表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/74

摂政戦記 0066話 開戦 第七幕 強襲

【筆者からの一言】


当然、ここも狙います。と、言うお話。

 1941年12月8日 『アメリカ ワシントンDC ホワイトハウス』


 沿岸主要都市が核の劫火で焼かれ、同じく沿岸部の中小港と内陸主要都市で無差別大量殺戮攻撃が行われ、更にはアイアン・レンジや巨大ダム、五大湖沿岸の軍需工場が破壊され、大陸横断鉄道や各地の通信、送電網が破壊され、フォート・ノックスとデンバーの金塊が強奪されている時、アメリカの政治的に最も重要な場所、「ホワイトハウス」が見逃される筈もなかった……

 

 トラックが数台、交通規制を打ち破りホワイトハウスの正門前の道路に突っ込んで来た。

 そのうちの一台はそのまま正門に突っ込んだ。

 正門の検問所にいた警備員達がそれを制止しようし、それが無理だと悟ると直ぐに発砲を開始する。

 だが、その発砲をものともせずトラックは突進を続け検問所に体当たりして大爆発を起こしたのである。

 運転手は爆発前に飛び降りてなどいない。

 自爆攻撃したのだ。

 その場にいた警備員達はその爆発に巻き込まれ殆どが死ぬか重傷を負った。


 残りのトラックはその傍に急停車すると荷台から次々と武装兵が降りて来る。

 黒い軍服(野戦服)を着て、シュタームヘルム型ヘルメットを被り武装している。

 その中の一人は日章旗を持っていた。

「桜華」の「乙班紅桜蕾隊」の狗達だ。


 狗達は次々と未だ燃え盛るトラックと検問所の残骸の脇からホワイハウスの敷地内に侵入していく。

 

 だが、早くもホワイトハウスの正面玄関から銃を持った警備員達が出て来る。

 建物の左右からも出て来る。


 それを見た狗達の指揮官が叫ぶ。 

「進めぇーー!! ホワイトハウスを血で染めよ!! 敵の首魁ルーズベルトの首をとれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 その命令に従うべく狗達は前に進みつつ発砲を開始した。

 

 警備員達と狗達の間で猛烈な射撃が交わされる。

 どちらも一歩も退かない。

 激しく銃弾が飛び交った。

 警備員の一人が銃弾を喰らい仰け反った。

 狗達の一人が顔面に銃弾を喰らい即死した。

 双方に次々と死傷者が出る。

 ホワイトハウスの綺麗だった外壁にたちまち銃弾の痕が穿たれる。

  

 負傷し重症を負った狗の一人が最後の力を振り絞って駆けだした。負傷しているせいで、それほ早くはない。前に進むたびに何発も銃弾を喰らった。それでも倒れない。

 そして遂に正面を守る警備員のグループの一つに近付いた。

「八紘一宇の理想のために!!」

 そう絶叫すると血塗れの顔に笑みを浮かべて自爆したのである。

 その場にいた警備員3人が吹き飛んだ。


 それを見た狗達の指揮官が叫ぶ。

「命を捧げよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 正面玄関に既に負傷している狗達が殺到した。

