摂政戦記 0086話 方針
【間抜けで使えないウジ虫のような筆者からの心からのお詫び】
申し訳ございません。
本日、一話抜いて投稿してしまいました。
第86話「誘拐」は第87話に移動となりました。
第86話の内容は新たに題名「方針」として中身を一新しております。
何とぞご容赦下さい。
誠に申し訳ございませんでした。
1941年12月中旬 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』
「そんな馬鹿な! それは間違いないのか?」
ヘンリー・モーゲンソウ財務長官が驚きの声を上げた。今、聞いた事が信じられないのだ。
「間違いない。西海岸一帯にとどまらずロッキー山脈を越えて中西部どころか東部にまで達した物もある」
しかし、ヘンリー・ルイス・スティムソン陸軍長官は確信を持って言っている。
「本当に兵士が?」
コーデル・ハル国務長官も未だ半信半疑という趣きで確認する。
「信じられない事だが本当だ。その兵士による銃撃や自爆攻撃で死傷者が続出している」
スティムソン陸軍長官の声音にも信じたくはないが、信じるしかないという成分が含まれていた。
「クレイジーだ! クレイジー過ぎる。日本兵は異常者の集まりなのか!?」
ヘンリー・アガード・ウォレス副大統領が席から立ち上がり両手を広げて困惑するポーズをとってみせた。
ルーズベルト大統領の顔色も悪い。
大統領執務室に6人の者が集まり会議をしていた。
この部屋の主でありこの国の主でもあるフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領
ヘンリー・アガード・ウォレス副大統領
ヘンリー・モーゲンソウ財務長官
コーデル・ハル国務長官
ヘンリー・ルイス・スティムソン陸軍長官
ウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官
以上の6人である。
ルーズベルト政権の中枢を担う者達と言ってよい顔ぶれである。
スティムソン陸軍長官が、この会議である報告を持って来た。
何とアメリカ各地に気球に乗った日本兵が舞い降りている。
日本兵は降り立った土地でアメリカ人を銃撃し、最期には自爆攻撃しているという。
既にアメリカ各地で犠牲者は200人を超えた。
今はまだ、その人数は多いとは言えないが、報告が届いていないだけかもしれない。
アメリカ国内の通信網が被害を受けているので、僻地や地方の状況はわかりにくいのだ。
「この事は既に市民の間に広がりつつあります。あまりにも広範囲で目撃者と被害者が多く、既に新聞もかぎつけたようです」
スティムソン陸軍長官が憂いを帯びた声音で報告する。
「後で市民に向け注意喚起をする発表をしよう」
ルーズベルト大統領が難しい顔をしてそう述べた。
「しかし国民の間にパニックが起きませんか?」
ウォレス副大統領が危惧するところを述べたが、ルーズベルト大統領は苦渋に満ちた表情と口調で言葉を返した。
「その恐れは多分にあるが、現に犠牲者が出ているのだ。政府が何も教えず犠牲者が更に増え続ければ国民は政府を信用しなくなる。もっとも既に信頼は地に落ちているかもしれないがね」
その自嘲気味のルーズベルト大統領の言葉に、この場に居る者には慰める言葉を言える者はいなかった。
あまりにもアメリカの現状は酷い。
これで国民はルーズベルト大統領を信頼し頼りにし支持していると言っても空々しく聞こえるだけだろう。
「日本がどこから気球を飛ばしているのかは、わかったのかね?」
ルーズベルト大統領の問いにスティムソン陸軍長官は首をふった。
「まだわかりません。調査している途中ですが、恐らく西海岸に上陸した日本軍が飛ばしている可能性が高いかと」
まだアメリカは日本軍の有人気球が日本本土から太平洋を遥々こえて飛んで来たとは思っていなかった。
西海岸にとりついた日本軍が飛ばしていると推測していたのである。
現在、捕獲した気球を調査している最中であり、その構造も詳しくは判明していない。
史実においても、日本軍の気球爆弾は当初、アメリカ本土西部の収容所に収容された日系人が飛ばしているのではないかという疑惑がもたれ、日系人収容所の内部が徹底的に調べられたという事実がある。
