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摂政戦記 0038話 到達不能点

【筆者からの一言】


本日は第36話を午前4時に投稿。

第37話を午前5時に投稿。

第38話を午前6時に投稿。

第39話を午前7時に投稿。

第40話を午前8時に投稿。

第41話を午前9時に投稿となっております。


1940年4月 『南太平洋 太平洋到達不能点』 


 太平洋到達不能点…

 それはどの陸地からも最も遠い海域である。

 南緯48.89度、西経123.45度に位置する。

 民間の航路からは大幅に外れており、本来なら船は勿論、人の姿も見かけぬ海域である。


 今、その太平洋到達不能点を中心とする海域に数隻の船がまばらに遊弋していた。

その大半は無人船である。

 海は凪いでおり風も殆ど無かった。太平洋の大海原にいるとは思えぬほど静かな海の上に船達は静かに浮かんでいる。


 全ての船は日本の閑見商会が保有しているものであった。


 その中の一隻に閑院宮総長が座乗していた。

 公式的には閑院宮総長は現在、体調を崩し小田原の別邸で静養している事になっている。 


 閑院宮総長の目的は、これから行われる「ウラン爆弾(原子爆弾)」爆発実験の見分の為である。


 当初「勇研究班」からは朝鮮北部、もしくは日本海での爆発実験の希望が提出されていた。

 しかし、閑院宮総長がそれを却下し、尚且つ日本より遥かに遠い太平洋到達不能点で行う事を指示して来たため、この海域での実験となったのである。


 これは他国の情報員の目を気にしての事なのか、それとも環境汚染を気にしての事なのか、それは定かではない。閑院宮総長がその理由を述べる事は遂に無かったからだ。


 閑見商会が用意した実験観測司令船では多くの観測機器が甲板に並べられており科学者達が準備に勤しんでいる。

 無人の船は爆発の威力を計る為のもので、爆心予定地より一定の間隔で配置されている。


 実験観測司令船上の一角には閑院宮総長の姿も見えた。

 その傍には副官の他に満洲映画協会理事長となっていた甘粕正彦との姿もあった。


 甘粕正彦は閑院宮総長から5年前に話していた特殊兵器が出来たから見せてやると言われ連れてこられたのである。


「閣下、これから何が始まるのでありますか?」


 ここまで来たものの、実際に何が起こるのかは知らされていない甘粕が閑院宮総長に尋ねる。

 閑院宮総長は楽し気に答えた。


「勇実験と言う名の新型爆弾の起爆実験だ」


「新型爆弾でありますか?」


「そうだ、これまでに無い強力な爆弾だ」


 その時、艦内放送が流れた。

「実験開始まであと10分!」

1時間前から10分おきに実験開始の残り時間を知らせる放送をしている。


「いいか、これから起こる事をよく見ておけよ。お前に麻薬で稼いで貰った資金が何に使われたのか、その答えがもうすぐわかる」


 閑院宮総長が水平線の向こうを見ながらそう告げた。

 甘粕は水平線を眺める。穏やかな海は平穏そのものだ。


 実験開始5分前の放送が流れ更に1分前、30秒前の放送が流れた。

 そして遂に秒読みが開始される。


「秒読み開始します! 十、九、八、七、六、五、四、三、ニ、一、今!」


 その時水平線に激しい閃光が輝いた。

 サングラスを掛けていなければ目を痛めたかもしないと思う程、鮮烈な光だった。

 暫くして腹の底から痺れるような爆音が聞こえてくる。

 閃光のあった海域に、まるで雪国で見掛ける雪でつくった家「かまくら」のようなものが見えた。

 巨大だった。遠い水平線上の筈なのに、それはあまりにも大きく見えた。

 そして、その後、「かまくら」の中心部から巨大なキノコ雲が立ち昇った。


 日本が世界に先駆けて「ウラン爆弾(原子爆弾)」を手中にした瞬間だった。


 甘粕は、あまりの爆発の大きさに慄いた。

 甘粕とて元は軍人だ。

 爆弾や大砲の砲弾の爆発がどんなものかは知っている。


 しかし……

 これは何だ?

 こんなものは今まで見た事がない。

 あまりのスケールの大きさに驚く他はなかった。


「クックックッ、どうだ、凄いものだろう。あれなら都市一つが軽く吹き飛ぶ」


 驚きのあまり体が固まっているかのような甘粕に閑院宮総長はいかにも楽しいという風に話しかけて来る。


「か、閣下、あ、あれは一体?」


「あれこそが8年もの歳月と85億円もの闇資金を使い完成させたウラン爆弾さ。

1発で都市一つを殲滅できる究極の大規模破壊兵器だ。

君が稼いだ麻薬の金がこのウラン爆弾を完成させたのだ。

その金がなければ完成はできなかった。

感謝するぞ、甘粕君。

クックックッ」


 楽し気に笑い続ける閑院宮総長とは裏腹に甘粕正彦は言い知れぬ不安を覚えていた。

 こんなに強力な兵器を造り閑院宮総長は一体何をするつもりなのか。

 いや、どこに使うつもりなのか。

 だが、それを聞く勇気は何故か今の甘粕には湧いてこなかった。 

 今はただ、太平洋に響く閑院宮総長の笑い声を聞くのみであった……



 世界は、まだ知らない。

 この世にたった一発で大都市をも破壊する威力を持つ爆弾が誕生した事を。


 世界は、まだ知らない。

 その爆弾、「ウラン爆弾(原子爆弾)」を日本が持っている事を。


 世界は、まだ知らない。

 閑院宮総長が「ウラン爆弾(原子爆弾)」を使う意思のある事を。


 世界の殆どの人が知らぬところで歴史は新たな展開を迎えようとしていた……



【to be continued】

【筆者からの一言】


そんなわけで「総長戦記」よりも1年も早く原爆実験が成功しました。




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