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摂政戦記 0065話 開戦 第六幕 解放と強奪

【筆者からの一言】


「俺のポケットには重過ぎらぁ、その②」

今回はそんなお話。



 1941年12月8日 『アメリカ西部 コロラド州デンバー』


 コロラド州デンバー市。コロラド州の州都であり人口は32万人を超える。

 

 中西部と南部の主要都市においては、対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華乙班白桜隊」による無差別大量殺戮作戦が遂行されたが、このデンバーはその作戦リストから外されていた。


 その代わり、このデンバー市で作戦を遂行する事になったのは、フォート・ノックスを強襲しアメリカ政府の保有する金塊銀塊を強奪したのと同じく「桜華乙班薄桜隊」である。


 ただしフォート・ノックスを強襲した部隊は1個連隊2000人が投入されていたが、デンバーでは2個中隊400人ほどである。


 また、服装も「桜華」特有の黒い軍服(野戦服)と、シュタームヘルム型ヘルメットを着用する事はしておらず、普通のアメリカ人が着るような平服だ。


 この部隊の狙いもフォート・ノックスを強襲した部隊と同じくアメリカ政府の保有する金塊である。


 デンバー市内にはアメリカ連邦政府のデンバー造幣局がある。主に硬貨を鋳造している。

 アメリカ国内には他にも幾つかの造幣局があるが、他の造幣局とは違い、ここにはアメリカ政府の保有する金塊の一部が貯蔵されている。

 その量は公けにされていないので不明ではあるが、フォート・ノックス程には厳しく警備されていない事から、それほどまでには多くない量なのだろうという事は推測できる。


 故に、デンバー市に投入された「桜華乙班薄桜隊」も少ないのだ。



 デンバー造幣局攻略作戦は、まずはデンバー造幣局長とその家族、刑務所長とその家族を誘拐する事から始まった。既に前日の土曜日に誘拐している。


 これが平日だったならば朝には所長が出勤してこない事で問い合わせやら、迎えの人が来るわで作戦も一手間加えねばならず、面倒だった事だろう。

 そういう点では日曜の開戦は実に有効で功を奏した。


 次の段階はデンバー市の各警察分署周辺での無差別狙撃である。

 高い建物の屋上に狙撃班が陣取り警察分署のある通りを歩いていた市民を無差別に狙撃した。できるだけ殺さないようにした。人道主義からではなく警察に負傷者の救助にあたらせたいからだ。

 当然、分署から負傷者を救助し、また犯人を見つけ確保、もしくは射殺しよとうとする警官が出て来る。

 その警察官達を狙撃し、その場に釘付けにした。

 それが市内の分署のある場所全てで同時に行われたのだ。

 これで大半の警察官の動きを封じた。


 その次は市内十数ヵ所での爆弾テロである。

 白人系工作員が借り受けていた飲食店等を一斉に爆破した。

 爆発物は事前に新装開店する為の内装工事という理由で、人や物が出入りしても怪しまれないようにし、爆薬の原料にもなる大量の硝酸アンモニウムを運び込み作戦開始に合わせて爆発させたのだ。

 硝酸アンモニウムは肥料の原料になる。「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)で使用するという事で合法的に大量入手している。


 この爆弾テロで市民に大勢の死傷者が出た。

 市内に巡回に出ていた警官は、狙撃班への対処か、爆弾テロの現場での救助にかかりきりとなる。


 狙撃テロと爆弾テロ。これで市内は大混乱だ。

 

 そして次に行ったのは刑務所襲撃である。

 2個小隊100人がこの任務に投入された。


 デンバー造幣局の道を一本隔てた東側のお隣には、何と刑務所があり、多くの囚人が収監されている。

 西側のお隣は裁判所である。

 デンバー造幣局は裁判所と刑務所に挟まれているのだ。


 ここで誘拐して来た刑務所長とその家族の頭に銃を突きつけ、看守を脅し部隊を刑務所内に入らせ看守を武装解除する。

 そして囚人を解放させ外に出してやる。

 つまりは脱獄だ。

 囚人へは「仲間を脱獄させに来た。そのついでに出してやる」と言ったらみんな納得している。

 単純な奴らだ。 

 その時に予め持って来た拳銃や看守から取り上げた拳銃を逃げるのに使えといって囚人達に渡している。

 

