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摂政戦記 0063話 開戦 第四幕 破壊

【筆者からの一言】


サクサク行こうぜ!!

 1941年12月8日 『アメリカ』


 ニューヨークを始めとするアメリカの沿岸大都市で起きた史上初めての核爆発と、これも初めてである同時多発核攻撃。

 更にはアメメリカ沿岸の小中規模の各港と、中西部から南部にかけての大都市での無差別大量殺戮攻撃。


 それらの惨劇が発生した頃、アメリカ経済にとり重要な幾つかのポイントでも異変が生じていた……



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


『ミネソタ州 アイアン・レンジ』


 アメリカにおける鉱物資源の最大の採掘地は「アイアン・レンジ」と呼ばれる一帯である。

 ミネソタ州北東部に位置し五大湖最大の湖であるスペリオル湖に面している。


 この「アイアン・レンジ」にはアメリカ国内最大であり、世界的にも有数な鉱山であるメサビ鉄鉱山もある。

 ここには他にも幾つかの鉱山がありアメリカにとって重要な鉱物資源採掘地域となっている。


 史実では、アメリカが第二次世界大戦において消費した鉄の大半を、この「アイアン・レンジ」が供給したと言ってもいい程である。


 五大湖沿岸の工業地帯が発展したのも、この「アイアン・レンジ」の存在と工業用水の水が五大湖という豊富な水源により確保でき、なおかつ移送手段の水運としても活用できたからである。

 つまり鉄と水の存在が五大湖の沿岸に工業地帯を形成させた。


 その「アイアン・レンジ」の鉱山の大半が、今、武装集団に制圧されていた。

 その者達は黒い軍服(野戦服)を着て、シュタームヘルム型ヘルメットを被り武装している。


 この武装集団こそは閑院宮摂政が長い年月をかけて作り上げて来た、対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華」であり、その「乙班黄桜隊」の一隊だった。


 この部隊は鉱山一帯にいた鉱山労働者や関係者を短時間で制圧した。


 元々、「アイアン・レンジ」の鉱山会社には、以前より潜入させていた白人系工作員がおり、その長年の情報収集により綿密な計画が練られ、短時間での鉱山制圧を可能にしている。

 鉱山付近は人が少なく部隊を伏せておく場所は幾らでもあった。

 鉱山故にそこで働く者達の使う道路も限られている。

 外部との通信網も限られており、どこを押さえれば連絡を遮断できるかもわかっていた。

 それに日曜日であり、普段よりも労働者の数は少ない。


 そもそも鉱山会社が武装集団に鉱山を襲われるような事態を全く想定していなかった。

 このような事態は想定外である。つまりは油断があった。

 その油断を突き「アイアン・レンジ」は制圧された。


「アイアン・レンジ」を制圧した「桜華乙班黄桜隊」の一隊は、破壊工作を開始する。


 まずは「アイアン・レンジ」と外部を繋ぐ最重要経路、鉱山鉄道の破壊である。

 線路を数十カ所の地点で爆破し、機関車も破壊する。

 特に橋は完膚なきまでに破壊され落とされた。

 施設や採掘用機械類等も爆破される。

 持ち込んだ爆薬が使用されたが、鉱山故にダイナマイト等の爆発物も大量にあり、それも接収され、この破壊活動に使われている。

 露天掘りの場所における作業員用の道等も全て爆破された。


 そうした破壊を成功させると「桜華乙班黄桜隊」の一隊は「アイアン・レンジ」から撤退行動に移り、次の目標に向け行動を開始した。


 後に残されたのは鉱山で働いていた者達の夥しい死体と破壊された設備や機械の残骸である。

「アイアン・レンジ」が採掘を再開できるようになるのは、相当な時間がかかると思われた。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


『ミシガン州 デトロイト市』


 同じ頃、別の「桜華乙班黄桜隊」の一隊が「アイアン・レンジ」に隣接している五大湖沿岸の工業地帯を襲っていた。

 特にデトロイト市が集中的に襲われていた。


 デトロイト市は、史実における第二次世界大戦においてアメリカの生産する兵器及び軍需物資の約4割を生産し「民主主義の兵器廠」や「アメリカの兵器工場」と呼ばれたほどである。

 

