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002 王都最高の情報屋との初邂逅

ブラッディ家次期当主クロン(5歳)は、初めての登城を心の底から楽しみにしていた。

しかしクロンはフラッと王都見物をしている最中に、自分の家が貧乏だった本当の理由をたまたま見つけてしまう。

本当ならば両親や家臣にその事を伝え、然るべき措置を取れば事は収まるのだが、クロンの家の愉快(?)な仲間達は普通ではなかった。

自らの家族と領民達を護るため、クロンは王都で暗躍をし始めるのだった。

◆ブラッディ家の次期当主(5歳)は王都最高の情報屋と密会する◆


 俺はブラッディ領専用倍率表を見つけて王都見物を取りやめる決意をした。だが決意はしたもののすぐには動けなかった。なぜなら、とにかく今日も合わせて3日間という短期間で、必要な情報収集をしなければならないのだが、必要となる情報が広範囲過ぎて、圧倒的に人手が足りないからである。


「ん~~~…しょうがない。身銭を切るか…。」


 俺は腕を組んで目をつぶり上を向いて少しの間考え込んでいたがすぐに目を開け、領地から部屋に持ってきていた私物をあさり、小さな革袋一つといつもの山狩りに行く時に使っている装備一式を持ち出した。


「俺の金は住民の血税。俺達貴族は住民によって生かされているだからな…。とにかく時間もないことだし動くとするか。一応書き置きだけは残しておこう…。『王都の近くに出る、面白そうなモンスターの情報を手に入れたので行ってきます。王女様の誕生日前には戻ります。クロン』よし!これでいいな!」


「何がこれで良いのですか?」


 俺の背後から突然体を抱きしめて密着してきた専属メイドのシノが話しかてきた。勿論俺はシノの元々の職業柄、気配も殺気も足音すらない接近に『魔力察知』のおかげで気がついていたが、シノが二人きりだと俺にくっついてくるのいつものことなのと、丁度良い人手を手に入れたと考えたのでそのまま抱きつかれる。


「シノ問題が起こった。今から動く。この案件は父様と母様には絶対気づかれてはダメだ。よって第一級秘匿行動で動く事になる。お前はクリスとミミに『俺と一緒に行く』とだけ書き置きを残してすぐにここに戻ってこい。誰にも気取られるなよ?」


 俺がシノにそう指示を飛ばすと、俺を後ろから抱きしめていたシノの表情が平時のニコニコした顔から、キリッと引き締まった仕事の時の顔に変わった。


「はいお館様。2分で戻ります。」


 すぐに俺から体を離し、仕事モードで部屋から出ていくシノを見送った俺は、他の役立ちそうな私物をあさりだした。


◆王都スラム街の廃教会◆


「戻ったか。首尾は?」


 屋敷を出てから3時間後、俺は王都のスラム街の奥にあった廃教会の最前列の席に座ってシノを待っていた。なぜならば屋敷を出てすぐに情報収集を始めた所までは良かったのだが、武器や防具・ローブで冒険者風に偽装はしているものの俺の体格は他人から見ればどこからどう見ても子供なので、俺が情報屋達が集まる場所に行くと、なんらかのトラブルに見舞われてしまうのだ。勿論HA・NA・SHI・A・I(物理)で多くの情報は手に入ったのだが、情報の精度を情報屋に求めると、決まってある情報屋の名前が出てきたのである。その情報屋の名前は『フェンリル』。この王都最高の情報屋の名前だった。


「はい。すぐに来ます。」


 俺の問い掛けに端的に答えたシノは、俺の正面に回り込んで止まった。シノが正面に回り込んですぐに気配も足音もシノと同等に無い、見覚えのない魔力が入り口から教会に侵入してきた。


「フェンリルそこの書簡に書いている情報を集めるのにどれくらい時間がかかる?」


 俺は振り向きもせずに、聞こえるか聞こえないかわからない小声でフェンリルであろう侵入者に問いかける。


 フェンリルと呼ばれた魔力は動きを止めて俺の指示した書簡を微かにしか音をたてず開いて目を通した。


「…すぐにでも教えられる。これらの情報は既に把握済みだ…。」


「わかった。では今から渡す書簡に書いてある質問の答を書いてくれ。書き終わったら料金を提示してくれれば支払う。」


 俺はそう言って手に持っていた書簡を後ろも見ないままフェンリルに向かって山なりに放り投げる。フェンリルはその書簡を音もたてずに受取り、内容を確認してすぐに口を開いた。


