摂政戦記 0061話 開戦 第三幕 暴虐の輪舞(ロンド)
【筆者からの一言】
俺達の無差別大量殺戮はこれからだ!
1941年12月8日 『アメリカ』
ニューヨークを始めとするアメリカの沿岸大都市で起きた史上初めての核爆発と、これも初めてである同時多発核攻撃。
更にはアメメリカ沿岸の小中規模港での突然の日本軍による攻撃。
アメリカ本土沿岸という海に面した地域が惨劇に見舞われていた時、内陸部でもまた異変が生じていた……
中西部のオハイオ州のコロンバス、シンシナティ、クリーブランド。
中西部のケンタッキー州のルイビル、レキシントン。
中西部のミシガン州のデトロイト、グランドラピッズ。
中西部のインディアナ州のインディアナポリス。
中西部のウィスコンシン州のミルウォーキー、マディソン。
中西部のイリノイ州のシカゴ、オーロラ、ロックフォード。
中西部のミネソタ州ミネアポリス。
中西部のアイオワ州ダヴェンポート。デ・モイン。
中西部のミズーリ州セントルイス、カンザスシティ、スプリングフィールド。
中西部のカンザス州のカンザスシティ。
南部のテネシー州のナッシュビル、メンフィス。
南部のサウスカロライナ州のコロンビア。
南部のジョージア州のアトランタ。
南部のオクラホマ州のオクラホマ・シティ、タルサ。
南部のアーカンソー州のリトルロック。
南部のテキサス州のダラス、フォート・ワース、サン・アントニオ。
これらのアメリカ中西部から南部にかけての大都市、交通の要衝において、市内の数ヵ所で大爆発が突如発生したのである。
その爆発の殆どが市内の繁華街付近において発生しており、多数の犠牲者が出ていた。
その爆発とタイミングを合わせたかのように市庁舎の玄関前に猛スピードで走って来た数台のトラックが急停車し荷台から武装した集団が続々と降りて来る。小隊規模で50人はいた。
その者達は黒い軍服(野戦服)を着て、シュタームヘルム型ヘルメットを被り武装している。
その中の一人は日章旗を持っていた。
この武装集団は「見敵必殺!! 見敵必殺!!」と叫びながら市庁舎内に突入し中にいた者を容赦なく撃ち殺し、または刺殺していく。
その蛮行は、市内のメインストリートでも行われていた。
やはり数台のトラックがメインストリートの端に急停車し、荷台から武装した集団が続々と降りて来る。1個中隊規模で200人はおり突然メインストリートを封鎖するように整列した。
当然、車は通行できずクラクションと罵声が浴びせられる。
だが武装集団は動じない。
そしてトラックのうちの1台から大音量の放送を開始した。
そのトラックの荷台は大型のメガホンが設置されている。現代で言うなら街頭宣伝車の類に分類されるかもしれない。
大音量で語られた事は沿岸部において「桜華甲班」の放送担当の者が叫んでいた事と全く同じだった。
「我々は神に選ばれし皇軍の狗なり!
これより! アメリカ国民に最後の審判を行う!!
罪状は大量虐殺及び侵略行為!
北アメリカ大陸において、平和に暮らしていた先住民族のインディアンを大量虐殺し、その土地を奪い、今なお有色人種を差別して苦しめている罪は許し難い!
よってアメリカ国民の白人は一人残らず有罪である!!
ただし情状酌量の余地を認め罪一等を減じ判決は死刑とする!
判決は死刑! 死刑だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一方的な裁判の宣言と判決の宣告。
満洲の訓練所で放送担当になる者が教えられた通りの内容をそのまま叫んでいるのだ。
「皇軍の狗達よ! 判決は下った!
神の名のもとにアメリカ人を皆殺しにせよ!
八紘一宇の理想のために殲滅せよ!
抹殺せよ! 滅殺せよ! 虐殺せよ!