 デトロイト市にある軍需企業各社の工場や、隣接するディアボーン市に世界最大規模となる予定で建設中の爆撃機を製造するウィローラン工場が破壊の標的となる。


 幾つにも分かれた戦闘班が同時刻に攻撃を仕掛ける。

 トラック数台で工場の正門を強行突破した皇軍の狗達は、そのまま工場内に突入し工員、職員を皆殺しにして施設に爆薬を仕掛け爆破する。


 アメリカ政府も軍需企業の経営者達も、まさかアメリカ内陸奥深くの軍需工場が纏まった数の武装集団に襲われる事など、全く想定していなかった。


 せいぜい破壊工作員による爆破か、スパイによる機密の奪取程度しか想定していない。

 そうした少数の不審者に対する警戒はしていても、正門から半個中隊規模の武装集団が強行突入して戦争さながらに攻撃してくるとは夢にも思っていなかったのである。

 それ故に軍需工場の多くが破壊される結果となった。


 デトロイト市の警察はこの軍需工場の破壊を阻止できなかった。

 と、言うよりも市内のメインストリートで「桜華乙班白桜隊」が一般市民を相手に無差別大量殺戮を行っており、大半の警官はそちらに派遣されていたのである。 


 こうして五大湖周辺の軍需工場は大損害を被り、軍需物資の生産に影を落とす事となった。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


『アメリカ南西部アリゾナ州&ネバダ州 ボールダーダム』


 アリゾナ州とネバダ州の境、ブラックキャニオン渓谷を流れるコロラド川に6年の歳月をかけて建設されたアメリカ有数の巨大なダムがある。

 それがボールダーダムだ。史実では1947年には改名しフーバーダムと名付けられているが、この歴史ではどうなるかわからない。


 このダムはアリゾナ州とネバダ州、更にカリフォルニア州に水と電力を供給している。

 特に発電所は1940年代において世界一の発電量を誇っている。


 史実では太平洋戦争が始まると、アメリカ軍は日本軍がこのダムを攻撃する事を懸念し、周辺に6ヵ所もの対空陣地を設置している。

 また、日本の潜水艦がコロラド川を遡ってダムを攻撃する事を恐れ、下流にハリボテの偽ダムを建設している。

 そこまで潜水艦が川を遡上し内陸奥深くまで行きつく事は不可能に思えるが、アメリカ軍は本気でその可能性を懸念していたのだ。

 このダムにはそれだけの価値があった。


 史実において戦後、平和になった日本は以後、戦争に巻き込まれる事なく平和を享受する。その過程において多くの公共事業が行われ沢山のダムも造られた。必要も無いダムが造られていると批判が出るくらいである。

 その日本における全国のダムの貯水量を全て合計した量よりもボールダーダムの貯水量は多い。それも約2倍に達するとてつもない貯水量である。

 

 もし、このダムが破壊されれば、飲料水、農業用水、工業用水、家庭用電力、工業用電力において、アリゾナ州とネバダ州、カリフォルニア州が大きな痛手を受ける事は間違いない。

 経済に酷いダメージを与える事は確実である。

 史実においてアメリカ軍が警備していたのも頷ける。


 だが、今回の歴史では日本の動きが各段に早かった。

 アメリカ軍が防備を強化する前に、ボールダーダムは「桜華乙班黄桜隊」の一隊の手に落ちた。

 流石に開戦当日にアメリカ本土のダムが攻撃を受けるとはアメリカ軍の参謀達も考えが及ばず、一歩遅かったのである。

 

