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摂政戦記 0056話 開戦決定

【筆者からの一言】


強者に挑むは断固たる決意が必要というお話。


 1941年12月2日 『日本 東京 皇居』


 時は休む事を知らず遂に12月1日を迎える。


 日米外交交渉は進まず、翌日、開かれた摂政会議にて遂に開戦が最終決定された。


 この決定を受けて閑院宮摂政は摂政会議の席上で全員に覚悟を求める。


「アメリカとイギリスは大敵である。

この両国に勝利するには、何を行おうとも勝つという揺らぐ事のない断固たる決意が必要となる。

諸君らも心せよ。もう後戻りはできない。

我が国が勝つか滅びるかだ」


「「「「「「「はっ」」」」」」」


 返答し頭を下げる列席者の中には顔色の冴えない者もいる。

 だが、全ては決せられた。

 

 既に海軍の機動部隊はハワイを奇襲すべく北太平洋上にある。

 そして閑院宮摂政直属の部隊も定められた配置につきつつあった。


 この開戦決定にあたり閑院宮摂政から松岡外務大臣に特に指示があったのがアメリカ政府に対する宣戦布告の通知についてである。

 閑院宮摂政自ら考案したという宣戦布告の文章が松岡外務大臣に渡された。


 その文章は閑院宮摂政の指示で、その場で松岡外務大臣が読み上げ、他の閣僚達にも披露される。

 そして読み上げた松岡外務大臣を含めその場にいた者全員が驚愕した。 


「で、殿下、こ、これは……」

 松岡外務大臣は、読み上げた内容が内容故に問いたい事はあれど、言葉に詰まる。

「……」 

 近衛首相に至ってはもはや言葉は一言も出なかった。

 他の者達も同様である。

 言いたい事はあったが閑院宮摂政の醸し出す狂気にも似た雰囲気に呑まれてしまっていた。


 閑院宮摂政はその様子をただ黙って静かに見ているだけであった。

 

 この宣戦布告の文面は、それを見る事になる日本の外務省担当者だけでなく、渡される事になるアメリカ政府の面々をも驚かす事になる。



 その日の夜、改めて杉山陸軍大臣と及川海軍大臣が共同で閑院宮摂政と会談していた。

 両大臣が面会を要望し閑院宮摂政が応じたからである。

 面会の理由はやはり宣戦布告の文面である。

 両大臣とも閑院宮摂政の真意を伺いに来たのであった。


「儂だけかね。アメリカに勝てると思っているのは?」


 閑院宮摂政のその言葉に両大臣は言葉を濁した。


「いえ、そうは申しませんが……」

「敵は大国でありますので……」


「まぁよい。日露戦争後に海軍は仮想敵国をアメリカに定めたな?」


「はい。その通りでございます」

 閑院宮摂政の問い掛けに及川海軍大臣が答える。

 

「アメリカを敵と定め戦略を練り上げて来たのは何も海軍だけではないぞ。

我が陸軍にも対アメリカ戦略はある。そして、それは日露戦争後から準備を始めておる」


「殿下、小官は陸軍大臣の任にありますが、今までそのような話しは寡聞にして存じ上げません。それは一体……」

杉山陸軍大臣には寝耳に水の話しである。問わずにはいられなかった。


「二人には今、話しておこう……」

 そう言って話し始めた閑院宮摂政の語る内容を聞くにつれ、二人の大臣の顔は驚愕に染まって行った。


「そ、それは……」

「……」

 話しを全て聞き終えた杉山陸軍大臣は言葉に詰まり、及川海軍大臣には言葉もなかった。


「へ、陛下はこの事をご存知なのですか?」


「勿論だ。全て承知しておられる。そうでなければ、これ程の事をできよう筈もあるまい。

これまで貴官らに黙っていた事は悪いとは思うが、この戦略の要は秘匿性にある。

知る者は少なければ少ないほど成功の確率は高まる。許せ」


 杉山陸軍大臣の問いに、きっぱりと陛下も承知していると明言した閑院宮摂政であるが、それらは全て偽りである。

 対アメリカ戦略の準備は陛下にも極秘で行われて来た計画である。

 そもそも陛下に毒を盛ったのも閑院宮摂政の対アメリカ戦略の内容を知れば、陛下は必ずご反対なされるであろう事が予想されたからである。

 

「よいか、アメリカが世界一の大国ならば蹴散らすまでだ。

この世界をアメリカの思い通りにはさせん。

世界一の国力を持てば小国などどうとでもできると思い上がったアメリカに恐怖と絶望を与えてやるのだ」


 そう言って凄惨な笑みを浮かべる閑院宮摂政の表情に両大臣は狂気の迸りを見たような気がしてならなかった。

 そして、聞いたばかりのあまりの非人道的作戦に戸惑いと胸苦しさを感じずにはいられなかった。


 開戦まてあと6日。運命の日は着実に近づいてる。


【to be continued】

【筆者からの一言】


摂政は宣戦布告に何を書いたのか?

それは第58話にて。


そして「何を行おうとも勝つ」とは何を意味しているのか?

それは、もう読者様の思った通りの……


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