摂政戦記 0059話 開戦 第一幕 始まりの劫火
【筆者からの一言】
今回のお話、第59話は総長戦記からの流用部分が多いので、本日は他にもう1話投稿致します。
第60話は午前5時に投稿致します。
「この一撃で歴史が変わる……」
1941年12月8日 『アメリカ』
日本のアメリカへの宣戦布告から1時間後、南雲機動部隊による真珠湾攻撃作戦が敢行される。
アメリカ政府も軍部も日本の攻撃は南方に指向するものと判断していた事から、ハワイへの攻撃は予期していなかった。
また、万が一ハワイに攻撃があるとしても海象条件の悪い冬の北太平洋を日本艦隊が航行してくるとは思えず、通常の航空哨戒活動は南方に限定されていたのである。
しかも、この日は日曜日であり、朝早くに届いた本国からの連絡がアメリカ太平洋艦隊司令長官のキンメル大将に速やかに届いていなかった。
日本軍機による真珠湾攻撃が始まった時、キンメル大将は自宅でゴルフに行く準備をしていたのである。
その辺は全て史実も今回の歴史も変わらない。
故に日本軍の真珠湾攻撃は史実と同じく今回の歴史でも大成功をおさめたのである。
一方、南方ではフィリピン攻略戦が開始された。
史実では開戦時に仏印を拠点としてマレー攻略戦が行われたが、今回の歴史では日本軍は仏印には進駐していない。
その為、まず台湾を拠点としてフィリピンを攻略し、次にフィリピンを拠点として蘭印を攻略し、最後にマレー半島を攻略する計画であった。
フィリピン攻略戦は正面からの激突になりはしたが、戦況は順調に進展した。
初めて実戦に投入された零戦が敵機を完全に圧倒したのである。
アメリカ極東陸軍のマッカーサー司令官は日本軍にはドイツ人パイロットが操縦するドイツ機が戦闘に参加していると本国に報告している。
日本軍パイロットと日本軍機を完全に侮っている。
日本の攻撃はハワイとフィリピンだけではなかった。
真珠湾攻撃が開始された丁度同じ頃、アメリカ本土においても日本の攻撃が開始されていたのである……
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ニューヨーク。それはアメリカ最大の都市。
1941年の時点において人口は軽く740万人を超える。
第2位の都市がシカゴの約340万人であるから優に倍以上もの差を付けての堂々たるトップだ。
首都ワシントンは意外と人口が少なく第11位で約66万人である。
当然、ニューヨークの経済規模はアメリカ随一であり、貿易、金融等においても重要な位置を占めている。
多くの企業が集まり、大企業に限らず中小企業も多い。
アメリカ国内における都市別のGDP(国内総生産)も第1位の地位にある。
アメリカの経済の最重要地域であり人と物と金が集まる大都市、それがニューヨークだ。
そして、ヨーロッパでの戦火をよそに平和を享受している。
そのニューヨークの海には今日も多くの船舶が航行していた。
アメリカ東海岸における海上交易量もトップであるため行き交う船舶の数も多い。
アメリカ国内からだけでなく世界中から船がやってくる。
大西洋から船でニューヨークに向かう場合、L字型に入って行くような形になる。
L字の下の線が太平洋で、上の線が北上しニューヨークの中心に入って行く航路となる形だ。
それというのも西のスタテンアイランドと東のロングアイランドという二つの大きな島の間にあるザ・ナロウズという海峡を通ってニューヨーク中心のアッパー湾に入るからだ。
ザ・ナロウズから緩やかな右カーブを描いて航行していくと、やがて自由の女神のあるリバティ島があり、そのすぐ先にマンハッタン島がある。
この日も多くの船がアッパー湾を航行していた。
その数多の船舶の中に南米のアルゼンチン船籍の1隻の貨物船が航行していた。
行き先はマンハッタン島の西側の対岸にあるウィーホーケンの港だ。
大きなハドソン川を約6キロほど遡った所にある。
そこまで、あと4キロという距離にまで来ていた。
また南米のチリ船籍の貨物船も1隻、アッパー湾を航行していた。
その位置は丁度、ザ・ナロウズと自由の女神のあるリバティ島の中間あたりを航行している。
ただし、この2隻の船の船籍がアルゼンチンとチリだからと言って、必ずしも船主や船員が全員、船籍と同じ国の者とは限らない。
「便宜置籍船」というものがある。つまり船籍と船主の国籍が不一致と言う事例だ。
大抵は税金の安い国に船籍を置き節税対策としている事例が殆どだ。
アルゼンチンとチリは必ずしも税金が安いとは言えないので「便宜置籍船」として利用する者は少ない。
だが、他の目的を持っているのなら敢えてそうする場合もある。
アッパー湾は波静かで平穏だった。
丁度、この頃、太平洋では真珠湾への日本軍機による攻撃が開始されていた。
それをまだ、アメリカ本土に住む国民の殆ど知らない。
まだインターネットはおろか携帯電話も無い時代である。
その戦争開始を知らない平穏なる時、南米の貨物船2隻が突如、爆発を起こしたのである。
並みの爆発ではなかった。
とてつもない爆発だった。
船が内側から膨れ上がり破裂し火球と化していた。
その現れた火球の大きさは膨張し300メートルを優に超えた。