 ダムと発電所を制圧した皇軍の狗達は速やかに爆破準備に入る。


 これだけの巨大なダムを破壊するには大量の爆薬が必要となる。

 流石にそれだけの爆薬を海路密輸するのは他の密輸計画に支障が出る。アメリカ国内でダミー会社を通して入手するのも量が量だけに目立つ可能性が高い。


 そこで調達されたのが肥料の原料としての硝酸アンモニウムである。

 全米に100ヵ所以上ある「愛と平和の教団」の農村共同体(コロニー)で使用するという体裁がとられ調達された。

 硝酸アンモニウムは肥料の原料にもなるが、爆薬の原料ともなり一定の条件下では爆発を起こす。

 史実では何度か事故により大爆発を起こしたり、爆弾テロで使われている。


 その硝酸アンモニウムを大量にダムと発電所に仕掛け一斉に爆破したのである。


 大気が震え大地が揺れた。

 凄まじい衝撃波も発生する。

 その爆発を見届けていた狗達は立っていられないほどの揺れを感じ膝をついたり四つん這いになった程である。 


 さしもの巨大なこのダムも、これだけの大規模な爆発には耐え切れず崩壊し、大量の水を下流に流し出す事になった。

 その奔流は激しくとてつもない激流となって流れていく。

 下流では一度に大量の水が流れ込み正に洪水となった。

 堤防は役に立たず、川沿いの農地や町は水に飲まれる。

 突然の事に人々は警告を受ける間もなく水に流され溺れて行く。

 家を流される者がいた。

 車に乗ったまま流される者もいた。

 子供も大人も老人も男性も女性も流された。

 多くの人々が洪水により溺れ死んだ。 

 多数の命が失われた。

 

 このダムの破壊により下流では多くの人々が命を失い、電力や水道の供給が破綻した事から一千万人以上の生活に支障が出る事になったのである。

 他にも当然の事ながら電力を必要とする工業にも大きな影響を及ぼし生産性を低下させる結果を招いたのである。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


『アメリカ西海岸最北部ワシントン州』


 ダムの破壊はボールダーダムだけではなかった。


 ワシントン州のコロンビア川上流に造られ今年完成したばかりのグランドクリークダムでも同様な事態が起きていたのである。

 このダムもまた巨大であり、ボールダーダムには及ばないが、その貯水量は現代における日本の全ダムの貯水量の約5割に達する程である。

 

 このダムは主に工業用電力を供給する目的で造られた。


 史実では約160キロ下流に建設されたハンフォート原子炉施設にも電力を供給している。

 このハンフォート原子炉施設はプルトニウム型原子爆弾製造の為のプルトニウムを精製していた。

 史実ではボールダーダムとこのハンフォート原子炉施設の間の送電線に日本の風船爆弾が損害を与え停電をひき起こしている。

 

 1941年のこの時点ではハンフォート原子炉施設はまだ建設されていない。

 

 このダムも「乙班黄桜隊」の一隊が制圧し爆破に成功する。

 これにより、ワシントン州の工業界はかなりの電力を喪失する事となり、生産性を低下させる結果を招く事となる。



 こうしてアメリカ西海岸の南北にある巨大なダムが破壊され、その下流にいた多くの人々の命を奪い、更には一千万人以上に及ぶ人々の生活が破壊され、工業への電力供給もストップする事になったのである。

 


♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


「桜華乙班黄桜隊」は

アイアン・レンジ

五大湖周辺の軍需工場

グランドクリークダム

ボールダーダム

と言ったアメリカが戦争を遂行するにあたって経済的に重要なポイントを破壊する事に成功した。


 これによりアメリカの軍需生産能力は著しく低下する。


 それだけでなく二つの巨大ダムが破壊された事により、アメリカ政府は一千万人以上の水と電力を失った人々の生活を支えなければならないという重荷さえ背負わなければならなくなったのである。


