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摂政戦記 0045話 相談相手

1940年秋 『アメリカ ワシントンDC コーデル・ハル私邸』


 その日の夜、アメリカの国務長官コーデル・ハルは自宅に一人の友人兼ブレーンを招いていた。


「やぁジョージよく来てくれた。

今回も君の言う通りだったよ。日本がドイツと同盟した」


「当たっても嬉しくはありませんね。こういう悪い事は」


「まったく君には驚かされる。もう20年の付き合いになるが、君の言う事が外れたのを見た事がない。流石だよ」


「すべては情報収集と突き詰めた分析の結果ですよ」


 そう言って肩をすくめたジョージ・グリーンはコーデル・ハルの故郷テネシー州の実業家で主に貿易を営んでいる。

 コーデル・ハルが下院議員時代からの知り合いで、選挙の時は資金面で随分と助けてくれた。

 それだけではない。

 彼の国際情勢を見極める目は実に正確で外した事がない。


 ヒットラーの台頭を言い当て、その後のオーストリア併合に始まる領土拡大を悉く先んじて言い当てている。

 ドイツだけではないスペイン内戦の始まりとフランコ将軍の勝利も言い当てた。

 イタリアのムッソリーニの活躍やイタリア軍によるエチオピア侵攻も予見した。

 アジアでは日本の満洲国建国を言い当てている。

 それらはジョージ・グリーンがこれまでに言い当てて来たほんの一部に過ぎない。

 貿易業を営んでいるとはいえ、まるで神の目を持っているかのようだ。


 コーデル・ハルは彼に何度か国務省の要職に就く事を要請したが「お役人になるのは勘弁」と言われてその都度断られている。

 政治家としてのハルの姿勢が好きだからあなたを支持し援助もするが、あまり政府には興味が無いとも言っていた。

 自分を好きでいてくれるのは嬉しいが、その才能を野に置いて置くのはいかにも惜しい。

 だからこそ、自分が彼の才を汲み取って国の役に立てなければとも思う。


「それで、日本へのこれからの対応なのだが……」


 コーデル・ハルの相談はこの日も夜遅くまで続いた。

 

 コーデル・ハルは知らない。何故、彼が神の目を持っているかのように国際情勢を言い当てる事ができるのか。

 それは情報収集と突き詰めた分析の結果などではない。

 東洋の島国にいる未来知識を持つ軍人がアメリカに送り込んだ工作員に他ならないからだ。

 

 彼の役割はアメリカ政府の外交政策をタイミングを計ってある方向へ誘導する事。


 閑院宮総長の陰謀の魔の手はアメリカ政府のすぐ近くにまで伸びていた。

 そして、それはジョージ・グリーンだけではなく、もっと多くの工作員が送り込まれている。


 彼ら彼女らの活動にアメリカ政府は少なからぬ影響を受けていたのである。


【to be continued】

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