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摂政戦記 0048話 悪化

 1941年夏 『日本とアメリカ』


 日本とアメリカの関係が行き詰っていた。


 昨年の秋より全く関係が進展していない。


 アメリカは「日独伊三国同盟」を理由に日本への輸出に規制をかけ、日本はそれを止めるよう要望する。

 しかし、アメリカの態度は頑なで全く応じる気配が無い。

 それどころか1941年に入ると一方的に要求を吊り上げてきた。


 今やアメリカは日本に対し「日独伊三国同盟」からの離脱を望むだけではなかった。

 満洲国での通商上における門戸開放、機会均等政策の実施を求めて来ていた。


 この状況を打開すべく日本は約1年前まで外務大臣を務めていた野村吉三郎を特命全権大使としてアメリカに派遣する。

 しかし、その成果は芳しくなかった。



 6月に独ソ戦が開始されると、恐らくは日本が連合国側のソ連に侵攻しない様にさせる為だろうが、さらに圧力は強くなる。

 アメリカは満洲国について「満州事変」以前の状態に戻すよう求めても来た。

 

 実際、アメリカの懸念は外れておらず、7月2日に開催された御前会議ににおいて「情勢の推移に伴う帝国国策要綱」が決定されたが、これには「日独伊三国同盟」に基づき、独ソ戦の進展が日本に有利になれば、ソ連に対し武力行使を発動するとされていたのである。 


 日本政府はアメリカの満洲についての要求に対して、流石にそれは過大過ぎるとして求めには応じなかった。

 しかしアメリカが要求を取り下げる気配も全く無かった。


 これはコーデル・ハル国務長官の私的なブレーン、ジョージ・グリーンを始めとする閑院宮総長の工作員が動き、各アメリカ政府の要人の考えを対日強硬政策に導いた結果である。

 イギリスとオランダがアメリカの動きに同調するのもこうした工作員達がアメリカ政府の要人にそう仕向けさせているからであった。


 ただ、対日強硬政策とは言ってもアメリカ政府はこの時点において全ての要求を日本に呑ませようとは思っていなかった。過大な要求をしてから譲歩して要求を呑ませるつもりである。

 目的はあくまで日本の「日独伊三国同盟」からの離脱である。


  しかし、状況は両国にとり更に悪化する。


 日本陸軍参謀本部の作成した「蘭印攻略計画書」が、イギリスとアメリカの工作員の手によって両国の政府の手に渡ったのである。

 

 この計画書にはアメリカ、イギリス、オランダからの経済制裁の打開策として、最も弱く、また資源に恵まれている蘭印を攻略する計画であると記されていた。


 そして実際にこの計画書通りに日本陸軍が台湾に兵力を送り始めたのである。


 この計画書の存在と台湾への兵力移送をアメリカ政府は重く見た。

  

 アメリカ政府は日本に対し更なる圧力をかける。


 日本への石油製品及び石油の全面禁輸。

 日本の在アメリカ資産の凍結。

 

 日本の在アメリカ資産は6億5000万円。

 アメリカの在日資産は4億円。

 対抗手段をとりアメリカの在日資産を凍結したとしても日本の痛手の方が大きい。

 それな加えて生活必需物資が殆ど自給自足できるアメリカに比べ、日本はその殆どをアメリカや東南アジアから輸入しなければならない貿易構造にある。


 持てる国アメリカの持たざる国日本への圧力は大きかった。


 それに加えてアメリカの措置にイギリスとオランダが追随する。


 アメリカ、イギリス、オランダの三ヵ国で資産を凍結され鉄も石油も入って来ないともなれば日本は完全に経済的に締め上げられたと言っても過言ではなかった。


 しかし、日本政府もアメリカ政府、イギリス政府、オランダ亡命政府も知らぬ事がある。


「蘭印攻略計画書」なる物は完全な偽書であり、日本陸軍参謀本部で正式に作成されたものではなかった。閑院宮総長の意を受けた者達が作成しアメリカとイギリスに渡るように工作した結果である事を。


 台湾への兵力移動は陸軍参謀本部より日本政府及び軍部に対し対ソ戦発動を睨んでの「関東軍特種演習」の一環と説明されており、台湾を経由する事で、満洲に集結中の日本軍兵力の全体像をソ連に容易には悟らせないようにする為とされている。しかし、実際には「蘭印攻略計画」に関係あるようアメリカとイギリスに見えるよう移動命令を閑院宮総長が仕組んだ事を。


 日本政府を含めアメリカ政府も、イギリス政府も、オランダ亡命政府も全ての国が閑院宮総長の手のひらの上で転がされていた。

 それを知る者は少ない……


【to be continued】

【筆者からの一言】


史実における日本の在アメリカ資産は5億5000万円。

アメリカの在日資産は3億円。

しかし、今回の歴史では異なる歴史を進んだ為に増えているようです。


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