一人残らず皆殺しずぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その放送を合図とし隊列を組んでいた武装集団の指揮官が大声で部下に号令する。
「一斉射撃準備!! 構え! 撃てぇ!!」
その号令と共に撃ち出される無数の銃弾。
夥しい銃弾が何の罪も無い一般市民に撃ち込まれその命を容赦なく奪い去る。
血を撒き散らしながら次々に市民が倒れていく。
道路上の車にも撃ち込まれ車内にいた者達を血達磨にしてその命を奪う。
この武装集団こそは閑院宮摂政が長い年月をかけて作り上げて来た、対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華」であり、その「乙班白桜隊」だった。
「乙班白桜隊」の人員と物資を禁酒法時代の海上密輸ルートを使い、密かにアメリカに送り込み、その後は各地に点在する「愛と平和の教団」の農村共同体で開戦までの期間、潜伏させていた。
そして時が来た。
開戦と共に人殺しの技しか知らない狗達が解き放たれたのだ。
最初に市内で起こった爆発は白人系工作員が借り受けていた飲食店等で起きている。新装開店する為の内装工事という理由で、人や物が出入りしても怪しまれないようにし、大量の硝酸アンモニウムを運び込み作戦開始に合わせて爆発させたのである。
硝酸アンモニウムは肥料の原料になる。「愛と平和の教団」の農村共同体で使用するという事で合法的に大量入手していた。それを疑う者はいなかった。
だが、硝酸アンモニウムは爆薬の原料ともなり一定の条件下で爆発を起こす。
史実では何度か事故により大爆発を起こしたり、爆弾テロで使われている。しかし、この時代ではまだテロに使われた事はない。
販売した業者もまさかテロに使われるとは思わなかっただろう。
そして、その爆発に合わせて狗達の凶行が始まった。
「前進!各個に撃てぇ!!」
指揮官の号令に狗達は「見敵必殺!! 見敵必殺!!」と叫びながらメインストリートにいる一般市民に短機関銃を発砲し、または戦闘用ナイフで刺殺し、建物の中には手榴弾を放り込む。
「助けてぇー」
「逃げろぉぉー」
路上はパニックになった。
買い物や仕事や遊びで来ていた市民が叫び逃げ惑う。
だが武装集団は相手が誰であろうとお構いなしに発砲する。
「うぁぁっ、い、痛いー」
胸に銃弾を喰らった中年男性が路上に倒れ痛みに身もだえていた。皇軍の狗がその男の顔に短機関銃の銃口を突き付け情け容赦なく引き金を引く。男は脳漿を飛び散らせながら即死した。
「や、やめてくれー、うぁー」
足に弾丸を喰らい路上に倒れた若い男が怯えながら後ずさる。だが、二人の皇軍の狗が笑いながら何度も何度も戦闘用ナイフを男の腹に突き刺した。ナイフが突き刺さる度に男は悲鳴をあげていたが、やがてそれも聞こえなくなった。
「た、たすけて」
腰が抜けたのか路上にへたり込んだ若い女性は、目の前に立った皇軍の狗に懇願した。
しかし、その皇軍の狗、それも女の狗はニヤリと笑うと何発も女性の体に銃弾を叩きこむ。
女性は甲高い悲鳴を上げながら死んでいった。
皇軍の狗達は誰一人容赦しなかった。
残酷に市民を殺していく。
赤ん坊を抱いた母親を赤ん坊ごと撃ち殺した。
腰の曲がった老人を殴りつけ、倒れたところを戦闘用ナイフで滅多刺しにする。
果敢にも拳銃で反撃しようとした警官を容赦なく短機関銃で蜂の巣にして赤い血の池に沈めた。
怯え逃げ惑う人々の背中に銃撃し手榴弾を投げつける。
路上は死体と血と肉片で覆いつくされた。
急を聞きつけて駆けつけて来た警官隊が果敢に応戦するが、火力の違いにたちまち劣勢に追い込まれるし、自殺攻撃に晒された。
負傷して重症を負った狗は最後の力を振り絞り笑いながら警官隊に突入し自爆するのだ。
それ以外にもアメリカ人を道連れに自爆していく狗もいる。
笑いながら自爆していく武装兵の存在はアメリカ人の常識から言えば異常だった。いやこの時代の文明国ならどこの国の者でも異常というだろう。狂っていると判断するだろう。
それが目の前にいる。
ひたすら前に進み子供も老人も女性も見境なく殺す殺戮集団。自分が負傷して助からないとなれば市民を巻き込み自爆する。
狂気の沙汰だった。
その場にいる警官達も、たまたま居合わせた従軍経験者も、こんな者達を相手にした事はなかった。戦場でも見た事はなかった。
そんな悪魔のような奴らがここにいる。
しかも年齢はバラバラだ。10代から30代の東洋人。男だけではない。女もいる。その女さえ自爆する。
悪夢だった。その場に居た者達はこれが夢なら醒めてくれと願った。
だが、それが現実であり夢ではなかった。
狂った放送も続いている。
「白人以外を劣等人種と侮り、人種差別を撤廃しようとしないお前達、白人国家に正義は無い!
