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摂政戦記 0103話 疲弊

 1941年12月中旬 『アメリカ モンタナ州のとある町』


 ボブ・ライマンは暗闇を見つめながら熱いコーヒーに口をつけた。


 身体の芯から凍えそうな寒さの中で熱いコーヒーは温かさをもたらし、眠気を振り払ってくれる。

 だが身体に溜まった疲労まではとってくれない。

 いや、贅沢は言えない。今やコーヒーも貴重品だ。

 戦争が始まって以来、物流は滞りがちであらゆる物が品薄だ。

 こうして夜間の見張り番をしているからコーヒーをわけてもらえる。

 

 それでも疲れは溜まっている。

 昼間はいつものように働き夜は交代制での見張りだ。

 

 ボブは膝に置いていたライフルを机に置いて立ち上がり大きく伸びをした。

 そして思う。

 

 こんな日々がいつまで続くのか……と。


 だが、やらなくちゃならない。家族のためにも。

 

 2日前の夕刻、西の隣町に日本の気球が落ちて来て、乗っていた日本兵と町の自警団が撃ち合いになった。

 自警団は2人が死亡したらしい。日本兵は最後には自爆して自警団の者を道ずれにしたとか。

 

 何てやつらだ、日本兵は! 狂ってる。みんな命が惜しくないらしい。


 今やアメリカ中が日本の気球に脅えている。


 気球はいつ来るかわからない。

 途切れ途切れに伝わって来る話では、朝も昼も夜も関係なく飛んで来ている。

 おかげでこの町も町長と保安官が話し合い、自警団を作って夜間も交代で警戒する事になった。


 と、ボブが思い起こしていた時、町の通りから人が近づいてくるのが見えた。

 肉屋のライオネルだ。 

 交代だ。


「おーいボブ、交代だ」

「有り難い。ようやく眠れる」

「俺も早く交代して眠りたいよ。ところでラッセンのとこのジョンの話しは聞いたか?」 

「いや、何かあったのか?」

「ジョンは軍に志願しようとしてたらしいが、それを聞きつけた町長が説得してやめさせたらしい」

「そりゃあまた……」

「軍に志願するのは立派な行為だが、今は自警団に所属して町を守ってくれと頼んだそうだ」

「そりゃ言える。人手は多い方がいいからな」

「今は1人でも貴重だよ」

「そんじゃあとは頼んだぞ」

「おう、いい夢をな」



 この時期、日本から来る気球に乗った日本兵がアメリカ市民を恐怖させていた。

 いつ来るかわからない。

 どこに来るかわからない。

 その不確定さがアメリカ市民の心を苛む。

 特に小さな町や他家とは離れた一軒家に住む農家や牧場主達は深刻だった。

 自分で家族と自分自身を守らなければならない。

 

 小さな町では保安官は少なく軍隊もあてにはできなかった。


 軍隊は日本の攻撃を受け大被害を被った大都市住民の救助や難民への支援の他、本土内で蜂起した有色人種達と、日本軍との戦闘で手一杯という状況だ。

 そもそも軍隊自体が大きな被害を受けている。


 戦略的に重要でもない地域の防衛にまでは手が回らない。

 そうした所では当然、自警団が重要となる。

 地方の田舎町では史実の第二次世界大戦とは異なり、青年は軍に志願するよりも自警団に入り町と家族を守る者が多い状況だった。


 大都市や中都市では、日本軍との戦闘により大きな被害を受け兵士の徴募事務が滞っている都市も多い。

 徴募事務所が破壊されたり、担当の者が負傷や死亡している事務所もある。

 徴募事務所は無事で志願を受け付けられても、国内の交通網が破壊されている為に、志願兵が訓練センターに移送される事が遅れ気味という事も珍しくはなかった。


 そして国内交通網の破壊は当然、人だけでなく物資の流通にも支障を来している。


 アメリカは国内でのあまりにも大きな戦争被害により、国家の各種システムが機能不全をおこしつつあった。


 人々は物資不足と日本兵の恐怖に日々、苛まれながら暮らしている。

 アメリカ国民の疲弊は日々深まりつつあったのである。


【to be continued】

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