摂政戦記 0098話 思惑 その③
1941年12月中旬 『日本 東京 皇居』
閑院宮摂政は北アメリカの地図を見ながら考えていた。
今の所、アメリカ本土48州に日本の領土は必要無いと。
ただし、この時代のアメリカ人達がさして惜しくもないと考えているある地域については割譲を求める気でいた。
そこを拠点に新アメリカ小国家群に目を光らせる。
その地は未来の日本にとって良い資産にもなるだろう。
またアメリカ本土48州に領土は求めないが、この時代においてアメリカ最大の鉱山地帯であるアイアン・レンジは日本の管理下に置くつもりでいる。
管理下に置くとは言っても鉱物資源を採掘する気は全く無い。
逆にゴミ捨て場にする。
日本は「ウラン爆弾(原子爆弾)」を開発する過程において、少なからぬ高レベルの放射性廃棄物を持つに至った。
その高レベルの放射性廃棄物をアイアン・レンジに廃棄するのだ。
史実における第二次世界大戦においてアメリカが必要とする大量の鉱物資源の主要供給地となったアイアン・レンジを高レベルの放射能で汚染し半恒久的に使用不能にするのだ。
日本にとっては持て余す危険な高レベルの放射性廃棄物を、日本より遥か遠くに廃棄できる事にもなる。
いつの日か日本の意に反して再びアメリカが一つの国として復活する日が来る事があるかもしれない。
しかし、例えそのような未来が来ようともアイアン・レンジはその復活するアメリカの力とはならないのだ。それはアメリカの力が以前のようには戻らないという事でもある。
日本にとっては危険物を捨てる事ができ、尚且つ、かつての大国アメリカを復活させたいと願う者や、重要資源が是非とも欲しいと思う者が新アメリカ小国家群にいたとしても、その地を半恒久的に失わせる事ができる一石二鳥の策だ。
後は後世のアメリカにおいて重要な鉱物資源地帯になった地域に留意しなければならない。
まずは核兵器に必要なウラン鉱山は要注意だ。
大戦中から冷戦時代にかけてアメリカは核兵器製造の為に国内で数多くのウラン鉱山を開発した。
冷戦時代にアメリカが大量に核兵器を持てた一因は自国でウランが産出したからでもある。
1948年から約20年ほどの間、アメリカ政府は冷戦における核兵器増産の為にウランの固定価格買取り制度を導入してウランの買取りを行っていた。
そうした事からその時代は鉱山会社がウラン鉱山の発見と採掘に力を入れている。
その後、ウランの固定価格買取り制度廃止や外国の安いウランの流入によりウラン採掘事業は低迷するが、それでも現代までにアメリカ本土で発見され採掘されたウラン鉱山の数は数多い。4000を超えるウラン鉱山があったようだ。
そしてアメリカ本土でウラン鉱山がよくある場所がロッキー山脈だ。
ロッキー山脈は場所により産出される量は違うが全山脈的にウランがあるらしい。鉱脈は無い場所でもそこかしこで微量なウランが検知できるそうだ。
この事から現代の科学者の中にはロッキー山脈は宇宙より飛来した隕石か何かだったのではないかという学説を唱える者もいる。
アメリカでのウラン鉱山はロッキー山脈を中心とする西部が殆どだ。
アメリカ西部の広い範囲でウラン鉱山の数は数多くあるが、今回の歴史における今の時点では、その鉱山の殆どは発見されていない。
そして、その多くがインディアン居留区の近くにある。
ならば重要な鉱山のある地域は全てインディアンの土地にして、新アメリカ小国家群の白人国家には手が出せないようにする。
ようはインディアンを鉱物資源の見張り番に、番犬にするのだ。
インディアンにとってウラン鉱山は採掘されない方が幸せだろう。
何故なら史実における後世、多くのインディアンが健康被害に苦しめられたからだ。
それは現代においても現在進行形の話しでもある。苦しんでいるインディアンの人々が大勢いる。
ウラン鉱山での採掘は近くに住むインディアンが鉱夫として雇われ行われた。
ウラン鉱と放射能の関係はインディアンには全く教えられなかった。
大抵の会社で支給したのはヘルメットと安全靴のみ。
