摂政戦記 0093話 上空
【筆者からの一言】
日本の戦闘機は出て来ません。
1941年12月中旬 『アメリカ ワシントン州 上空』
「見えた! あれだ!」
狭い戦闘機の操縦席の中でスコット中尉は思わず声に出していた。
報告のあった日本の気球を見つけたのだ。
澄み渡る青い空に無数の大きな白い雲が流れ、その間に小さな気球が一つ浮いている。いや飛んでいる。
スコット中尉は直ぐに機首を気球に向け速度を上げる。
機体が風を切り裂いて飛ぶ中、機銃を試射した。発射の振動と共に弾が飛んでいく。問題は無い。
その間にもぐんぐんと気球が大きくなってくる。
それだけ近付いているからだ。
気球の白く大きな生地の真ん中に長方形に区切られた部分があり赤い丸が描かれている。日本の国旗だろう。
段々と気球に近付いている。ゴンドラには日本兵が乗っている筈だがその姿は見えない。
寝ているのだろうか。
「撃ち落としてやる!」
スコット中尉は無意識にそう声を出すと狙いを定め照準器に入った気球に向け発射ボタンを押して機銃を一連射した。
弾は全弾、気球に当たり、気球はたちまち炎に包まれ落下していく。
ふっーーー。
と大きく息を吐いたスコット中尉は機首を翻した。
任務を達成したスコット中尉には、あまり喜びの色は見られない。
まるで射撃練習をしているような任務でしかないし、精神的疲労の色が濃かった。
「こんな日がいつまで続くんだ……」
と呟き溜め息をつく。
日本の気球は残存しているレーダーにもなかなかキャッチされない厄介な兵器だ。
高度がそれなりの高さなら撃ち落とす事自体は難しくないが、いつ現れるかわからないのが厄介だ。
レーダーにキャッチされにくいので海岸に監視要員を派遣して無線で連絡するようにしている。
おかげで朝から晩まで基地で待機状態。
果てしの無い泥沼のような戦いだ。
更に悪いのは補給が滞っている事。
燃料、弾薬、整備部品がなかなか届かない。
おかげで以前は気球1基に対し念を入れて2機で対応していたのが、今や僚機は無しだ。
気球は1基の時もあれば複数の時もある。今や編隊飛行で迎撃に向かうのは複数の気球が来た時だけになっている。
更には基地に入って来るニュースは悪い話しばかりで、良い話しは少ない。
完全に日本軍にしてやられている。
これでは士気の上がりようもない。
最初は原子爆弾という特殊爆弾や無差別大量殺戮で同胞を殺された恨みから復讐を誓う者が基地にも大勢いたが、アメリカ全土における被害の実態が見えてきて、更には日本軍の狂気とも言える自爆攻撃の様相を知ると気力が萎えてしまった者も増えている。
いや怯えている者さえいる。
こんな日がいつまで続くのか……
スコット中尉は暗い気持ちを抱えながら基地に帰投するのだった。
【to be continued】
【筆者からの一言】
どうやらアメリカ軍では精神的にまいっている兵隊も多いようです。




