摂政戦記 0085話 他国の動向⑦
【筆者からの一言】
バナナはお好きですか?
1941年12月13日 『中米諸国』
バナナ共和国が揺れていた。
バナナ共和国の指導者達は皆、不安に苛まれていた。
バナナ共和国。
実際にはそのような名前の国は無い。
史実における後世では政情不安な国を指すが、その数十年前には、主に中南米のある特定の国々を指していた言葉だ。
その国々ではアメリカ企業の大規模農園で栽培されるバナナが国の主要な輸出品となっている。そのアメリカ企業の大規模農園で働く現地の人々は安い労働力としてアメリカ企業に搾取されている。
国の指導者の多くは独裁者であり、アメリカ企業と結託して個人的利益を得ているので搾取されている農民については無関心だ。
アメリカ企業の利益が絡んでいるので、アメリカ政府がその独裁政権を後押ししている。
民主主義を標榜しながら独裁政権の後押しをしているのだからアメリカの民主主義も底が知れているというものである。
そんなバナナの輸出が主要産業で、政治的に腐敗し殆ど外国企業の言い成りになっている政情不安な小国をバナナ共和国と呼んだ。
そのバナナ共和国は史実でも今回の歴史でもアメリカの対日開戦宣言に同調し日本に宣戦布告をした。
最初にバナナ共和国となったホンジュラスを始めとしてコスタリカやグアテマラ。
他にもアメリカと経済的に結び付きが強い国々、ドミニカ、ニカラグア、エルサルバドル、ハイチと言った国々も日本に対し宣戦布告した。
メキシコとコロンビアは日本に国交断絶を通告した。
だが、しかし……
こうした国々の指導者達は皆一様に困惑していた。
アメリカとの関係から日本に宣戦布告をしたのはよいものの伝わって来るアメリカの戦況は悪い。
悪すぎる。
入ってくる情報は「まさか!」と声を上げたくなるような話しばかりだ。
一方的にアメリカが被害を被っている。
まさか日本がこれほどの戦果をあげるとは思いもよらなかった。
完全に想定外だ。
ただ少しは頭の片隅で溜飲が下がった気分になったのも事実だ。
アメリカは横暴だ。
中南米諸国の多くもアメリカに侵攻された過去を持つ。ドミニカ、メキシコ、ハイチ、ニカラグア、コロンビア。アメリカ軍に侵攻され、アメリカの言う事を大人しくきくようにさせられた。
日本がアメリカに宣戦布告した時、日本は同時に世界に向けて自国の立場を宣伝していた。
日独伊三国同盟を結んだだけでアメリカ、イギリス、オランダは日本に圧力をかけ石油を始めとする国民生活に必要な資源の輸出を止め在日資産を差し押さえたと言う。
そんな事をされれば日本は死ぬか戦うかしかなくなる。
それでは開戦に至るのも無理は無いだろう。
アメリカはかつてイギリスの植民地だった頃の記憶を忘れてしまっている。
イギリス本国の過度な要求に耐えかねて独立戦争を起こした頃の精神を忘れている。
今では昔のイギリス役をアメリカがつとめている。
あれだけ大国の横暴に苦しめられ独立したアメリカが今では横暴な振る舞いをする側に回っている。
だから大国アメリカの威信を傷つけた事はある意味愉快だ。
とは言うものの我が政権がアメリカの後押しを受けているのも事実。
しかも日本は原子爆弾なる大都市を一発で破壊できる強力な特殊兵器を使用しているという。
もし、それを我が国に使用されでもしたら……
宣戦布告は早まったかもしれない……
日本に宣戦布告した国の指導者達はそう不安に苛まれる。
だが、今更、宣戦布告を取り消す事などできない。
そんな事をすれば世界中のいい笑い者だ。
それでは蝙蝠だ。
それに日本が許すとも思えない。
もし、アメリカが敗北するような事になれば、日本からどのような要求を突き付けられるか。
一方的に日本に対し宣戦布告したのはこちらなのだ。
きっと過酷な要求をしてくるだろう。
小国の我が国にはそれを拒める力は無い。
ここは是が非でもアメリカに勝利してもらわなくてはならない。
小国の指導者達は固唾を飲んで日本とアメリカの戦争の成り行きに注目している。
そして複雑な思いでアメリカに勝利の女神が微笑むのを心の底から望んでいた……
【to be continued】
【筆者からの一言】
中米諸国のお話でありました。
日本が勝利した場合、かの国々は果たしてどうなるのか……