インディアンはウランが危険なものであるとは知らされず、そんな軽装備でウランの発掘を行ったのだ。
その当時の鉱山会社がウランと放射能の関係と、その危険性を熟知していたかどうかはわからない。
なにせ1950年代になってもウランは陶器の染料として使用されていたぐらいだ。
昔は多くの人がウランから出る放射能の危険を知らなかった。
鉱山の採掘作業では粉塵が出る。
インディアンの鉱夫達はマスクも無しにウランを含んだ粉塵を吸う事になる。
鉱山の中には露天掘りのものある。
そうした露天掘りでは風の強い日にはウランを含んだ粉塵が周辺一帯に舞った。
また採掘と精錬で残るウランの残土や鉱̪滓(残りかす)は、鉱山近くにそのまま放置された。
その結果は、インディアン鉱夫や付近に住むインディアン住民の健康被害の増大だ。
癌になる人々が大勢出た。
放牧している羊には奇形児が生まれるようになった。
日本ではあまりニュースにもならないが、ウラン鉱山による影響で健康被害にあっているインディアンは大勢いる。
今回の歴史では、インディアンはウラン鉱山の事など知らず採掘などせず、以前から営んでいるように放牧でもして暮らしているのがよいだろう。
インディアンの土地には日本政府が後ろ盾となって新アメリカ小国家群の白人国家には手を出させないようにすればよい。
アメリカでのウランという鉱物資源はそのまま眠らせておくに限る。
ロッキー山脈周辺は他の鉱物資源の宝庫でもある。
北のアイダホ州は別命「宝石の州」とよばれるぐらい色々な宝石が採掘されている。
それだけではない。北米最大の産出量を誇る銀鉱山のサンシネ銀山があり、ここは今回の歴史における今の時点で既に採掘が行われている。
同じく北のモンタナ州は史実における後世において、銅とレアメタルのモリブデンはそれぞれ全米5位の採掘量を誇り、他にもレアメタルではパラジウム、白金等が産出される。
西部中央のユタ州は史実における後世において、銅の産出量が全米2位、金とレアメタルのモリブデンがそれぞれ全米3位の産出量だ。
ネヴァダ州は史実における後世において、金の産出量が全米1位、銀の産出量が全米2位、銅の産出量が4位だ。
コロラド州は史実における後世において、レアメタルのモリブデンの産出量が全米1位、金の産出量が全米4位だ。
南のアリゾナ州は史実における後世において、銅の産出量が全米1位、銀の産出量が全米4位、レアメタルのモリブデンの産出量が全米2位だ。
これらの州では他にも石炭や石油、その他の鉱物資源がかなり産出されている。
西部は後世の史実においてウランの他にも鉱物資源の一大産出地となるのだ。
ユタ州はモルモン教徒の国として独立させればいい。元々アメリカ国内でも特異な州なのだ。
アリゾナはメキシコ合衆国、もしくはヒスパニックの独立国の領土とすればいい。
他の州の鉱山はインディアンに自治地区内に含める。
インディアンは部族ごとに自治区を置き連合国として成立させるか、それとも部族ごとに独立国とするべきか……
まぁそれは今後の動き次第だ。
鉱物資源としては他にアルミの原料となるボーキサイト鉱山だが、これだけはアメリカ西部にない。
アメリカ東部と南部に大きな鉱床が7ヵ所ある。
そのうち5ヵ所は南部に成立させる予定の黒人国家の地域内にある。
残る東部の2ヵ所は比較的、海に近い。
ドイツとイタリアの割譲地に含めるのも悪くは無い。
彼らにもある程度の旨み、利益を渡さなくてはな。
要は史実における後世で開発される西部の鉱物資源地帯はユタ州は別として、新アメリカ小国家群の白人国家には渡さない。
南部の油田地帯はメキシコ合衆国かヒスパニックの独立国の物となる。
新アメリカ小国家群の白人国家に残る鉱山と資源は、史実における後世のアメリカ合衆国からすれば、非常に少ないものとなるだろう。
カナダも忘れてはいけない。
カナダにおけるウランの一大産出地サスカチュワン州もインディアンの国とするようにしよう。
ここまですれば白人国家に残される鉱物資源は少ない。
後は油断せず、監視の目を弛めない事だ……
【to be continued】