 この負傷している狗達が命と言う名の楯となり槍となる。

 何発もの銃弾を喰らいながらも歯を食いしばり駆ける事をやめない。

 一人の狗が警備員近くに辿り着き狂気に歪む笑みを見せながら自爆した。

 爆発で狗と警備員の体が吹き飛ぶ。

 いや、バラバラになった。

 千切れた手足、頭、胴体の肉片、内蔵の欠片、そして夥しい血が周辺に飛び散る。 


 だが、それで終わらない。

 一人、また一人と傷ついた狗達が自爆し警備員達を道連れにして死んでいく。

 正面玄関前は壮絶な爆破の坩堝と化した。


 度重なる爆発に煙が辺り一帯覆いつくす。前が見通せないが警備員も的確な射撃ができない。 

 正面玄関前の火線が薄くなった。

 狗達にとって屋内への突入の好機が来たかに見えた。

 しかし、その時、ホワイトハウス右横よりアメリカ陸軍の兵士達が姿を現し狗達に向かって射撃を開始する。

 少し遅れて左横からも陸軍の兵士達が出現し散開して射撃を開始した。 


 戦争時にはホワイトハウス守備の予防措置として陸軍1個中隊がホワイトハウスの防衛にあたることになっている。

 日本の外交暗号を解読し宣戦布告をしてくると分かった時点でその措置がとられていた。

 この中隊はまだ着いたばかりで裏門からホワイハウスの敷地内に入り、裏庭に駐屯する準備を始めたばかりだった。

 そんな時、正門での異変が生じ、連絡を受け駆けつけて来たのである。


 狗達とアメリカ陸軍正規部隊の戦闘が始まった。

 開戦後、初めてアメリカ陸軍正規兵と日本兵が戦う事になった瞬間であった。

 その舞台がホワイトハウス。

 日本の軍人にしろアメリカの軍人にしろ日米戦争をシミュレートした事のある誰もが予想だにしなかった場所だろう。

 しかし、今そこは現に戦場になっている。


 その頃、ルーズベルト大統領は特別警護班に守られながら大統領執務室を出たところだった。

 ルーズベルト大統領は当初、大統領執務室を出る事に難色を示したが、特別警護班がルーズベルト大統領を説得し安全な場所に移動させようとしている途上だった。

 

 そのルーズベルト大統領は歩きながら胸の内では愕然とし衝撃を受けていた。

「信じられない」という思いでいっぱいだった。

 

 日本が宣戦布告して来た。

 しかも無条件降伏を要求して来た。

 何を馬鹿なと一笑に付した。

 それは閣僚全員の思いでもある。 

 アメリカの国力は日本の10倍だ。

 ましてや日本は生存に不可欠な資源を海外からの輸入に頼っている。

 アメリカ太平洋艦隊が出動し日本から制海権を奪い海上封鎖すれば戦争など半年もかからずに終了すると考えていた。

 戦闘はアメリカ本土から遠い西太平洋で始まり終わると思っていた。


 それがどうした事か、これは!

 安全である筈のホワイトハウスが今、攻撃を受けている!!

信じられん!! 

何かの間違いではないのか!?

 攻撃して来た者達は日本の旗を掲げているという。

 それを聞いてもやはり信じられなかった。

 夢でも見ているとしか思えなかった。


 だが、それが現実だった。


 まだルーズベルト大統領は沿岸主要都市が核の劫火で焼かれ、同じく沿岸部の中小都市と内陸主要都市で無差別攻撃が行われ、更にはアイアン・レンジや巨大ダム、五大湖沿岸の軍需工場が破壊され、大陸横断鉄道や送電網が破壊され、フォート・ノックスの金塊が強奪されている事を知らない。

 連絡はまだ入っていない。

 同時多発攻撃だった事もあるが、この時代、人工衛星、携帯電話、インターネット等という便利なものは無い。

 確かな情報が伝わるには時間がかかる。

 それを知った時、ルーズベルト大統領はどういう顔をするであろうか。


 ホワイハウス正面での戦闘は続いていた。

 狗達とアメリカ陸軍兵士達の激戦が続いている。

 激しい戦闘が続く中で狗達が押していた。

 狗達は容赦なく手榴弾を投げつけ、傷ついた狗は敵兵を道連れに自爆している。

 

 流石にアメリカ兵も笑いながら自爆してくるような者達とは戦った経験が無い。

 そもそも自爆という手段が異常だ。

 爆発後の凄惨な跡には人体の一部が肉片となって飛び散り血も飛散している。

 そのあまりの惨さと敵の異常さにアメリカ兵の中にも怯む者も出て来ていた。


 それもあり、遂に狗達の一部がホワイトハウスの一階に突入した。

 内部でも激しい銃撃戦となる。

 外部でも同様に熾烈な銃撃戦が続いている。

 

