表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/74

摂政戦記 0087話 誘拐

【間抜けで使えないウジ虫のような筆者からの心からのお詫び】


申し訳ございません。

昨日、10月6日は一話抜いて投稿してしまいました。

第86話「誘拐」は第87話に移動となりました。


第86話の内容は新たに題名「方針」として中身を一新しております。

何とぞご容赦下さい。


本日、10月6日の午前4時の投稿はいつも通り実施致します。題名は第88話「逃避行」となっております。


誠に申し訳ございませんでした。



【筆者からの一言】


さぁ狗達の新たな作戦がはじまるヨォ!

と言うお話。

 1941年12月中旬 『アメリカ 中西部&南部』


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」

「えーーーーーーーーん」

「ひっく、ひっく」

「お願いです。こんなことやめて下さい。子供達を返してください」


 数十人の子供達と数人の大人が怯えていた。

 無理もない。

 今朝突然、小さな町の学校に現れた武装集団に誘拐されたのだ。 

 その武装集団は黒い軍服(野戦服)を着て、シュタームヘルム型ヘルメットを被り、その中の一人は日章旗を持っていた。


 この時、異変に気付いた保安官が駆けつけたが犯人達に射殺されてしまう。

 保安官だけでなく、他にも異常事態に気付いた町の者が駆けつけたが、その人達も保安官と同じように射殺されてしまった。


 もう後は誘拐犯の言う事を聞くしかない。

 低学年の子供達と教師は犯人のトラックに乗せられ移動させられた。

 そして今は、どこかわからない建物の一室に監禁されている。 


 子供達に出来るのは怯える事と泣く事。

 教師にできる事は子供達を宥め犯人に哀願する事だけだった。



「お願い! あの子を返してぇー!!」

「子供を返してくれ!!」

「マーーーーーーーーク!」

「私の坊やをかえしてぇぇぇぇぇ!」

「ルイスーーーーー!」

 子供を誘拐された親達が声の限りに叫んでいた。

 誰もが必死になって叫んでいる。

 犯人に子供を返してくれるよう頼んだり、子供の名前を懸命に叫んでいた。


 学校を襲い子供達と教師達を誘拐した武装集団は、その潜伏先を隠さなかった。

 誘拐した学校からトラックで町を出て行く時、町民の運転する何台かの車が追いかけて来たが、好きにさせている。


 そして潜伏先に逃げ込んだ。 


 その場所こそは「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)だった。


 この誘拐劇はこの一ヵ所だけではなかった。

 同じ頃、中西部から南部にかけて100ヵ所近くの小さな町で同様の事態が発生していたのである。


 この犯罪行為を行ったのは、閑院宮摂政が長い年月をかけて作り上げて来た、対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華」であり、その「乙班紫桜隊」である。


「桜華乙班」の各隊は開戦前にアメリカ国内に密入国している部隊であるが、全部隊が開戦初日に動いたわけではない。ようやくこの部隊が動く時が来たのだ。


「桜華乙班紫桜隊」は、アメリカ各地に点在する「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)の留守部隊であり防衛部隊だ。


 アメリカの内陸主要30都市での無差別殺戮作戦を行った「桜華乙班白桜隊」は全滅しつつある。

 既に全滅した部隊もある。


 当然、アメリカ側はこれらの日本兵がこれまでどこに潜んでいたか調査するだろう。

「桜華乙班白桜隊」は隠れ家たる「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)から作戦発起地点までトラックで移動している。

 しかも大量のトラックが使用された。

 移動途中での目撃者は大勢いる。 

 そのうちアメリカ側の捜査で「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)が浮かび上がるのは間違いない。


