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摂政戦記 0069話 提供

【筆者からの一言】


当然この手も使う訳で……というお話。

 1941年12月8日 『アメリカ インディアン保留地』


 ナバホ・ネイション……それはナバホ族準自治領、もしくはナバホ族国等と訳されるナバホ族の居住地域のことである。アメリカ政府が定めたナバホ族のインディアン保留地だ。

 アリゾナ州、ニューメキシコ州、ユタ州、コロラド州の4州の州境の地にその保留地はある。


 西部開拓時代、東部を支配していたアメリカ政府は西部に進出するにあたって、その地に住むインディアンの諸部族と争った。

 何度もアメリカ軍とインディアンが戦争し、そしてインディアンが敗北した。

 その結果、インディアンの諸部族はアメリカ政府と協定を結び定められた地域に住む事になる。

 インディアン保留地の始まりだ。


 当初はそうしたインディアンの住む土地にも肥沃な大地があったが、膨張する白人の人口はその土地を求め、結局、アメリカ政府は更にインディアンを別の地に追い出すか保留地を縮小する。

 インディアンは保留地の中でも荒れ果てた大地に住むか、更に他の土地に強制移住させられた。


 強制移住は頻繁に行われたが、その中でもチェロキー族の強制移住は犠牲者が多数出て「涙の道」と呼ばれている程だ。

 1838年、アメリカ政府はテネシーやアラバマ付近に住んでいたチェロキー族を軍隊を使い約1300キロ離れたオクラホマに強制移住させた。

 その時、チェロキー族には政府から僅かな金が与えられたが食料を売る業者が足元を見て法外な価格で食料を売りつけた為、直ぐに食糧不足に陥った。

 しかも季節は冬だった。飢えと寒さで歩けなくなった者や病人が続出したが、この移動は80日間で行うものと定められていた為、歩けなくなった者達は見捨てられていく。

 その結果、約1万3000人のチェロキー族のうち4000人が死んだとも6000人が亡くなったも言われている。

 生き残りはオクラホマの保留地で暮らす事になる。


 そんなインディアンの保留地がアメリカ全土に散らばっている。

 部族ごとに保留地をあてがった結果だ。

 数百人が住む保留地もあれば数万人が住む保留地もある。

 大抵の保留地は州の隅っにある場合が多い。どこでも厄介者扱いだ。


 そしてナバホ・ネイションもそんなインディアン保留地の一つだ。


 今、そのナバホ・ネイションに一人の日本人をリーダーとした数人のグループが入り込んでいた。


 

「これだけの物を我々に与えてどうしようというのだ?」


 ナバホ・ネイションの代表機関である協議会に名を連ねる者が固い口調で問い掛ける。


 この日、日本国から来たという者達が、昔、居留地を飛び出して行方知れずになっていた同族の者を案内役として突然訪れた。

 日本人は牧師の恰好をしており、宗教団体が病人や子供達の為に援助物資を持って来たという形で、政府のインディアン管理局の監視の目を潜り抜けて来たらしい。


 だが、持って来た物が問題だ。日本人はトラック5台で来たが、確かに医薬品が積まれているが、その下には小銃や拳銃とその弾薬が大量に隠されていた。

 それを全て無償でくれるという。


「好きに、お役立て下さい。我々は互いに白い人のいうところの有色人種。

我が国は同じ有色人種として、あなた方の歴史と今の暮らしに同情しています。

その境遇を同じ有色人種として見過ごせなかっただけなのです」


 そう言って日本人は去っていった。

 