 無数に飛び交う銃弾が風切る音や途切れる事のない発砲音と負傷した兵士があげる悲鳴とうめき声が絶えない。

 いつもは平和な場所が壮絶なる戦場と化している。

 

 それまでは押していた狗達が徐々に押され始めてきていた。

 数だ。

 人数の差が出て来ていた。

 このホワイトハウスに攻撃を仕掛けた狗達は増強1個小隊70人でしかない。

 だが、ホワイハウスを守る者達の数は軽くその4倍以上いる。


 狗達で傷ついた者は敵兵を道連れに自爆している。

 それは敵を確実に減らすが、味方をもまた確実に減らしているのだ。


 それでも狗達は攻撃の手を休めない。

 嵐のように弾丸が双方に降り注ぐ中、アメリカ軍兵士も狗達もまた一人また一人と倒れて行く。

 血みどろの死闘が続く。

 双方どちらも退こうとはしない。

 激しい激戦が続いた。


 そしてとうとう狗達にも限界が来た。

 ホワイトハウス一階に突入した狗達も敢闘はしたが、敵の多さに傷つき自爆して果てた。

 ホワイトハウス正面一階部分は滅茶苦茶である。

 酷い被害の傷跡を残す事になった。


 未だ外で戦っている狗達は、もう数人に過ぎない。

 ここまで来てはルーズベルト大統領の首を取る事が叶わないのは明らかだ。

 狗達の指揮官は幕引きを決め最後の命令を叫ぶ。


「八紘一宇の理想のために! 命を捧げよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 そう叫び、自ら先頭に立ってアメリカ軍兵士の集団に突っ込んで行ったのである。

 残る狗達も指揮官に続く。


 銃撃が集中する。何発もの弾が狗達の体を貫いた。だが、突進は止まらない。


「後の狗達の為に! 一人でも多く道連れにするのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 指揮官はそう叫びながら敵兵士の戦列に突っ込み自爆した。

 残る狗達もそれに続く。

 連鎖する爆発。

 爆風は煙がその場を覆い尽くした。


 煙がはれるとそこは夥しい肉片と血の鉄の墓場となっていた。


 狗達は全滅した。

 いや、まだだ。


 アメリカ軍兵士の一人が自爆する前に撃ち倒された狗の死を確認しようと、横たわる狗の体を足で軽く蹴った、その時だ。

 狗が閉じていた眼を開け兵士に不気味な笑みを見せる。

 まだ死んでいなかった。

 その狗にはもう立つ力も無い。

 銃を持ち上げる力も残っていない。

 だが、できる事はまだある。

 自爆用の紐を引く事ぐらいはできる。

 その狗は最後の力を振り絞って紐を引く。

 爆発が起こり、蹴った兵士と近くにいたもう一人の兵士を巻き込み爆死させた。

 最期まで狗は忠実に命令を守り通したのだ。


 それを見ていた他の兵士達が金切り声をあげる。

「倒れてる奴に近付くな! 離れて確認射殺しろ!」

 

 自爆する前に倒れた狗達の体に、離れた場所から何発もの銃弾がしつこく撃ち込まれる。

 肉体を損傷させズタズタに切り裂こうとしているかのような集中射撃だった。

 それも暫く後には止む。

 狗達で生きている者は一人もいなくなった。


「こいつらいかれてやがる!」

「何なんだこの狂った奴らは」

 今やホワイトハウスの戦場跡からは、仲間を大勢殺されたアメリカ軍兵士達の怨嗟の声しか聞こえてこない。


 こうして「桜華乙班紅桜蕾隊第一小隊」の狗達は文字通り全滅した。

 ルーズベルト大統領こそ殺せなかったが、狗達は教えられた通りに戦い、力尽き、そして死んでいった。

 日本の為に任務に忠実に散っていた、これら狗達の事を日本で暮らす一般市民が知る事は無い……


【to be continued】

【筆者からの一言】


桜華部隊、初の作戦失敗!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