 では「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)をどうするか。

「桜華乙班白桜隊」が出撃した後に放棄するのも一つの手だ。

 だが、それよりも積極的にアメリカ軍を引っ掻き回す為の手段として活用した方が費用対効果の面からも望ましい。


 農村共同体(コロニー)にアメリカ側の兵力を引き付けると共に、その敵戦力を少しでも減らすための戦闘拠点にするのだ。


 その為にタイミングを計り一斉に作戦行動を開始した。

 そして行われたのが学校を襲う子供達の誘拐作戦だ。


 何もしなければアメリカの捜査の手が農村共同体(コロニー)の存在に辿り着くまで、それなりの時間を稼ぐ事もできたかもしれない。

 しかし、その後はつまらない結末を迎える事は目に見えている。


 まずは捜査機関による農村共同体(コロニー)への立ち入り調査及び事情聴取だろう。

 当然それを農村共同体(コロニー)の残置要員は拒否する。

 捜査機関は強制捜査に踏み切り農村共同体(コロニー)の残置要員はそれに抵抗する。

 農村共同体(コロニー)の残置要員は武器による抵抗を始め捜査機関は応援を呼ぶ。

 激しい銃撃戦の末、農村共同体(コロニー)の残置要員は全滅し、捜査機関は現場検証を行い、日本の拠点であった事に確信を深めて終わりだ。


 それでは残置要員を残さず放棄したのと大して変わりははない。


 残置要員の人員を増やし強力な火器を持たせ抵抗拠点とすれば、アメリカ側は軍を出動させ爆撃や砲撃を加えるかもしれない。そうなってはただ一方的に攻撃され全滅するだけだ。

 日本兵は都市部で自爆攻撃を行っている。

 近接戦は危険だと判断されてもおかしくはない。

 日本の拠点の疑いがあるのなら遠距離から攻撃して安全に潰す戦術をとる可能性はある。


 だが、残置要員の人員を増やし強力な火器を持たせ抵抗拠点とした上に、子供という人質が大量にいればどうなるか……

 空爆や砲撃で一方的に潰す事はできなくなる。

 人質となった子供の親の手前、人質の命を危険に晒す強硬策は取りづらくなる。

 そして人質を無事救出しようとするだろう。


 要は「人間の盾」である。

 史実における後世、1991年の「湾岸戦争」においてイラクがこれを大々的に行っている。

 この時、イラクはクウェートを侵略した事で国際的批判を浴びた。

 アメリカ軍を主力とした多国籍軍が編成されクウェートをイラクより奪還しようという動きがでる。

 その過程においてイラクはクウェートにいた外国人を強制連行してイラク国内の重要施設に監禁し、多国籍軍が空爆できないようにしたのである。


 その「人間の盾」を得る為の「桜華乙班紫桜隊」による学校襲撃誘拐作戦である。


 だからこそ子供達を誘拐した「桜華乙班紫桜隊」のトラック隊を町の者達の車が追いかけて来ても敢えて放っておき、トラック隊は農村共同体(コロニー)の敷地内に逃げ込んだ。

 敷地内と外部は柵で隔てられ、ゲートには乙班紫桜隊の者がいてトラック隊を援護する。

 追跡して車に機関銃で弾を浴びせ足止めした。


 ここまで追跡して来た町の者達は、遠巻きに様子をみる一方、数人が応援を呼びに町に戻る。


 町からの追跡班が無かったトラック隊では、敢えて人質にしていた教師を農村共同体(コロニー)のゲート前で数人解放している。

 つまりは、誘拐犯はここにいるぞと知らせたいのだ。


 どこの農村共同体(コロニー)のゲートにも日章旗が掲げられ犯人は東洋人。

 日本との戦争が始まったと言う話しは伝わっているからもう相手が何者かはわかる。


 これにより子供を誘拐された町では大騒動となった。

 その報告は郡、州にも伝えられ、それを聞いた者は誰もが驚愕においやられた。


 国内の宗教団体の正体が実は日本軍!! 

 しかも現在、多数の子供達を誘拐して農村共同体(コロニー)に立て籠もっている!!


 ようやく内陸主要都市で暴れていた日本軍を一掃しつつあると思ったら新手の難題である。

 急ぎ陸軍部隊が急派される。


 だが、問題となったのは敵兵力である。

 いったい農村共同体(コロニー)には何人ほどの日本兵が立て籠もっているのか?