我々はお前達、悪魔を倒し、未来を切り開く!」
こんな無差別殺戮をしておいて、悪魔はどちらなのだ! と放送を聞いたアメリカ市民の中には憤る者もいる。
だが、大半の市民は逃げるのに精一杯だ。
「民主主義という白人だけが繁栄する白人の白人による白人の為の都合の良い世界を蔓延らせてはならない!
行け! 皇軍の狗達よ! 行って正義の鉄槌をアメリカ人に振り下ろせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
正義を信じる者が最も残酷になれるのは歴史を見ても明らかだ。
虐殺と略奪に彩られる十字軍。何の罪も無い者が疑い殺された中世の魔女裁判。
今、アメリカの国民も自らを正義と信じる狂った狗達の脅威に晒されていた。
そして次々と血が流され命が奪われていく。
現代においてアメリカでは度々、無差別銃乱射事件が発生している。
それもたった一人の犯人が10人以上を殺害する例すら珍しくない。
2007年にはニューヨーク州のビンガムトン市で一人の男が拳銃で14人もの人を殺害する事件が起きている。犯人が射殺された為、犯行の動機は不明。
同じ2007年にバージニア州のブラックスバーグにあるバージニア工科大学で一人の学生が拳銃を乱射、32人を殺害、23人を負傷させた後、自殺した。
2012年にはコロラド州オーロラ市で一人の男が映画館でライフルと拳銃を乱射、12人を殺害し50人以上を負傷させた。犯行の動機は不明。
同じ2012年にはコネチカット州ニュータウンで一人の男が小学校で自動小銃を乱射、26人を殺害した後、自殺した。犯行の動機は不明。
2016年にはフロリダ州オーランドのナイトクラブで一人の男が自動小銃と拳銃を乱射、50人を殺害し50人以上を負傷させている。犯人が射殺された為、犯行の動機は不明。
アメリカだけではない。
ドイツでは2009年にヴィネンデン市で一人の男が学校で銃を乱射し15人を殺害、警官隊と銃撃戦のうえ自殺している。犯行の動機は不明。
同じくドイツで2016年にミュンヘン市で一人の男が銃で10人を殺害の後、自殺している。犯行の動機は不明。
これらはほんの一部の例に過ぎない。
つまり銃はいともたやすく人を殺す。場所や場合、銃の性能にもよるが、軍人でもないたった一人の人間が10人以上を殺す事も可能な武器だ。
では、訓練を受けた軍人が、それも大量殺戮に禁忌を覚えないように洗脳された者達が最初から無差別殺人を狙って人通りの多い所で武器を使用すればどうなるか。しかも短機関銃だけではない。手榴弾等の殺傷能力の高い武器も使用するのだ。
その答えが今、アメリカ各地の都市で人の命を代償として出されていた。
「桜華乙班白桜隊」が強襲し無差別殺戮を繰り広げたのは30都市。
各都市には増強1個中隊約300人程度しか派遣されていない。
しかし、その殺害効率は凄まじく一つの都市において午前中だけで数千人から1万人が殺されていたのである。
しかも、殺戮は終わっておらず、その死者数はまだ増える筈である。
アメリカ市民はこの殺戮集団に恐怖した。
笑いながら自分達を殺しにくる。
警官隊や銃を持った市民が抗戦し、負傷させても笑いながら市民を巻き添えに自爆するのだ。
それもまだ子供としか思えない少年や少女さえいる。
狂っているとしか思えなかった。
そして攻撃はそれだけではなかった。
市庁舎を狗の一隊が攻撃し、狗の本隊がメインストリートで無差別大量虐殺を開始した頃、市の南北2ヵ所において別の狗の一隊が攻撃を開始していた。人数はそれぞれ25人程。合わせて50人と少ない。
しかし、その50人のうち約半数が持っているのは火炎放射器だ。半数は短機関銃を持ち護衛役をしている。
そして住宅や建物に向け無差別に炎を放つ。次々と建物に炎を放つ。
建物は盛大に燃え上がった。
「きゃーーーーーーーーーーっ」
悲鳴を上げながら女性が外に飛び出て来るが既に火だるだ。手の施しようがない。
「うわぁっっっっっっっっっっっっっ」
やはり外に飛び出して来た男は、来ている服の左腕に火がついて燃えている。
多くの人々が家や建物が飛び出して来て逃げ惑う。
「火事だぁーーーー」
「火事だ!逃げろォー」
攻撃だとは思わず、ただ火事が発生したと思っている者達が悲鳴を上げている。
