13 精霊を感じる能力
予想外の展開に、俺は目を丸くした。
「え、いいのか?」
「はいっ。あの、何もおもてなしできないんですけれどっ。あの、わたし、精霊憑きなので村のはずれに住んでいるんです。村の人たちは誰も近付きませんから、安心してくださいっ!」
三つ編みの少女は、両手でスカートをぎゅっと握りしめている。
サリアと同じくらいの年齢に見えるけれど、サリアは外見が異様に若いから、この女の子は見た目どおりならまだ十歳前後のはずだ。
「精霊憑き……」
サリアが哀しそうな目をしてその言葉を繰り返す。
『嫌な言い方だ』
ツァルが唾棄するように言う。
昨今、人間にとって精霊はめずらしい存在になってしまった。
あまりにも馴染みがないために、誤解が生じることがある。
精霊と契約をした者は強大な能力を手に入れることができ、彼らの機嫌を損ねたら命はない、などという流言を耳にすることもある。
それらを完全に否定することはできないけれど、全ての場合がそうだと判じるのは早計だ。
それなのに、今ではその誤解を解ける者もまた少なくなってしまった。
精霊憑きとは、精霊と契約した人間のことを指す、忌むべき呼称だ。
精霊憑きは恐れられ、遠ざけられる。
あまりに雑な扱いをして機嫌を損ねてはいけないので、たまに捧げ物をすることはあるが、村の中に住むことを許されない場合が多い。
精霊は憑かない。
宿るだけなのだが、それが精霊と接触をもたない人たちにはわからない。
他人との接触はほとんどなくなるだろうから、しゃべり方が要領を得なくても、声が小さ過ぎても、仕方のないことかもしれない。
「さっきは、きついことを言って悪かった」
頭を下げて、謝罪する。
「とんでもないですっ。わたし、話をするのが下手でっ、話し相手はガティしかいないし……」
顔の前で両手をぶんぶんと左右に振りながら女の子が言う。
「ガティというのが、君が契約した精霊なのか?」
「は、はいっ。川を流れてきた、精霊樹の葉に宿っていた精霊なんです。弱っていたので、助けて契約したんですけれどっ……。ガティにはそれほど大きな能力はありません。ほんの少しだけ、汚れた物をきれいにすることができるだけで……。みんなに怖がられるようなことは、何ひとつできないんですけれど……」
女の子が唇を噛んで俯く。
精霊樹とは背の低い常緑樹で、春に小さな白い花を咲かせる植物だ。
世界の守護者によって選ばれた清い植物とされているが、ガティからは弱い力しか感じられない。
それでも、精霊についてよく知らない者からすれば能力の強弱は関係なく、精霊と契約している者はひとくくりにされてしまう。
「俺も精霊と契約している。君と一緒だ」
弾かれたように、女の子が顔を上げる。
「せっかくだから一泊させてもらってもいいか? たいした礼はできないけど」
「あ、お礼のことは任せて! 大丈夫、受けた恩はきっちり返すからね!」
サリアが懐を押さえる。
そこに財布がしまわれていることは俺も知っている。
「お礼なんていらないですよ! あの……どうぞ、こちらです」
低木の茂みの間に、人がひとり通れるだけのけもの道があった。
「わたしはサリア、よろしくね。あなたの名前を訊いてもいい?」
「あっ、はい。わたしの名前はミールです。よろしくお願いします」
女の子が慌てて自己紹介をする。
そういえば、彼女が契約した精霊の名前は聞いたけれど、互いの自己紹介すらしていなかった。
「俺はクルス。契約している精霊はツァル。ミールは精霊を見ることができるのか?」
「感じるだけです。なにかあるのかな、という程度なので、あまり役には立たないですし、声も聞こえません。ガティが考えていることなら、なんとなくわかるんですけれど」
ミールが恥ずかしそうに言う。その感覚は、本来誰もが持っていたはずの感覚だ。その感覚によって、精霊を身近に感じていたはずなのに。
「いや、たいしたもんだ」
「あ、ありがとうございますっ」
ミールがほんのりと頬を染めた。
精霊がらみでは辛い目にあってきたんだろう。
それでも、ミールはガティを助けたことを後悔していないに違いない。
だから、精霊を感じる能力を認められて嬉しかったんだろうと、そう思った。