 町で子供達を誘拐した日本兵の数は、どこの町でも証言がバラバラだ。

 同じ一つの町の証言でも30人はいたという者から300人はいたという者もおり一定しない。

 突然の事態故に人々が冷静に判断できなくなっており勘違いも多かったからだ。


 一つの農村共同体(コロニー)に「桜華乙班紫桜隊」は50人が配置されている。

 そのうち町を襲ったのは40人で、10人が農村共同体(コロニー)に残っていた。


 ともかくアメリカ軍は100ヵ所にも及ぶ農村共同体(コロニー)に部隊を送り込む事になる。

 最低でも2個中隊、それに保安官と町の自警団である。

 中には日本兵が300人いたという市民の証言を信じ、包囲する為に1500人の兵士を派遣した場所もある。


 この誘拐事件解決の為に動員されたアメリカ軍兵士は戦闘部隊だけでも8万人にも及び、自警団や後方要員をも含めると約25万人が、この作戦に参加する事になる。


「桜華乙班紫桜隊」は約5000人。50倍もの兵力を引き付けた事になる。

 アメリカ国内を攪乱するという意味において完全に成功である。



 農村共同体(コロニー)は、その広大な敷地を柵で囲んでいた。

 柵の内側には広い麦畑や野菜畑がある。

 整備された道を進んで敷地に入って行くと林がある。この林が敷地内中央部を取り巻いている。

 そして林を抜けると大人の腰ほどの高さの石垣が積まれている。一部の農村地域で見られるような農家が兎除けや動物が入って来ないようにするために築くものと同じようなものだ。

 この石垣もまた敷地内中央部を取り巻いている。道路になっている所だけゲートになっている。

 その石垣の先、約1.5キロ程先の所に農村共同体(コロニー)の建物が集中して建てられている。

 その建物の配置といい形といい、殆ど砦とか要塞とかを思わせる。

 一番大きな教会らしき建物の屋上には日章旗が翻り風に吹かれていた。 

 各所に土嚢が積まれ、人員が警戒についているのがわかる。

 防備は堅そうだ。



 当初、この農村共同体(コロニー)まで犯人を追いかけて来た町民達は、敷地と外を隔てる柵にあるゲートからかなり離れた地点に車を止め監視していた。

 発砲されたからだ。

 しかし、暫くすると発砲した誘拐犯の仲間達は日章旗を持って敷地の奥に退散してしまう。


 町民達は恐る恐る前進を開始した。

 そして敷地内に踏み込んで行く。


 そして林を抜け石垣に辿り着き第二のゲートを抜けたその時だ。

 町民の一人が突如吹き飛んだ。

 地雷だ!

 地雷が埋めてある。

 地雷を踏んだ者は即死していた。


 最初のゲートで足止めしたのはトラックが通過した後に地雷を埋めるためだったのだ。

 これで町民達は容易には建物に接近できなくなった。

 町民は石垣の所で待機し応援を待つしかなくなった。


 時が経ち、町民が続々と駆け付けて来た。

 みんな手に手にライフルや拳銃を持っている。

 自警団の登場だ。

 子供を誘拐された親達も当然駆けつけて来た。


 しかし、目の前には地雷原。

 石垣の所から「子供を返して」と悲痛な叫びを上げる事しかできない。


 血気に逸る若者が一人、道路ではなく石垣を飛び越え前に進み始めた、と思ったその瞬間、爆発していた。やはり地雷が埋まっていたのだ。

 建物の周囲は地雷原。

 それをその目で知ると町民達には何もできなくなった。完全に手に余る事態だ。


 早い所では数時間のうちに軍隊が駆けつけて来た。

 だが、遅い所では1日経っても軍隊はやっこない。


 未だ主要都市や港で日本軍を相手に激戦を繰り広げている部隊もある。都市によっては日本軍の火炎放射器で発生した火災の消火や市民の救助で忙しい部隊もある。

 湾岸大都市や他の被災地で救援活動にあたっている部隊もある。

 速やかに全部の事件現場に行ける筈もなかった。 


 そして駆けつけて来た陸軍部隊にしても子供を人質にされては直ぐに手を出せるわけもなかった。

 駆けつけた陸軍部隊は石垣に沿って展開し建物群を包囲する。

 問題は2キロ先の建物に誘拐された子供がまだいるかだが、その問題は直ぐに解決する。


 誘拐事件の翌日、「桜華乙班紫桜隊」の狗達は誘拐した子供全員を連れ出しそれぞれ狗一人が子供一人を抱き上げて建物から500メートルほど離れて、わざとらしく家族や自警団、陸軍の兵士達に見せつけたのだ。


「ママ―!」

「ウェ――――ン」

「パパ―!」

「パパ―!、ママー!」

「ヒック、ヒック」


 子供達は泣いたり叫んだりもがいたり暴れたりする。

 しかし、狗達は決して子供を放さない。


 それを見て家族達が必死に叫ぶ。

「お願いわたしの娘を返してぇぇぇぇ!」

「マリアーーーーー!!」

「金を払うから息子を返してくれ!」

「ビリーーーーー!!」

「坊やを返してぇぇぇぇ!」

「頼む! なんでもするから子供をかえしてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 あまりの悲痛な親と子供の姿に自警団や兵士達の中には涙ぐむ者もいた。