それを鑑みれば西海岸の日本軍部隊が気球を飛ばしているという推測はおかしなものではないし、事実少数ではあるが、西海岸沿岸の貨物船より気球を飛ばしていた。
「戦闘機で撃ち落とせないのか?」
ハル国務長官が問い掛ける。
「撃ち落とす事は可能だが、これが難しい。
まず、西海岸は戦闘機もパイロットも足りない。
原子爆弾の攻撃で被害を受けた部隊もあるし、パイロット達も日曜休暇であの攻撃に巻き込まれた者も多くいたようだ。
しかも残存する航空基地への補給が途絶えている。
それでも、民間からパイロット経験者や退役軍人パイロットを掻き集め、残っている戦闘機以外にも爆撃機や偵察機、練習機も上げて迎撃に当たっているが、あまり戦果は思わしくない。
いつどこに飛んでくるのかわからないのだ。
しかも夜も飛んでいるようだしレーダーにも探知されにくい。
それに加え、西海岸に上陸した日本軍を空襲し足止めするという任務もあるのだ」
スティムソン陸軍長官は苦虫を嚙み潰したような顔をして答える。どうにもならない、と暗に言いたげだ。
「西海岸への戦闘機増強は?」
眉間に皺ほ寄せたウォレス副大統領が尋ねる。
「できるだけ行ってはおりますが、大陸横断鉄道を破壊されていますので、補給が行き届いておりません。機体は空を飛んで行くにしても現地はどこも混乱状態ですので、万全の受け入れ態勢とは言い難いのです」 スティムソン陸軍長官が返答したが、いい材料は少ない。
「ノックス、先ほどから黙っているが、何かないのかね?」
ルーズベルト大統領のその一言に皆の視線がウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官に集中した。
「大統領、私としましては、いえ、海軍と致しましては、ハワイの空母部隊を西海岸に上陸した日本軍殲滅に振り向けたいと思います」
ノックス海軍長官は真っ直ぐにルーズベルト大統領を見つめ提案を行った。
「それではハワイが空になるのでは?」
モーゲンソウ財務長官が懸念を口にする。
「ハワイの陸軍航空隊は壊滅状態だ。海軍の航空基地も同じだろう。空母がいなくなれば空の守りは無くなるぞ」
スティムソン陸軍長官が否定的に言う。
「だが、西海岸に上陸した敵をこのままにはしておけんだろう。有人気球を飛ばしているというのなら尚更だ。
ハワイにはまだ潜水艦部隊もある。日本軍が来たとしても陸軍はかなりの間、持ち堪える事ができるのではないか?
ならば、まずは本土の憂いを無くす事が先決だ。
西海岸の日本軍占領地への陸路進攻はサンフランシスコとポートランドが失われ、内陸の鉄道が破壊された今、直ぐにはできんだろう。
なら海路進攻だよ。
逆上陸作戦により日本軍を殲滅し気球もこれ以上飛ばさせない。
補給基地にはカナダに掛け合ってバンクーバーを使えばいい。
我が国の大陸横断鉄道は寸断されたが、カナダのは無事なのだろう。
ならカナダを使うしかあるまい。
他に何か良い手があるのか?」
ノックス海軍長官はスティムソン陸軍長官に向けて反論しまた問い掛けた。
「………………」
スティムソン陸軍長官が腕を組み難しい顔をして押し黙る。
実際、陸軍には妙案と呼べるものはない。
「どう思う?」
ルーズベルト大統領がウォレス副大統領とハル国務長官に問い掛ける。
「良き案ではないかと思います。まずは本土の安全を確立しませんと戦争はできません」
ウォレス副大統領はノックス海軍長官の案に賛意を示しハル国務長官も同調する。
「私も同意見です。ここはノックス海軍長官の案に乗るべきかと」
「よし。ではそれでいこう。ノックス、空母を呼び戻してくれたまえ。ハルはカナダとの交渉を頼む。スティムソンは海軍との連携を進めてくれ」
「「「わかりました大統領」」」
ルーズベルト大統領が決断を下した。
これによりアメリカ軍は西海岸にとりついた日本軍に対し空母部隊を中心とする部隊による反撃を決定した。
それはアメリカによる反撃の第一歩となる筈である。
しかし、それよりも一歩早く摂政の新たな作戦がアメリカ中西部と南部にて開始される。
それはアメリカ政府を更に驚愕させる事になるのだった。
【to be continued】
【筆者からの一言】
今朝掲載した第86話「誘拐」は第87話として明日10月7日午前1時に再投稿致します。
なお明日、10月7日はいつも通り午前4時の投稿も行います。題名は第88話「逃避行」となっております。




