摂政戦記 0080話 苦悩
【筆者からの一言】
ルーズベルト大統領のお話
1941年12月12日 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』
その日の夜、ルーズベルト大統領は自室で一人苦悩していた。
現在進行中のアメリカ全土を震撼させている惨劇の原因の一端が自分にあるという考えがどうしても頭から離れない。
政治的価値観から専制国家やファシズムの存在を許せなかった。
イギリス連邦はアメリカにとり主要な輸出先として経済的に死活的な存在位置にいる。それ故に経済的見地からイギリスを支えねばならなかった。
その為にドイツとの戦争を望んでいた。
そのドイツと同盟を結んだ日本が許せなかったし、日本へ輸出する石油や鉄等の戦略物資がドイツに流されてはまずいという考えもあった。
満洲の市場を開放させてアメリカからの輸出を増大させ経済にプラス要素を加えたいという考えもあった。
だから日本に圧力をかけ選択を迫った。
だが、しかし……
これ程までの激烈な反応が返って来るとは思ってもみなかった。
まさかアメリカ全土が戦場になるなど想像もしていなかった。
幾つもの港湾大都市の壊滅。
都市で繰り広げられる無差別殺戮。
現時点でさえ死者は500万人に上ると推定されている。
死者は今も増え続けている。
最終的に犠牲者がどれほどの数になるのか見当もつかない。
このような無差別攻撃、いや大虐殺は人道上、許される事ではない。
非は完全に日本にある。
だが、自分が……
そう、自分こそが日本を追い詰め選択させたのも事実だ。
戦争になる可能性は低いと考えていた。
こちらも条件は譲歩するつもりでいた。
そのうち日本が折れると思っていた。
まだ、時間はあると思っていた。
それが、こうも早く戦争という道を選ぶとは……
それに例え戦争になったとしても日本との戦争は半年もあれば終わると考えていた。
日本艦隊を撃滅し海上封鎖すれば日本は降伏すると考えていた。
戦争は海の向こうで始まり、海の向こうで終わるものだと思っていた。
まさか、日本がこのような手を使って来るとは夢にも思わなかった。
何という事だ!!
甘かった。
甘すぎた。
日本の力を甘く見ていた。
そして問題は……
我が国は致命的なまでに打撃を受けている。
将兵が倒れ武器が破壊されようと、国内が無事ならば時間をかけさえすれば、幾らでも補充はできる。
軍隊は再建できる。我が国にはそれだけの力があった。
人的資源、エネルギー資源、そして工業力。それらを生かし強力な軍隊を生み出す力を我が国は持っていた。
そうだ。持っていただ。
もはやそれは過去形になった。
それは失われてしまった。
いや、回復は可能だろう。
時間をかければだが。
その時間を日本が与えてくれるとは思わない。自分が同じ立場に立てばそうする。
今朝の閣僚会議では日本との講和を言い出す者が複数いた。
無理もない。
ここまで一方的にやられてしまっては……
しかし、開戦宣言をして僅か数日で、こちらから講和を求めるなど国の威信に関わる。
国家としての体面に傷がつく。
何より大勢の国民が亡くなっているのだ。
この代償を払わせずして日本と講和など……
もはや、自分が歴代大統領の中で、最も大きな政治的判断の誤りをおかし、アメリカ史上最悪の惨禍を招いた史上最悪の最も愚かな大統領と言われるのは確実だろう。
そのうち共和党からも国民からも批判が殺到するのは目に見えている。
その屈辱の評価も批判も甘んじて受けよう。
だが、せめて、せめて、この惨劇で亡くなった国民に対する償いとして、日本を叩き潰さなくては……死んでも死にきれない。
だが、どうすればいい。
日本は原子爆弾を使っている。
あれをこれ以上使われたら本当にアメリカ国民は滅亡しかねない。
