摂政戦記 0067話 開戦 第八幕 占領
【筆者からの一言】
テロばかりじゃありません。と、言うお話。
第60話の後書きにて無差別大量殺戮を行う理由を第67話で書くと書きましたが、すみません第68話の間違いでした。
同じく無差別大量殺戮の国際的な反応についての摂政の見解を第70話で書くと書きましたが、すみません、これも第73話の間違いでした。
申し訳ございません。
1941年12月8日 『アメリカ大平洋岸 オレゴン州&カリフォルニア州』
オレゴン州の小さな港町クーズ・ベイ
「わかった。抵抗しなければ全員無事で逃がしてくれるんだな」
青い顔で絶え間なく額に流れる汗をハンカチで拭きながら町長は目の前の指揮官だという男に念を押す。
「お約束しましょう。ただし使うのは西への道だけです」
黒い軍服(野戦服)を着てシュタームヘルム型のヘルメットを被っている東洋人の男が流暢な英語で答える。
「わかった。町のみんなに話す」
町長にはその言葉を信じるしかなかった。
今朝、突然、中型の貨物船3隻が沖合に現れ、複数の小型ボートを吐き出した。
それには武装兵がたくさん乗っていた。
全員、黒い軍服(野戦服)を着てシュタームヘルム型のヘルメットを被っている。
そして一人が旗を持っていた。日本の旗だった。
突然の事にそれを見て驚いた町民達が警察と町長の儂に連絡して来た。
日曜の朝でのんびりいい夢を見て寝ていたのに叩き起こされ、何事かと駆け付けた時には既に砂浜には1000人以上の武装兵が上陸して、もはや手の付けられない状態だ。
警官にもどうしようもない。
あまりに人数が多い。
何せ人口5000人たらずの町なのだ。警官もそれほど多くない。近くに軍隊も基地も無い平和な町なのだ。
取り敢えず武装兵の指揮官だという者と話す事になった。
相手は日本軍を名乗った。
既にアメリカと日本は戦争になっているという。
そんな話しは全く聞いていないので驚いた。
ともかく相手の要求は町民全員の町からの退去。
大人しく退去すれば危害は加えないという。
町にある車やトラックは病人や老人、子供を運ぶのに使っていいという。
その間にも兵士の上陸は続き、既に2000人以上になっている。これでは兵隊に抵抗しても碌な事にはならないのは目に見えている。
町民の中には銃を持ち出して来ている奴もいるが説得しよう。
こういう連中の相手は軍と政府の仕事だ。
町のみんなをとにかく避難させなくては……
そう判断した町長はまずは武器を持って集まっている町民のグループを説得すべく歩き出した。
幸いにも町長の説得は功を奏する。他の町民達も中にはぐずる者もいたが何とか説得して全員で町を退去する事になる。
結局は2000人以上の兵隊の圧力に町民達は折れざるをえなかったのだ。
こうしてクーズ・ベイは無血占領されたのである。
こうした事はクーズ・ベイだけの出来事ではなかった。
クーズ・ベイの北隣にあるノースベンド。
クーズ・ベイから南に約170キロの地点にある港町クレセント・シティ。
更にクレセントシティから南に約80キロの地点にある港町ユリーカも占領された。
これらの港町は全て人口数千の町でそれほど大きくはない。
こうした町に住む者達の中には銃を持ち抵抗しようという者もいたが、多勢に無勢で直ぐに制圧され、町民達は大人しく町を退去する事になる。
この港町を占領した武装集団も当然の事ながら閑院宮摂政が長い年月をかけて作り上げて来た、対アメリカ戦専用強襲部隊「桜華」である。
ただし既にアメリカ各地の港町で無差別殺戮を繰り広げている「甲班」とは違う。
こちらは「丁班」である。
他の「桜華」の「甲班」「乙班」「丙班」とは少々教育が違い、狂気なまでにアメリカ人を殺す事を教え込まれてはいない。
この部隊はアメリカ西海岸の一部海岸地域を占領する事が目的であったからだ。
「丁班」が占領したクーズ・ベイ、ノースベンド、クレセント・シティ、ユリーカは西海岸にへばりつくように存在する小さな港町である。
北の沿岸大都市ポートランドと南の沿岸大都市サンフランシスコの中間にあたる地域にある。
その内陸側はコーストレーンジ山脈が連なっており、内陸部への発展性はあまり見込めない。
大きな天然の良港になる場所があるわけでもなく、何かしらの有望な天然資源は木材や海洋資源に限られている。
だから小さな港町にとどまっている。
これを軍事的に内陸部からの攻撃から守るという観点で見れば守りやすい地域ではある。
内陸方面は低いとはいえ山脈が連なり道は限られている。
主要な道路は南北を走る海岸線の道路と鉄道。
そして海。
海からの攻撃を考えないのでよいのであれば、内陸部の道は大軍の行動には向かず、ある程度の兵で守れる。
海岸線の道路と鉄道については、この周辺は河川が多く、橋を落として川を防御線とすれば、何重にも防御線ができる。
しかし戦略的価値は低い。
だが、別の意味で二つの利用価値はある。
この日、これらの港町を占領した部隊より日本に向け平文で報告が打電された。
ご丁寧に日本語の他にわざとらしく英語でも報告されている。
「大日本帝国陸軍桜華部隊は本日、カリフォルニア州とオレゴン州に上陸作戦を敢行。作戦は成功せり。
現在、我が部隊は内陸部に向け進撃中! アメリカ軍敵に非ず! 繰り返す! 我が部隊は内陸部に向け進軍中!
