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摂政戦記 0057話 陸と海とで    

【筆者からの一言】


状況開始◯◯日前。

出番はもうすぐというお話。

 1941年12月 『アメリカ中西部 アイオワ州 「愛と平和の教団」の経営する農村共同体(コロニー)α』


 教会地下の一室に数人の男が集まり話し込んでいる。

 その中のリーダーらしき男が確認をとっていた。


「第一班の準備はどうだ?」


「準備完了です。人員、装備、爆薬、火器、車両、第一目標から第五目標までの確認、到達経路と逃亡経路、予備の隠れ家の確保、全て問題ありません」

 中年の白人男性が答える。人のよさそうな人畜無害なタイプに見えるおじさんだ。


「よしっ。第二班はどうだ?」


「こちらも同じく準備完了です。問題はありません」

 20代の若い白人男性が答えた。眼鏡をかけており細身で弁護士か医者とでもいうような雰囲気を醸し出している。


「第三班はどうだ?」


「明日、届く爆薬で全て準備は整います」

 30代前半の髪の薄い白人男性が言葉少なに返答した。髪も少なければ言葉も少ない。


「よしっ、いいか、繰り返すが我々の任務は戦って死ぬ事ではない。生き続けて破壊し続ける事だ。戦闘は極力避けろ」


「「「了解です」」」

 リーダーの念押しに3人が声を揃える。


「よしっ。それでは最後の隠れ家となるモンタナの山小屋についてだが……」


 その後も、遅くまでこの打ち合わせは続いていた。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 1941年12月 『アメリカ中西部イリノイ州 「愛と平和の教団」の経営する農村共同体(コロニー)β』


 教会地下の一室に数人の男が集まっていた。

 その中のリーダーらしき男が喋っている。


「いいか、決行日は決まった。計画に変更は無い。

予定のルートで都市中心部に突入し戦闘を開始する。

恐れるな。

今こそ奮い立て。

正義の裁きをくだすのだ!

白人の時代を終わらせるのだ!

やるのだ! 我々の手で!

アメリカの大地を血で染めあげろ!!」


「「「「「「「「おう!!」」」」」」」 



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 アメリカ中西部や南部を中心に点在する100以上もの「愛と平和の教団」の経営する農村共同体(コロニー)において、同様な打ち合わせや話しが為されていた。

 だが、それを知る者はアメリカ政府の公的機関にはただの一人もいない。

 全ては深く静かにすすめられている。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 1941年12月 『南米の某国沖合 とある貨物船』


 船内の各所で男や女が黙々と作業していた。

 銃を分解し清掃してまた組み立てている。

 戦闘用ナイフを磨いている者もいる。

 男女の年齢はバラバラだ、下は10代から上は30代。

 船内ではそうした数百人の男女がひたすら作業をしているが無駄口一つ、会話一つ無い。

 沈黙の中でただひたすら手を動かしている。

 実に不気味な光景だ。


 だが、この光景はこの船に限った事では無かった。

 南米の沖合にいる他の数十隻の貨物船でも同様な光景が繰り広げられていた。


 しかし、それを知る者は限られている……



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


1941年12月 『南米ブラジル アマゾン とある日本人植民地村』


 閑院宮摂政は謀略を進めるにあたって、かなり昔より閑見商会に南米各国にダミー会社を設立させ拠点を設けて利用させて来た。

 その中にはブラジルのアマゾン大密林に設けられた植民地村もあったのである。


 アマゾン大密林……それはアンデス山脈を水源とする大河アマゾンを中心とした流域に大きく広がる世界最大の密林である。その広大な面積は約550万平方キロメートルにも及ぶ。