 ただでさえ同時多発核攻撃を受け、やはり軽く一千万人以上がその被害で難民と化しているのにである。


 合わせて二千万人。それはアメリカの人口の約15%に相当する。

 同時多発核攻撃を受けて死亡した者を入れれば、その数字は18%を超える。

 更に各都市での無差別大量殺戮での犠牲者や市街戦で家を失った者が加算されるのだ。それも現在進行形で数が増加している。

 アメリカはその本土において、戦争による惨禍を被った多数の国民という、とてつもない重荷を背負う事になったのである。



「桜華乙班黄桜隊」は初期目標の破壊に成功した後は、計画の第二段階に移行する。

 次の作戦は遊撃戦。所謂ゲリラ戦だ。 

 各隊は少人数に分かれ、それぞれ与えられた目標を攻撃する。


 まず、目標となるのは主要道路にて通過する車両だ。これをゲリラ的に無差別攻撃する。

 攻撃は短くすぐに退く。場所を変えては何度も攻撃を繰り返す。

 交通を遮断して混乱させるのだ。



 ワシントン州のグランドクリークダムを攻撃した「桜華乙班黄桜隊」で、この任務に派遣された部隊は更に数隊に分かれ、まずはダムから南下する。


 そしてワシントン州の最大の都市で西海岸にあるシアトルと、ワシントン州の第二の都市で内陸部の東にあるスポーカンを結ぶ主要道路で攻撃を開始する。 


 この二つの都市を結ぶ主要道路は複数あり、グランドクリークダムから約25キロも南下すれば一つ目の目標になる主要道路がある。そこに一隊を配置して任務を開始する。


 更にそこから約30キロ南下すれば二つ目の目標になる主要道路がある。

 ここにも一隊を配置して任務を開始する。


 更にそこからまたもや約30キロ南下すれば三つ目の目標になる主要道路がある。

 ここにも一隊を配置して任務を開始する。



 他の目標の一つは都市や街にある変電所だ。これを急襲し破壊する。

 送電をストップさせて、市民の生活から企業の経済活動まで混乱に陥れるのだ。

 

 ワシントン州の場合、グランドクリークダムを爆破したとは言え、このダムが今年完成した事からもわかるように、他にもダムは幾つもあり発電所もある。

 しかし、それを全て破壊するほどの爆薬や爆発物は流石に用意できない。

 そこで次善の策としての変電所への攻撃だ。

 各都市や街にある変電所は厳重に警備されているわけではない。

 制圧し破壊するのは容易だ。

 

 この任務に派遣された数隊は主に夜間に攻撃をかけ闇に紛れて姿を消す。

 この攻撃により多くの街で電気が使えず人々は生活が不便となり企業は活動に支障を来す事になる。 



 また他の目標の一つは小さな街だ。

 ワシントン州の場合、シアトルとスポーカンを結ぶ主要道路は他の隊がゲリラ攻撃をするので、その周辺は避け、主に州の南部で活動する。更に南下しオレゴン州でも活動する。

 

 狙うのは保安官が数人しかいないような街だ。

 まずは保安官事務所を制圧し武器を奪う。次に銀行を狙う。小さな街でも銀行のある所もあるので、金を奪う。更にガソリンスタンドで車両の燃料を満タンにした後は、ガソリンスタンドを爆破する。


 気分はボニーとクライドだ。

 1930年代に南部ルイジアナ州のダラスを中心に暴れ回っていた男女ペアの銀行強盗。他にも仲間はいたらしい。

 史実における後世では「俺達に明日はな◯」という映画も制作された悪役ヒーロー。

 この犯罪者カップルが活躍していたのは、ほんの7年前の事でしかない。


 この任務についた各隊については、一番最初に街を襲った後は軍服を脱ぎ平服に着替え攻撃(犯行)を繰り返す。敵の目を攪乱する為だ。



 このようなゲリラ攻撃を「桜華乙班黄桜隊」は行い、遊撃戦を展開する。


 アイアン・レンジと五大湖周辺の軍需工場を破壊した部隊は中西部で。


 グランドクリークダムを破壊した隊は既に述べたようにワシントン州で。


 ボールダーダムを破壊した隊はネバダ州とカリフォルニア州とアリゾナ州で。


 補充の弾薬と食料は予め白人系工作員が人目につかない各所に分散して隠匿してある。

 最初から攻撃目標が決まっているので、その付近に予め準備しておいたのだ。



 なお、ボールダーダムを破壊した隊が三州で作戦行動を行うのは地理的要因からだ。

 ボールダーダムはネバダ州とアリゾナ州の境にあるので両方の州に道路が通じている。


 問題はネバダ州で、この時代のネバダ州には11万人程度しか住んでいない。つまり人口過疎地だ。

 だからこそ史実においてネバダ砂漠で原子爆弾の爆発実験を行えたとも言える。


 ボールダーダムの近くにはネバダ州の街ラスベガスがある。

 21世紀では眠らない退廃の大都市だ。

 しかし、1941年の時点では人口は僅かに8400人程度しかいない。

 ラスベガスがカジノの街として発展するのは戦後だ。更にはネバダ砂漠で行われる核実験を観光の目玉としていた時期もある。

 砂漠に立ち昇った核実験のキノコ雲をバックにカップルや観光客が記念撮影なんて事をしていた時代もある。 


 そういう人口過疎地な為にネバダ州での作戦行動は自粛する。

 ボールダーダムを破壊した後、一隊は通りすがりにラスベガスを攻撃しつつ北西方向に伸びている道沿いに140キロ程進み、そこで西に向きを変え20キロ進みカリフォルニア州に入る。そこはデス・バレーだ。