子供を抱えて家を飛び出す女性。
寝ていたのか下着姿のまま飛び出してくる若い男。
大混乱だ。
そこに狗達が発砲した。情け容赦なく唸る短機関銃に次々と人々が倒れて行く。
「やめてぇーー」
子供を抱えた女性が哀願したが、逆にそれは的になるだけの行為でしかなかった。
たちまち銃弾が集中し子供共々蜂の巣にされ息絶えた。
狗達は次々と火炎放射器で建物に炎を浴びせ、逃げ惑う人々に銃弾を浴びせ続ける。
そして炎は次々と近くの木々や隣の建物に燃え移り火事の範囲を広げて行く。
都市は大火災を起こしつつあったのである。
こうして内陸主要都市への強襲を目的とした「桜華乙班白桜隊」は各都市の市庁舎を占拠し屋上に日章旗を掲げる事に成功する。
またメインストリートを中心に多くの一般市民を虐殺し大量の血を流した。
更に市の外縁部では火炎放射器による攻撃で大火災が起きつつある。
今はまだ、突然の凶行の発生故に殆どのアメリカ市民は彼らが日本兵である事を知らない。
だが、それも何れはアメリカ政府の発表により知る事になるだろう。
そして多くのアメリカ市民の脳裡と胸に日本への、日本兵への恐怖が刻み込まれる事となる。
「桜華乙班白桜隊」は与えられた作戦を完全に成功させていた……
しかし、まだ戦いは始まったばかりなのだ。
何れは近在のアメリカ陸軍部隊が駆けつけて来るだろう。
銃を手にして立ち向かって来る市民もこれから更に増えるだろう。
「桜華乙班白桜隊」の戦いはまだ終わらない。
アメリカ内陸部において「桜華乙班白桜隊」の作戦が始まった頃、「桜華」とは別の工作員も作戦行動を開始していた。
閑院宮摂政がかなり以前より白人系孤児を工作員に仕立て上げアメリカに潜入させていた者達である。
これまでにも科学者達を暗殺したり、麻薬を密輸したり、「愛と平和の教団」の農村共同体を成立させたのも、この工作員達の手によるものである。
これらの工作員のうち何割かは開戦と同時に新たな工作に従事する。
中西部と南部における破壊工作活動であり、主に列車の通過に合わせての線路の爆破と電信柱や送電線の破壊が任務となる。
アメリカの大地は広大であり、そこに設置された線路と電信柱や送電線を全てもれなく警備する事など不可能である。
その隙を突き工作員達は割り当てられた地域の線路と電信柱と送電線を爆破し破壊して回った。
特に無差別殺戮を行っている大都市とその近郊にあるアメリカ軍基地を結ぶ電話線は真っ先に破壊され、都市から軍への救援要請を阻害するようにされている。
これにより軍の緊急出動が遅れる事になる。
線路の破壊は列車の通過に合わせて行われた為、列車は脱線し大事故となり輸送していた乗客と貨物に多大な被害を与えている。しかもそれだけの事故となると、乗客の救助、壊れた車両の撤去も大変で線路の復旧も容易ではない。
アメリカ西部、中西部、南部ではこれらの破壊工作により鉄道網と通信、送電に大きな被害が生じ、物流、通信、送電に重大な問題が生じ始める事になる。
特にアメリカにとり大陸横断鉄道の線路が何十ヵ所にもわたり破壊されたのは痛かった。
アメリカには当然の事ながら海の無い内陸部の州が幾つもある。
この時代は飛行機の大きさが限られている事から空からの輸送量は限られているし、車両は大量に燃料を消費する。
内陸部の州にとって鉄道による人と物の輸送というのは死活問題となる。
そもそもアメリカの歴史において西部への進出は鉄道の進出でもあり、人々は鉄道を中心に生活圏を広げて来たのだ。
大陸を横断し東部と西部を結ぶ路線は支線の関係もあり複雑だ。
しかし、それでもカナダとの国境を接するモンタナ州で3路線。
その南のワイオミング州で2路線。
コロラド州で2路線。
一番南でメキシコと国境を接するニューメキシコ州で4路線。
合計11路線を破壊すればアメリカの東部と西部は鉄道での交通は寸断される。
そしてそれは実行された。
その数千キロにも及ぶ鉄道網を全て守る事など不可能だったのだ。
こうしてアメリカの中西部と南部において鉄道網、通信、送電が破壊され物流と人々の生活はとてつもない大きな影響を受ける事となる。
【to be continued】
【筆者からの一言】
ガンガン行こうぜ!!