 当然の如く、この日本人は閑院宮摂政に送り込まれた工作員だ。

 ただし純粋な日本人では無い。

 やはり朝鮮や中国で孤児だった者達であり「桜華乙班蒼桜隊」に所属する。

 この部隊は狂気なまでにアメリカ人を殺すようにとは洗脳されていない。

 何年も前から日系人としてアメリカ各地に潜り込み色々と準備して来た。

 インディアンに武器を渡した後は、ゲリラ戦を行う予定である。 



 日本人から武器と薬を提供された協議会の者は困惑していた。


 この贈り物をどうしたものか。

 武器はいらないと言おうとも思ったが、薬は是非とも欲しい。

 インディアンの暮らしは貧しく病人の為の薬は貴重だ。

 結局、言い出せないまま受けて取ってしまったが……


 ともかく臨時協議会を開こう。そう決めると、若い者達を連絡に派遣するのだった。


 この後、ナバホ協議会が開かれたが、その時には日本とアメリカが戦争状態になっている事がナバホの地にも伝わっていた。

 そういう事か……

 と協議会の全員が察する。


 日本は我々をアメリカ政府に歯向かわせたいのだと……


 だが、それは無理な話しだ。

 ナバホ族の人口は少ない。

 いや、インディアンの人口そのものが少ない。

 アメリカ全土で35万人しかいないのだ。

 かつては数千万とも1億とも言われた人口は白人の迫害により激減してしまった。


 もはやアメリカ政府に立ち向かう事などできはしない。

 協議会はそう結論付け、医薬品は使うが、武器は隠す事に決める。


 だが、しかし……


 白人への不満はナバホ族に充満していた。


 つい数年前もナバホ族の家畜の羊が半分以上殺されたばかりだ。

 アリゾナ州とネバダ州の境、ブラックキャニオン渓谷を流れるコロラド川に建設されたアメリカ有数の巨大なダム、ボールダーダムに悪影響が出るという理由でだ。

 羊の放牧で土地が荒れ土砂がダムに流れ込むからという理由でだ。


 そんな馬鹿な!


 抗議はしたが聞き入れられず、殺された羊の補償も無かった。


 白人の暮らしの為に俺達はどこまで踏みつけにされねばならんのか!!


 その怒りがナバホ族の中に渦巻いていた。


 そんな時だ。

 突然、ボールダーダムが破壊されたという話しが伝わって来た。

 見に行くと本当に破壊されている。

 日本軍がやったという話しだ。

 しかもアメリカ全土で日本軍が暴れ回り憎き白人を殺しまわっているという。


 チャンスだ!

 白人をやっつける絶好のチャンスだ!


 年寄りや協議会は慎重だ。

 白人に勝てる筈がない。大人しく従うしかないのだと諦めている。

 

 だが、しかし、いつの時代でも、どんな民族でも熱き血潮の暴走というのは若者の特権だ。

 ナバホ族の若者達の一部が日本から贈られた武器を手にしてしまった。

 手にしてしまったのだ。


 彼らは、自分達を監視しているインディアン管理局の監視所を襲い、職員を射殺、監視所を焼き居留地から出て近くの街に向かう。

 ナバホ族反乱の始まりである。



 こうした事はナバホ族だけではなかった。


 オクラホマ州でも同様な事が起こる。

 かつてオクラホマは、アメリカ政府が西部開拓時代にインディアンを集めて暮らさせる為の地として利用しようとしていた場所なのだ。

 だから強制移住させれられて来たインディアン部族の保留地がたくさんある。

 アメリカで一番である。


 当然、オクラホマにも日本の工作員が暗躍する姿が見られた。

 それだけではない。

 大きなインディアン保留地のあるアラバマ州、ルイジアナ州、サウスダコタ州、ワイオミング州等でも日本人工作員の姿が見られた。

 そしてインディアンの蜂起が始まった。


 どこの部族も生活苦と白人による差別とで苦しめられている。

 インディアンには選挙権さえ無いから政治を動かしたり、政治家に立候補して自分達の主張を政治に反映させる事すらできない。


 史実においてインディアンに選挙権が認められたのは1948年の事である。

 民主主義だの人民の権利だの言う国の実態がこれである。


 年寄りや家族持ちは不当な待遇を諦める事も耐える事もできるだろう。

 だが、若者の中には耐え切れない者もいたのだ。

 ましてや、大量の武器を見せられては……


 全部族というわけではない。殆どは若者達の暴走だ。まだ数も少ない。

 しかし、アメリカ政府に対する反乱の火の手は上がった。


 インディアン蜂起の知らせは全米を瞬く間に駆け巡る事になる。

 これは閑院宮摂政麾下の白人系工作員の情報操作によるものだ。


 アメリカの一般市民の白人は、インディアンがどれだけの人口なのか知る者は少ない。

 現代日本において、アイヌ民族の存在は知っていても、人口はどれほどなのかは知る人が少ないのと一緒だ。

 だが、インディアンが白人に好意を持つ筈が無い事ぐらいは、歴史を見ればわかる。

 それ故に、インディアン蜂起の報は多くの一般白人市民に不気味な恐怖を与える事となったのである。


 そして、それこそが閑院宮摂政の狙いだった。

 実戦力としてのインディアンには微塵も期待していない。

 しかし宣伝戦略としては役に立つという判断である。


 日本だけでは無い。国内にさえ敵がいる。それがお前達アメリカという国なのだと……

 

 そんな閑院宮摂政の思惑を知る筈もない若きインディアン達は、己が情熱の求めるままに、インディアンの未来の為に、アメリカ政府に戦いを挑んでいく。

 彼らがどのような運命を辿る事になるのかは、まだ誰も知らない……


【to be continued】

【筆者からの一言】


当然、インディアン以外の人達にも声をかけますが、それはもう少し後で。


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