 憤る者もいた。

「卑怯者め!! 子供達を人質にとるとは何て汚い真似を!!」

「そうだ、最低の糞野郎たちだ!!」

「ぶっ殺してやりてぇ」 


 だが、狗達は親達の悲痛な叫びなど聞こえなかったかのように子供を連れて建物に入って行ってしまっ。た。


 臨時司令部では指揮官と参謀達が状況確認に慌ただしい。

「おい、子供達の人数は確認できたか!」

「はい! 32人いました。誘拐された人数と合致しています」

「そうか、取り敢えず最悪の事態はまだ起きていないという事だな」

「はい、しかし、こうも地雷原に守られていましては……」

「地雷原は約1キロのようですが……」

「それをどうにかする作戦を考えつくのがお前ら参謀の仕事だろう。給料分働け!」

「「はっ! 考えます」」


 こうした遣り取りが100ヵ所の「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)で行われていた。

 そして事態は膠着する。


 地雷原に子供の人質が多数とあっては強硬策は取りづらい。


 殆どの現場で、まず行われたのは犯人へのお定まりの説得である。


「犯人に告ぐ。君達は完全に包囲されている。もう逃げ場は無い。人質を解放し武器を置いて投降しろ。君達の身の安全は保証する!!」


 だが、狗達がそれを受け入れる筈も無かった。黙殺である。


 アメリカ軍は説得を開始すると共に、取り敢えず建物を建設した会社や、農村共同体(コロニー)で働いた者を捜し、建物の配置や内部構造を知ろうとしたが、これが難航する。

 誰も知っている者がいない。


 それもその筈である。

「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)の建物の建設や農作業は全て不法入国したメキシコ人を使っていたのだ。


 不法入国したメキシコ人を農場が雇う事は珍しくも無い。

 同胞のアメリカ人よりも安く、しかも働き者を雇えるという事で、多くの農場が特に収穫期に一時雇いする。

 メキシコ人は収穫時期を迎えた農場をグループで転々と移動する場合もある。

 中には不法と分かっていても住み込みで働かせている農場もある。


「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)で働いていたメキシコ人も今頃はどこか遠くの別の農場で働いているか、稼いだ金を持って国に帰っているかしているだろう。

 下手にそのメキシコ人を国内で捜し出そうとしても相手は不法入国している身だけに、官憲には警戒して名乗り出る筈もないし逃げ出すのがおちである。


 説得は続けられていたが反応は無く、内部構造もわからない。

 気になるのは建物内部にどれだけの備蓄食料があるかだ。


 食料は大量にあった。 

 この年に収穫された農作物が農場内の倉庫に山積みされていた。

 他にも最初から籠城するのはわかっているのだから大量の物資が貯蔵されている。

 しかも籠城の人数は人質を含め100人程しかいないのだ。

 1年や2年、余裕で籠城できるだけの食糧が貯蔵されていた。



 こうして、「桜華乙班紫桜隊」とアメリカ軍と睨み合い膠着状態に入る。


 しかし、その裏では、100ヵ所の「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)から無電が発せられていた。


「こちらコロニーW、鷲は食いついた」

「こちらコロニーE、鷲は食いついた」

「こちらコロニーR、鷲は食いついた」

「こちらコロニーT、鷲は食いついた」

「こちらコロニーY、鷲は食いついた」

「こちらコロニーU、鷲は食いついた」

「こちらコロニーI、鷲は食いついた」

「こちらコロニーO、鷲は食いついた」


 それぞれの農村共同体(コロニー)から無電が飛ぶ。

 そして全部の農村共同体(コロニー)より「鷲は食いついた」という無電が発せられたのは誘拐事件より4日後の事である。


 そして、どこかの場所より全農村共同体(コロニー)に指令が発せられた。

「鷲を殺せ」

 その短い電文を受信した農村共同体(コロニー)では、狗達が準備されていたとある装置のスイッチを押す。

 そして大爆発が起こった。

 物凄い爆発だった。地面が揺れ土煙がもうもうと立った。

 悲鳴と絶叫が辺り一帯に響き渡る。


 爆発が起きたのは、アメリカ兵が建物を包囲し待機している石垣の周辺と、アメリカ側の臨時司令部が設置されていた場所である。


「桜華乙班紫桜隊」のやる事は最初から籠城戦であり、持久戦である。

 包囲される事が前提だ。

 最初から包囲される場所は決まっている。

 ならば包囲する側をこちらの都合の良い場所に誘導し配置させる事もできるだろう。


 その為に第二ゲートの近くに司令部を設置するのに都合の良い空き地を設け、兵士が包囲するのに丁度いい石垣を建物周辺に構築した。数年かけてメキシコ人労働者を使い作業させて完成させたのだ。