「…これぐらいの情報であれば俺を使う必要は無い。」


「いや、そうであっても俺はお前の持っている最新の情報が知りたいんだ。どの情報屋に話を聞いてもお前の持っている情報が、この王都では最も信頼のおける情報だと聞けた。正直な話俺はこの王都の人間ではない。たまたまこの王都に来る用事があって今ここに居る訳なんだが、これもたまたま巻き込まれた状況を打破するための情報を急遽2日以内で集めることになった。土地勘もなければ時間もない、そんな状況で情報を正確に集めるには、お前の情報が必要なんだ。だから頼む。文字はその書簡を閉じていた紐にくくりつけてある木の棒を使えば書けるから使ってくれ。」


 俺は後ろも見ないでそうフェンリルに話しペコリと頭を下げた。そんな状況をじっと見ていたフェンリルはしばしの沈黙の後、教会の席に座り書簡を解いた時に外した紐にくくりつけてあった木の棒を使い、クロンの質問に答えを書いた。


「…書き終わった。料金もこの書簡に書いてあるので確認しろ…。」


 フェンリルはそう言うと元のように閉じた書簡を投げナイフのように鋭く俺の後頭部に向かって投擲した。俺はそのフェンリルの行動が魔力察知でわかっていたので、後ろを振り向くこともなく書簡を手で掴みフェンリルが書いた内容を読み始めた。


「へっ?料金は俺の顔を見ること?そんなことでいいのか?一応俺としてはこの密会の方法は、フェンリルっていうか、情報屋の顔バレをしないための配慮のつもりだったんだけど良いのか?」


 俺が戸惑っていると、シノがフェンリルの代わりに口を開いた。


「お館様は相変わらずご自身の力量を低くお見積になる…。私やフェンリルのように闇に生きるものは仕事をする際は何よりも安全を確保することを念頭に置きます。ですので特に隠形は常日頃から磨いているつもりなのですが、お館様にはその隠形が一切通用しないではないですか?そうとなれば通常であれば自身の安全を確保するために依頼者の暗殺や闇討ちを考えますが、フェンリルの放った書簡を振り向くこともなく掴み取って読み始めたお館様にはそういった手段を取るにはリスキー過ぎるのです。我々のような者からしたら、一定以上の強さを持ち、なおかつ隠形が一切通用しないお館様は不倶戴天の敵のようなものなのですよ?」


 俺は呆れが混じったシノの言葉に目をパチパチして驚いて話しかける。


「えっ!?マジで?っていうかもしかしてシノが最初の頃に俺に向かってきたのって、婆様や母様の訓練とか鍛錬とかじゃなくってマジに暗殺だったのか!?」


 俺のシノに向けたその言葉を聞いて、フェンリルは心底同情した目でシノを見た。シノもそのフェンリルの同情の篭った目のことはわかっていたが、あえて無視して話をすすめる。


「コホン!そんな些細な事はどうでも良いではありませんかお館様?それよりもフェンリル。お館様の顔を見たいということですが本当にそれだけでよろしいのですか?先程お館様がお話になったように私達には時間がありませんので本当にそれだけでよろしいのでしたらすぐにでも失礼したいのですが?」


「あぁ。かまわない。甚だ不本意だが貴女の言ってることは私にとっても間違ってはいない。私の隠形が一切通じない今回の依頼者の事を知っておくことは私の今後に大いに役立つ。」


「ふむ…いや、そういうことなら顔見せと共に俺の名も名乗っておこう。俺の名はクロン=フォン=ブラッディ。名前だけで察したかもしれないがブラッディ西方辺境伯爵領次期領主だ。もしもまた王都で情報が必要なときがあったら宜しく頼むぞフェンリル?この革袋の中身は情報に対する正当な俺からの謝礼だ。ルビーの原石だからいくらかにはなるだろう。ここに置いていくからお前の好きにしてくれて構わん。シノ行くぞ。」


 俺はそう言いながら振り向きながら立ち上がり革袋を置くと、無造作にフェンリルの横を通り過ぎていった。残されたフェンリルはクロンの背中を見送った後、そのあまりのクロンの堂々とした態度に苦笑して革袋を手にとり中身を確認した後にその場から音も無く消えたのだった。


「ヤレヤレ。これでようやく情報は揃った。あとは王家との交渉次第だな…。仕上げに入るぞシノ?」


「はい!お館様っ!」


 クロンはフェンリルから手に入れた情報を懐に入れて満面の笑みを浮かべたのだった。

どうもNULLです。・ω・

まぁめっちゃ間が空いてしまいましたが、二話目投稿させていただきます。

一章までの大まかな構想はできておりますので、サクサク投稿できたらいいなーっと思っています。

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