 デス・バレーは死の谷と言われているが、そのデス・バレーでは硼砂等の鉱物資源を採掘している場所が幾つかある。

 それらを攻撃しつつ西に進みデスバレーを抜け、40キロも進めば、今度は緑豊かなキングズ・キャニオン国立公園がある。


 この国立公園は幾つかの森林公園の集合体で南北500キロ、東西100キロにわたる細長い巨大な自然の公園だ。

 ここには、予め密かに白人系工作員が設置した拠点があり、ここで弾薬と食料の補充を行い次の作戦に移る。


 キングズ・キャニオン国立公園の西側には北からサクラメント、フレズノ、ベーカーズフィールド等、他にも幾つかの都市がある。

 そこはまだ手付かずだ。

 それらの都市に対して道路でのゲリラ攻撃や変電所の破壊を行い遊撃戦を展開するのだ。

 

 つまりネバダ州はボールダーダムからカリフォルニア州に行く通り道に過ぎない。


 ボールダーダムからアリゾナ州に向かった隊は主に交通の遮断を任務とする。

 アリゾナ州はアメリカ南部と西海岸を結ぶ交通の要衝だ。更にメキシコとも国境を接している。

 ここで道路や鉄道を破壊し交通を乱すのだ。


 ところでラスベガスから北東に70キロも進めばユタ州だ。

 だが、この州には手を出さない。


 このユタ州の始まりはモルモン教徒が入植し開拓を始めた事から始まった。それ故に人口に占めるモルモン教徒の割合が高く過半数を軽く超えている。

 その宗教が深く絡んだ土地柄故か、必ずしもアメリカ連邦政府とは全面的に方針が一致しているわけではない。


 82年前の1858年にはユタ戦争と呼ばれる戦争が生じている。

 モルモン教というキリスト教徒の中では極めて特異な宗派がユタの広大な土地を開拓し勢力圏にしている事に懸念を覚えた連邦政府が2500人の軍隊を派遣して国に完全に従属させようとした。

 それに反発したモルモン教徒達が立ち上がり3000人の民兵組織を結成、政府軍を撃退したのだ。

 南北戦争が始まった事もあり、連邦政府は一旦は矛をおさめる。

 しかし南北戦争が終わると再びユタに目を向ける。

 その結果、最終的にはモルモン教徒が折れる形になったが、宗教に基づく独自路線は継承された。


 史実において太平洋戦争が始まると西海岸一帯に暮らしていた日系人約12万人は強制収容所に収容される。

 この時、ユタ州はこの措置に反対を表明しているが、それはアメリカの州で唯一つの反対表明だった。

 またユタ州の砂漠の中にトパーズ強制収容所ができ日系人が約8000人収容されたが、その時、色々と生活の援助をしてくれたのがモルモン教徒の人々だ。


 ユタ州最大の都市ソルトレイクシティには日本人街がある。1941年の時点でそこに住む日系人は2000人を超える。広い西海岸一帯で暮らしていた日系人が約12万人という事を考えれば、2000人という数字がそれなりの規模であるというのは分かろうというものだ。これらの人々は強制収容される事は無かった。


 他の州とは少し毛色が違うのがユタ州なのだ。


 現時点では敢えてユタ州を攻撃対象に含める必要は無い。

 モルモン教徒は独自の価値観を持っている。

 彼らの憎しみを敢えて買う必要は無い。

 できれば後に政治利用したい思惑もある。

 故にユタ州は今の所見逃すのだ。


 他に攻撃すべき州と目標は幾らでもある。



「桜華乙班黄桜隊」は中西部、ワシントン州やカリフォルニア州の西海岸、南部のアリゾナ州で遊撃戦を展開する。

 そしてアメリカ市民の生活を破壊しアメリカ軍を引き付け攪乱し混乱を巻き起こすのだ。

 それが任務だ。


「桜華乙班黄桜隊」の第二段階の任務はこれより始まる……

 

【to be continued】

【筆者からの一言】


そんなわけで攻撃を受けない州もありました。

その狙いは……もうばれてますね。 


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