 そしてその位置の地面に大量の爆薬を埋め仕掛けを施しておく。農場内の建物から有線で起爆できるように。この爆薬の設置だけは白人系工作員が行っている。


 アメリカ軍はその罠に見事にひっかかった。

 日本側の目論見通りに第二ゲートの近くの空き地に臨時司令部、人質の家族の待機・休憩場所、救護所、補給所、予備隊の待機場所を設置し、石垣に沿って兵士を配置したのだ。


 後は爆破するだけ。

 ただし、1カ所の農村共同体(コロニー)で爆発が起きれば、他の農村共同体(コロニー)にもその情報が伝わり、アメリカ側を警戒させ事になるだろう。

 その為には、全部の農村共同体(コロニー)でタイミングを合わせて同時に爆発させる必要がある。

 その為に無電での連絡が行われていたのだ。


 タイミングを合わせての一斉爆破による面での攻撃。躱しようもなかった。


 爆発した場所は酷い有り様だった。

 多くの人体が千切れ吹き飛んでいる。どれが誰のものかわからない肉片や身体の一部が散乱し夥しい血が地面に飛び散っていた。

 即死した者も多いが、負傷し血塗れで呻き声や悲鳴をあげている者もいる。

 片足を吹き飛ばされ傷口から血を流し這いずっている者もいる。

 右腕の肘から下がなく左手で右腕のあった場所を押さえて呆然と座り込んでいる者もいる。

 下あごを吹き飛ばされ血が流れ落ちるのも構わず、虚ろな目で上を向いている者もいる。

 腹の傷を押さえながら地面で胎児のように丸まって唸っている者もいる。

 他にも満身創痍と言うしかない者が大勢いた。

 多くの者が傷つき血を流している。


 四肢が無傷の者もいたが、爆発の衝撃で脳を揺さぶられ鼓膜をやられたのか、まともに動けない者も少なからずいた。


 現場は負傷者の救助で大変な騒ぎとなった。

 臨時司令部が壊滅しているので指揮系統も定まらない。

 混乱と狂騒。それが爆発現場の状況だった。


 これにより、人質救出作戦は一時棚上げになった。

 まずは負傷者の救出である。

 しかも建物を包囲する形で兵士達が展開していた為、救助する場所は広範囲となった。


 人質になっている子供の親達も大勢死んだ。

 これで実の親を亡くした哀れな孤児が大勢出る事になる。


 アメリカ側は、負傷者の救助と、新たな部隊の派遣、他に爆薬が埋められていないか周囲の安全確認の為に、相当な時間を費やす事となる。


 これにより人質救出は更に長期化する事になる。


 この爆発により数万人のアメリカ兵が死に、やはり数万人が負傷した。

 僅か5000人の「桜華乙班紫桜隊」が数倍の損害を与える事に成功したのである。

「桜華乙班紫桜隊」はアメリカ軍を引き付け、打撃を与えて損害を出させ、長期間貼り付けにするという作戦目的を達成しつつあった。


 それはアメリカに取り貴重な兵力を損耗し、なおも兵力を拘束されるという事であった。


「桜華乙班紫桜隊」の持久戦はまだ始まったばかりだ。

 これからアメリカ側がどのような作戦に出て、どのようにこの件を解決していくつもりなのかはわからない。

 しかし、確実に言えるのは、まだアメリカ側の損害が増す事は確実である。


 アメリカ本土での戦いはまだ終わらない。

 終わりを見せない。


 それはアメリカ政府の威信を大いに傷つける事になる。 


【to be continued

【筆者からの一言】


アメリカ側からすれば、立て籠もる日本軍の兵力は不明で、建物の周囲には地雷原、それで子供を数十人も人質です。

それはもう、長期化するでしょう。

くっくっくっ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