我が国も原子爆弾を持ちたいが、これから開発を開始しても最低数年はかかるらしい。
イギリスも同じような状況らしい。
瞼を閉じれば大勢の人々が原子爆弾の劫火の中で苦しみながら死んでゆく姿が見えるようだ。
赤子が、少年少女達が、働き盛りの男女が、老人達さえも……
何の罪も無い大勢の国民が苦しみながら死んでいく。
こんな事態を招いた愚かな大統領、この私を呪いながら死んでいくのが目に見えるようだ。呪詛の言葉が聞こえて来るようだ。
私の責任だ。
大統領になる時、この国を守ると宣誓したのに。
それなのに……
この国民の死に対する責任は……
講和、戦争、原子爆弾、大量虐殺、日本、国民、色々な言葉が頭のを駆け巡る。
その日、ルーズベルト大統領はとうとう一睡もできなかった。
翌朝、大統領を起こしに来た執事は憔悴しやつれきったルーズベルト大統領の姿を見て驚愕する。
頬はこけ目は落ちくぼみまるで生気が無かった。
それに加え大統領の頭髪は白髪が多くなっていたとは言え、まだ黒髪も残っていた。しかし、一夜にして全てが白髪と化していたのである。
ルーズベルト大統領の苦悩はそれ程大きなものであった……
【to be continued】
【筆者からの一言】
さて、どうするのでしょうルーズベルト大統領は?
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
昨夜は日テ●で「天空の城ラピュ●」を放送していたので見ました。これまでに何度見たかわからないぐらい見ていますが、何度見てもいいですね。
【これは運命に出会った少年の物語】
スパーは崖の上に立っていた。
恐くは無いと言ったら嘘になる。
だけど嘘を蹴って真を問うのがインディアンの中のインディアン、リブジー族の男の道だ。
下を見た。
満々と水を湛えた湖が広がっている。
この崖から湖に飛び込めてこそ真の男になれる。
ふっーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
目を瞑り大きく深呼吸した。
腹に力を入れ覚悟を決める。
眼を開いたその時だ。
気配を感じた。
後ろを振り返った。何も無い。
いや視界の上方に何かがひっかかる。
澄んだ青い空を見上げれば何かがあった。
空を飛んでいる。
ヒコーキーと言うものだろうか。村長に聞いた事がある。
だがヒコーキ―なら鳥の形をしている筈だ。
あれは丸くて下に四角い箱が付いている。
何なのだろう?
それはぐんぐん近付き頭の上を越して飛んでいく。
そう思った時だ、突然、箱が揺れ出しだ。
どうやら四隅をロープで繋いでいたらしいが、そのうちの片側2本が切れたようだ。
箱の中から何かが落ちて来る。
人だ!
黒い服を着た人だ!
少女のようだ!
少女が空から落ちて来た!
いや、箱から落ちて来た!
少女は気を失っているようだ。
目を瞑って頭から落下して来る。
助けなければ!
このままだと少女は湖に落ちるだろう。
落下する少女が崖の前を落ちて行く時、飛びついた。
彼女の頭を庇いかき抱くようにする。
そして湖に飛び込んだ。
凄い衝撃だ!
でもこれくらいなら大丈夫。
かなり下まで潜った。
でもこれくらいなら大丈夫。
少女をしっかり抱えて泳ぎ湖面に顔を出した。
少女はまだ、気を失ったままだ。
彼女を抱えながら泳ぐのは力がいる。
でもこれくらいなら大丈夫。
泳いで、泳いで、泳いで、やっと陸地についた。
少女はまだ、気を失ったままだ。息はしている。
二人ともびしょ濡れだ。
服を乾かさなくては。
火を起こさなきゃ。
でも、この子の服はどう脱がせたらいいんだ?
脱がし方がわからない。
村の女の人を連れて来るか?
いや、このままにはしておけない。
村まで背負っていくか。
スパーは少女を背負い村を目指して歩き始めた。
背負われた少女の名は「タの4番」という。
【つづく】




