて、そこには精霊樹が植えられている。上を仰げば空が見えるし、壁は隙間が多く日が当たりやすく風が通りやすいように設計されているんだったよな、確か」


 精霊樹が枯れてしまったラドゥーゼは滅亡した。


『それにしても、アグの村で流行った死病が、ラドゥーゼを襲った死病とは別の種類の病だったとはな』


「ああ、驚いた」


 ラドゥーゼが滅びたのは、高熱と肌が黒くなるのが特徴の死病の大流行が原因だった。

 けれどミールの話によれば、アグの町を襲った病はそれとは異なるらしい。


 罹患者は下痢と嘔吐を繰り返し、やがて死んでしまうのだという。

 死んだ者の皮膚はかさかさに乾燥しているのだとか。


 つまり、この世界には二種類の死病があるということになる。

 そして双方に共通するのは、どちらも助かる可能性が非常に低いということだ。


 その話を聞いたときの、サリアの顔は青ざめていた。


 世界の滅亡。

 人類の絶滅。


 俺たちは生存できるのか?

 世界は存続できるのか?


 俺にその答えがわかるわけもなかった。

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