 日本の面積が約37万8000平方キロメートルであるからその軽く14倍以上にも達する。


 今、そのアマゾン大密林に幾つかの日本人植民地村があった。

 ブラジルに日本人の移民が初めてやって来たのは1908年の事である。

 最初の移民の生活は苦しいものだった。

 白人の経営する農園に安い労働力として雇われたからだ。


 だが、後にはブラジルへの移民の仕方にも多様性が出てくる。

 日本の企業が白人経営者から農場を買収したり、政府から土地を買い、移民を募って開拓事業を開始するというケースも増えたのだ。

 特に世界大恐慌が始まった後は、その余波で農場経営に行き詰った白人経営者から農場を買うケースが少なからずあった。


 そうして増え続ける幾つかの日本人村は、閑見商会の子会社が経営している。


 今そうした植民地村の一つに労働者として100人ほどの男女が到着した。


「遠い所をお疲れ様です」

 植民村の代表が出迎え歓迎する。その後ろには二人の男が立っているが、代表を含めただの開拓民には見えない物腰をしている。軍服を着ている方が似合っていると言えるだろう。


「出迎え感謝します。これからお世話になります」

 出迎えられた一団の代表が、そう言って頭を下げたが、こちらも軍服を着ている方が似合っている物腰だ。そして多少緊張している様子だった。

 そして挨拶の他に一言問い掛ける。

「既に他の隊は?」


「無事、全隊が到着しています。分散して『開拓生活』に入っていますよ」

 安心してくれとでも言うように植民村の代表が笑顔でその問いに答える。


「本国から何か新たな指示は?」

 更に代表が問い掛ける。


「今の所は何もありません」


 その植民村の代表の返答に満足したのか、代表の顔から緊張が消えたようだ。

 少し笑顔を見せ明るく言う。

「そうですか。それは良かった。では我々も『開拓生活』に入ります」


「喜んでお手伝いしますよ」

 そう言って二人の代表は固く握手を交わすのだった。


 こうして植民地村に新たな仮初めの仲間が入る事になる。

 閑見商会の子会社が経営するアマゾン大密林の植民地村は複数あり、その敷地は広大だ。

 そして、そこには誰もが予想しえない程の多くの日本から来た「開拓民」と呼称される者達がいた。

 それはブラジル政府さえ知らない。


 史実における昭和後半、「南米三悪」という言葉があった。

 現代ではもう誰もが忘れ去っているが、当時の南米では税関、警官、軍隊が腐敗の象徴であり、公務員なのに外国人旅行者や一般市民の害となっていたからだ。

 一例で言えば露骨に賄賂を要求する。税関でもだ。

 他のお役所もかわらない。

 ただし逆に言えば金さえあれば買収し放題でちょっとやそっとの無理は押し通せる。

 それは、この1941年という年も変わらない。


 役人を買収して多人数の入国について口を閉ざさせ、アマゾン大密林の奥地で密かに暮らす「開拓民」達。

 彼、彼女達がアマゾン大密林から出て真の目的地に旅立つまで、まだ幾ばくかの時が必要だった。


 そして、こうした者達がいるのはブラジルだけでもなかったのである……



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢


 1941年12月 『南米の某国の港 とある貨物船』


 船長が船員達を集めて話しをしていた。


「いいか、我々の船はエンジンが故障した。それで修理の為に暫くはこの港に留まる。

それがこの港に停泊している表向きの理由だ。

交代でお前達に上陸は許すが羽目を外しすぎるんじゃないぞ。

わかっているな」


「はい。船長、大丈夫です」

「馬鹿な真似はしません」

「おかしな病気は貰いません」

 病気という言葉に船員達から笑い声が上がり船長が苦笑している。


「よしっ。変な病気を貰って来た奴は海に放り込むからな、覚悟しておけ。解散!」

 船長が笑いながらそう締め括り、船員達は三々五々分かれて散らばって行った。


 こうした偽りの理由をつけて港に停泊している貨物船は、この国の他港にもいた。

 それどころか他の南米各国の港に何隻もいたのである。 

 だが、それを知る者達は限られている。

 その中に南米各国の政府関係者は一人もいない。


 彼らが何のために停泊しているのか。いつ動き出すのか。

 それを知りうる者は日本に居る限られた者だけであった……


【to be continued】

【筆者からの一言】


いろんな所に潜んでいる者達がいるようです。

あそこにも。

そこにも。

そちらにも。

そして、貴方の後ろにも!  きゃっーーーーーーーーー!

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