 囚人達は全員が喜んで脱獄し、渡された拳銃にとても感謝をしていた。

 刑務所を襲う100人もの武装集団を前にすれば、どんな凶悪犯とて粋がる事はできないだろう。

 脱獄しろと言ったら刑務所に留まり刑期をつとめあげるなんて殊勝な事を言う者は一人もいなかった。

 

 看守達は全員、囚人の代わりに監獄に入れてやる。

 殺さないのは囚人の大量脱獄があった事を、そのうち来るであろう者に語ってほしいからだ。

 誰が来て見つけるかは神のみぞ知る。

 交代勤務の看守が出勤して来た時か、他の所用のある者か。 


 こうして囚人達が街に解き放たれた。しかも狙撃テロと爆弾テロで混乱している街に。

 警察が狙撃テロと爆弾テロでてんてこ舞いの時にである。


 囚人達は銃は持っている。しかし、金は持っていない。何をするにも金が必要だ。

 市内に身内のある者はいい。しかし、そうでない者もいる。

 あとは推して知るべし。

 街の各所で強盗が多発した。


 警察が狙撃テロと爆弾テロでてんてこ舞いの時に、更に強盗多発である。

 もう街はパニック状態だ。


 その混乱を突いてデンバー造幣局を本隊が襲う。

 造幣局長とその家族の頭に銃を押し付けたら後の成り行きは刑務所と同じだ。

 拍子抜けするほど簡単に造幣局内部に入り込み、更には金塊を保管してある金庫の扉も開けさせた。

 きっと造幣局長の家族のうち子供は双子の赤ん坊という事が効いたのだろう。

 流石に他人の子とはいえ、赤ん坊の顔に銃口を突き付けられたら怯みもする。


 金庫にあった金塊を造幣局の人間を脅して手伝わせトラックに積む。

 予想以上に金塊が多い。

 用意してあったトラックの数ではとても足りない。そこで造幣局と刑務所にあった全ての乗り物を徴発してようやく載せ終えた。


 その後は、造幣局の者を建物の一階に集める。日曜なので局員は少ない。警備員が多い。

 一列に並ばせ全員をその場で射殺した。

 口封じのためだ。

 造幣局長の家族も赤ん坊も含め全員射殺だ。

 そして造幣局に火をかけ離脱する。


 金塊を載せた数十台ものトラック隊は一路西を目指して走り出す。

 市の中央は造幣局から見て東方向にあり、そこが大混乱しているからだ。

 

 刑務所を襲った隊は金塊輸送トラック隊を援護する為に市内に残り次の作戦を開始した。

 金塊輸送トラック隊が市内を流れるサウスプラット川にかかる橋を渡り終えた後、道路を車両で強引に封鎖し通行しようとした車に銃撃を加えたのである。

 橋は他にもあるので近くにある他の二つの橋にも分遣隊を派遣し同様の作戦を行っている。

 全ては金塊輸送トラック隊のための時間稼ぎだ。

 本来なら爆薬を仕掛けて橋を爆破したいところだが、かなり大きい橋なので爆薬が大量にいる。それは無理だった。


 狙撃班のグループもできるだけ警察を釘付けにする事が求められており、夜になってから撤退予定だ。

 それまでに死んでいなければだが。


 こうして、デンバー造幣局急襲作戦は成功裡に終わった。

 

 だが、金塊輸送トラック隊が無事に逃げ切れるかのかどうかは、まだわからない。

「桜華乙班薄桜デンバー強襲隊」の逃避行はまだ始まったばかりだ……


【to be continued】

【筆者からの一言】


筆者「これは殆ど強盗事件。しかも囚人を脱獄って軍事作戦というよりも単なる犯罪なのでは?」

摂政「それがどうした。戦いは常識に捉われてはならない」

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