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ダンジョン・カルテット  作者: 蝟太郎
劫火盗の迷宮主の場合
12/12





 あん、何だ、ここは?



 周囲を見渡しても見た事がない場所。まるであのベッドから目覚めた時のように、気が付いたら俺は見知らぬ場所に立っていた。



 何が起きたのか分らぬまま、俺は周囲を訝し気に確認してみる。



 部屋の壁は沢山の時計が嵌め込まれ、耳障りな程に秒針が音をかき鳴らす。

 明らかに見た事がない場所だった。


「おい、猿! どっかにいるだろ!」


 ドスの利いた声で叫ぶが、その声に対する返事はない。

 くそっ、何処なんだ、此処は。俺が創った迷宮はどこ行ったんだよ。



 ほんの数秒前まで俺は1週間で作り上げた迷宮の中にいた。

 迷宮の手引きが五月蠅いほど振動し、なんかよく分らない奴がよく分らない事を言った挙句に、出入り口の設定とか言い出したのだ。


 早い者勝ちらしいから、適当に選ぼうとしたのだが、画面を押したら【エラー・既に他の迷宮主が迷宮の出入り口の設定を行っています】という文字が浮かび上がる。どうやら他の誰かと被ったらしく、少し前まではなかった赤い丸がついていた。



 その後も、何個か選んで押したが、直ぐに浮かぶのはエラーの文字。

 非常に腹立たしいその自体に、俺はもう赤い丸とか関係なしに、適当に画面をタッチしまくった。そして、タッチをしまくっていたら、いつの間にかこの場所に立っていたのだ。


「くそっ、どうなってんだ」

 適当に押しすぎてバグったのか?


 周囲の状態を確認しながら、俺は取り敢えず足を進める事にする。


 狭い通路に五月蠅い程の時計の音。空気も悪く、どこか錆びた鉄のような臭いが漂っている。しかも、迷路のように彼方此方に分岐点があり、どこか別の場所にたどり着ける気配すらしない。



「うるさいんだよ!」

 この訳の分からない状況にイライラしてきた俺は、壁で喚き散らしている時計をぶん殴る。

 だが、返ってくるのは手の痛みだけで、プラスチックで出来ていそうなちゃちい時計は壊れる気配すらない。どんだけ、硬いんだよ、この時計は!



「猿! どこだ、猿!」


 俺の迷宮で最初に生み出した黒縄大華の火猿王を何度も呼びつけるが、何処にもその姿は見えやしない。それどころか、人っ子一人いやしない。



「くそっ、腹立たしい!」



 俺は壁を適当に蹴り飛ばすが、返ってくるのは痛みと硬い感触のみ。

 どこにぶつけるべきかも分らないこの腹立たしさに、俺はただ地団太を踏む。


 そんな時、どこかで錆びた鉄をこすり合わせるような音が聞こえてくる。



「なんの音だ?」


 周囲の時計の音に混じって僅かに聞こえてくる音に、俺は首を傾げる。ただ、この場で当てもなく彷徨うよりはよっぽどマシだろうと考え、音のする方へと向かう。



 それがミスだった。止めときゃよかった。


 音がする方へと向かってみると、それが目に入った。

 錆びた鉄板をつなぎ合わせた人形の様な物体。目はガラス玉で出来ており、心臓がある位置に安物の時計が設置されている。適当に作り上げた鉄のおもちゃのような生物である。その生物は手に粗雑な造りの剣を持ち、この時計が犇めく廊下を3人組でうろついていた。


「……なんだ、ありゃ」


 見た事もないような変な物体に俺の口からは思わずそんな言葉が漏れる。


 そんな俺の呟きを聞きつけたのか、その変な人形はくるりと振り返り、此方へ目を向ける。そして、その玩具たちは意思のない瞳を浮かべながら、此方に向かってくる。


 そして、次の瞬間、俺に向かって、剣を思いっきり振り下ろす!


「うをっ、なんだ!?」

 へろへろとした剣筋でバックステップで避ける事は出来たが、そんな事はお構いなしでほかの玩具たちも剣を振り下ろしてくる。


 なんなんだよ、こいつらは!


 ガラス玉の瞳で此方を襲ってくる鉄の塊。剣を振り降ろし、思いっきり横に薙ぐ。子供のチャンバラごっこのような攻撃だが、振り回しているのは鉛色の本物の剣。


 振るわれる度に、背筋が凍るような感覚を覚える。

 だが、そんなのにビビッてられやしない。


「うざったいんだよ!」


 剣を振り下ろした隙に、俺は思いっきり前蹴りを喰らわせる。

 ガシャンという音が響き、鉄の塊の人形が倒れる。そして、倒れる勢いに巻き込まれ、他の2体も一緒に倒れ込む。その隙を見逃さず、俺は落ちている粗悪な剣を拾い上げると、そのまま倒れた人形たちに振り下ろす。


 ガツン! ガツン! ガツン!


 鉄で鉄を叩く音が響く。利いているのか分らないが、倒れた人形を壊れるまでぶっ叩く。


 ガツン! ガツン!


 一体、どれ程叩いたのか、ようやく人形たちはぴくりとも動かなくなる。

 それを確認し、俺はようやく安堵の息を吐き出す。



「何だったんだよ、こいつらは……」


 肩で息をしながら、俺は倒れている人形に目を向ける。


 だが、俺の呟きに答える声はどこにもなかった。




 ただ五月蠅いほどに、時計が音を鳴らし続ける。






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