船が爆発した瞬間には激しい閃光が発生し、それは100キロも離れた地点でも見えた。
火球よりとてつもない衝撃波が生じ3秒後には5キロを優に超える距離にまで達していた。
火球周辺には爆煙が生じ、それが巨大なマッシュールムのような形になり始める。
そして数秒後、その中心よりキノコ雲が立ち昇り始めたのである。
爆発した船は2隻。
二つの巨大なキノコ雲がニューヨークの空に立ち昇った。
それは世界史上初めて人の住む地域で起こった核爆発だった。
いや、それはニューヨークだけの話しではなかった。
アメリカ第3位の都市人口約190万人を誇る大西洋岸ペンシルベニア州の沿岸大都市フィラデルフィア。
アメリカ第7位の都市人口約80万人を誇る大西洋岸メリーランド州の沿岸大都市ボルティモア。
アメリカ第9位の都市人口約70万人を誇る大西洋岸マサチューセッツ州の沿岸大都市ボストン。
人口は20万に過ぎないがアメリカ大西洋艦隊の主要港であり海軍造船所もある大西洋岸バージニア州の重要な港ノーフォーク。
アメリカ第15位の都市人口約50万人を誇るメキシコ湾岸ルイジアナ州の沿岸大都市ニューオリンズ。
アメリカ第16位の都市人口約40万人を誇るメキシコ湾岸テキサス州の沿岸大都市ヒューストン。
アメリカ第5位の都市人口約150万人を誇る太平洋岸カリフォルニア州の沿岸大都市ロサンゼルス。
アメリカ第12位の都市人口約60万人を誇る太平洋岸カリフォルニア州の沿岸大都市サンフランシスコ。
アメリカ第22位の都市人口約35万人を誇る太平洋岸ワシントン州の入り組んだピュージェット湾奥に位置する沿岸大都市シアトル。
そのシアトルの対岸に位置し海軍工廠や海軍基地があるプレマートン。
アメリカ第27位の都市人口約30万人を誇る太平洋岸オレゴン州の沿岸大都市ポートランド。
人口は20万に過ぎないがアメリカ大平洋艦隊の主要港であるカリフォルニア州の重要な港サンディエゴ。
これら9個の沿岸大都市と3個の重要港でも核爆発が起こっていたのである。
爆発したのはやはり南米船籍の貨物船である。
だが、その裏にいるのは日本、いや閑院宮摂政であった。
閑院宮摂政配下の工作員が南米で作ったダミー会社で「便宜置籍船」を運用し、その船に日本が製造した「ウラン爆弾(原子爆弾)」を積み、アメリカの港にまんまと入り込み核爆発を起こしたのである。
その爆発は、その場にいたアメリカ市民にとって惨たらしい惨状をもたらした。
熱線と爆風と放射能が都市を人々を襲う。
爆心地周辺にいた者は痛みを感じる間も無く即死した。いや膨大な熱量に晒され消滅し骨さえ残らなかった。
その方が幸せだったかもしれない。
爆心地から少し離れた距離ではあらゆる物が一瞬のうちに燃え上がった。火達磨になる者も続出した。生きながらに焼かれていく。悲鳴を上げながら焼かれている。
だが、それも一瞬だった。
凄まじい熱量の後に強烈な爆風、いや、衝撃波が襲って来た。人が建物が車があらゆる物が強烈な勢で飛ばされた。
その衝撃波に耐え切れず即死する者もいた。建物や地面に叩き付けられ死ぬ者もいた。
衝撃波で建物が倒壊し、それに押し潰された者もいた。屋内で落下物に頭を直撃され即死する者。押しつぶされ内蔵をはみ出させて死ぬ者。腕や足を切断され夥しい血を撒き散らす者。
惨憺たる状況だった。
衝撃波が過ぎ去った後、爆心地からかなり離れた地域ではどこもかしこも燃えていた。
燃えていない物が無い。建物も人も木々も動植物もあらゆる物が燃えている。
火に包まれた人々が絶叫を上げのたうちまわっている。
次々と建物が倒壊していく。
これまでに受けた衝撃波と熱による構造の劣化で耐え切れなくなったのだ。
建物の倒壊に巻き込まれる者達が続出した。
火傷を負った者、建物の倒壊で傷を負う者、その人数は数えきれない。
酷い火傷で動けなくなる者が至る所で倒れている。座り込んでいる。動けても足取りのおぼつかない者も多い。
うめき声をあげている。痛みに悲鳴を上げている。絶叫している者も数えきれない。
子供が泣いている。
大人でさえ泣いている。
誰もがその身に傷を負い心にさえ傷を負っている。
目を背けたくなる光景がどこまでも広がっていた。
そこは正に地獄だった。
この日だけで「ウラン爆弾(原子爆弾)」により命を失った者は全米で443万人に上った。
更に600万人が負傷している。
その内の100万人は重傷を負っており、あと数日のうちに命の灯りが消えるだろう。
アメリカの人口は1億3166万人。そのうちの8%が死傷したのである。
そして今なお都市での火災は続いており負傷者の数は増え続けている。
更には目に見えない放射能に多くの人々がおかされるだろう。
そして亡くなっていく事になる。
その被害者数は一千万人に達するかもしれない。
人的被害としては国家が揺らぐレベルだ。
ましてや海上交易において、また経済的にも重要な沿岸大都市が軒並み壊滅している。
これもやはり経済に致命的になり得るレベルだ。
この日、アメリカはその建国史上かつてない災厄に見舞われ、とてつもない被害を被った……
【to be continued】
【筆者からの一言】
筆者「核攻撃は国際法違反にあたるのでは?」
摂政「それがどうした」