アメリカ軍は敵に非ず!」
つまり、これは日本というよりは全世界に向けた宣伝戦略であり、アメリカ市民への宣伝でもある。
既に日本軍がアメリカ西海岸にとりついたぞ、という宣伝だ。
それだけ日本軍は強いという宣伝だ。
町民を無傷で退去させたのもその宣伝の一環だ。
町民の口から日本軍が上陸して来た事が事実として他のアメリカ市民に伝わるだろう。広がっていくだろう。
それが他の攻撃を受けた都市との話しと合わさり、西海岸で日本軍の進撃に恐怖した住民達がパニックでも引き起こしてくれれば有り難い。
アメリカ政府が日本軍の実力を過大評価して判断ミスをしてくれれば有り難い。
世界も日本軍の実力を過大評価してくれれば嬉しい限り。
それが狙いのハッタリである。
こけおどしの宣伝戦略と言えた。
それが一つ目の利用価値だ。
二つ目の利用価値はアメリカ軍が来てからだ。
だが、恐らくアメリカ軍はこれらの西海岸に上陸した日本軍に直ぐには対応できないだろう。
アメリカ西海岸の主要な海軍基地と陸軍の兵站供給地となる筈の沿岸大都市は既に「ウラン爆弾(原子爆弾)」により壊滅している。
それには、かなりの軍艦も巻き込まれており西海岸近辺では直ぐに作戦行動できる軍艦は少ない。
陸軍部隊でも「ウラン爆弾(原子爆弾)」により打撃を受けた部隊もある。
そもそも陸軍部隊はカリフォルニア州南部とワシントン州という人口が多く産業が発展している地域を重点に配置されており、今は「ウラン爆弾(原子爆弾)」の被害を受けた市民を救助するのに全力を尽くしている。
それに軍事的に言うならポートランドかサンフランシスコを主要な後方拠点として攻略にかかるべき地域なのに、その両都市が「ウラン爆弾(原子爆弾)」により壊滅しているのだ。
そこでは多くの市民が助けを求めており戦争どころではないのが実態だ。
つまり西海岸の陸軍も海軍もすぐには動けない。
しかもハワイの真珠湾も奇襲により大打撃を受けている。
二つの空母部隊は健在だが、それは日本の機動部隊を追い求めている最中だ。
更に内陸部からの進攻も難しい。
何故なら大陸横断鉄道を始めかなりの鉄道が破壊されており、補給線の構築が難しくなっている。
この状況では、西海岸占領地域は数日は勿論の事、数週間、下手をすると月単位での持久も可能かもしれない。
それを睨んでの住民の退去でもある。
住民を退去させれば、町に残る食料や医薬品を自由に使える。それは持久戦には貴重な物資だ。
クーズ・ベイ、ノースベンド、クレセント・シティ、ユリーカという西海岸占領地域を確保した「桜華丁班」8000人の狗達は、町の資材を使い防衛陣地を構築し持久戦の態勢を固めた。
また、これらの港町で、それぞれ1隻の輸送船が独自の作戦準備を始めている。
この輸送船には「桜華丙班分遣隊」が乗船しており、上陸した「丁班」とは別の作戦を行う予定である。
「桜華丁班」8000人の狗達は別命あるまで持久戦を戦い抜く。
だが、その別命が下る事は恐らくない。
恐らく援軍が来る事もない。
そして敵陸軍が攻撃に来た時、新たな作戦が発動される。
「桜華丁班」8000人の狗達もまた、捨て駒であり餌なのだ。
しかし、それは「桜華丁班」の狗達には知らされていない。
使い捨ての狗達の持久戦はまだ始まったばかりだ。
【to be continued】
【筆者からの一言】
摂政の基本戦略はリサイクル&使い捨て。
拾ったり奪ったりしたものを酷使して使い捨てる。
鬼畜で外道で極悪人です。




