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摂政戦記 0096話 思惑 その①

【筆者からの一言】


摂政のお考えです。


 1941年12月中旬 『日本 東京 皇居』


「……と、言う訳でございまして、カマチョ大統領は慎重なようでございます」


 外務大臣の言葉に閑院宮摂政が頷いた。


「そうか。ご苦労だった」


「はっ。それでは失礼致します殿下」


 一礼して外務大臣が部屋から出ていった。


 メキシコはまだ動かない。たった今、外務大臣が報告して来た。

 今はまだ様子を見ているのだろう。

 だが、そのうちアメリカの状況がもっと悪化すればメキシコも動く可能性はある。


 グルー大使が近衛首相と会い講和の条件を探ってきた。

 近衛首相を選んだのは首相という地位故か、それとも近衛首相自身が戦争に否定的なのを知っての事か。

 

 まぁよい。


 閑院宮摂政は考える。


 まだ、講和には早い。

 現状では今暫く戦争を続行したい。そうすれば、とある要因から日本は更に有利になる。


 取り敢えず今のところはアメリカ政府が飲めない講和案を作って提案してやろう。


 まずはアメリカに住む有色人種の国家の創設を条件にする。


 第一にヒスパニックの独立だ。

 旧北メキシコ領(カリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州、ユタ州の4州の全域とニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州の3州の一部)におけるヒスパニック政権の樹立と独立。

 旧北メキシコ領を失えば、それこそ石油を中心とするエネルギー資源と広大な農地を失う事になり、アメリカの国力は大きく減退する事になる。アメリカ連邦政府は認められないだろう。


 第二に黒人の独立だ。

 黒人が多い南部の地域、通称ブラックベルトの州を中心に黒人国家を設立させる。

 かつて黒人が望み果たせなかった黒人国家。

 ルイジアナ州、ミシシッピー州、アラバマ州、ジョージア州、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州……

 どの州も黒人の割合は3割を超えている。中には4割を超えている州もある。

 できるだけ多くの州を黒人国家として要求してやろう。


 第三にインディアンの独立だ。

 インディアンは部族ごとに保留地に暮らしているが、まずはその保留地を大幅に拡大させる。

 元々、アメリカ政府とインディアンの間で取り決められた条約による保留地は広大だったが、アメリカ政府が白人の為にインディアンとの条約を反故にして縮小した過去がある。

 インディアンの各部族が独立を望むならそれを認めさせる。

 インディアン保留地が無い州の方が少ないのがアメリカという国だ。



 インディアン保留地の無い州は12州。

 北東部のニューハンプシャー州、バーモント州、ペンシルベニア州、メリーランド州。

 東部のウエストバージニア州。

 中西部のオハイオ州、インディアナ州、イリノイ州。

 南部のケンタッキー州、ミズーリ州、テネシー州、アーカンソー州。

 ただしインディアンがいないわけではなく、多人数の部族がいない為に保留地が無いのが実態だ。

 実際には少人数のインディアン部族はどの州にもかなりいる。 



 オクラホマ州は別枠で分離独立を要求する。

 ここはインディアンと黒人のどちらもが多い州だ。黒人とインディアンの共同国家としようか。


 第4にこうしたヒスパニック、黒人、インディアンの国からは白人の移転を求める。出て行くよう要求するのだ。

 民族移住の例などは幾らでもある。アメリカがかつてインディアンにそうしたし、ソ連ではスターリンの得意技だ。


 第5にアメリカ軍は連邦軍も州軍も武装解除して軍備は制限するものとする。

 

 第6に莫大な賠償金を分割で毎年払うものとする。


 これだけの要求をすれば簡単にはアメリカ連邦政府も飲めまい。


 特にアメリカは連邦政府と州政府の二重構造だ。

 そして州政府の権力機構にいるのも当然白人だ。

 例え連邦政府がヒスパニック、黒人、インディアンの独立と国家創設を認めたとしても各州政府は認めないだろう。

 土地を取り上げられる白人の一般市民も抵抗するだろう。


 それどころか、この条件を知れば白人による有色人種への反発は必至だろう。単純な者は怒るだろう。


 適当な時期に、こちらからアメリカの一般市民に日本の提案をリークしてもいい。

 蜂の巣をつついたような騒ぎになるのではないか。 


 メキシコ系、インディアン、黒人に夢と希望を与え、白人には不満と怒りを与える。


 講和の提案条件で北アメリカ大陸での人種戦争の火に油を注ぎ、白人と有色人種の戦いを更に燃え上がらせる。

 流血と破壊をアメリカで拡大させてやるのだ。


 本物の講和条件は日本がもっと有利に、アメリカが不利になってからでよい。


 摂政の流血と破壊を求める戦略はまだ終わりを見せない。その終わりは遥か遠くであった……


【to be continued】


【筆者からの一言】


相変わらず敵の血を流す事を考えている摂政なのでした。


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