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ダンジョン・カルテット  作者: 蝟太郎
偽輪廻の迷宮主の場合
11/12





 微睡みの世界の中、唐突な振動が僕を襲った。



 脳味噌が直接混ぜ合わされる様な衝撃。あまりの現実離れした驚きに、ベットから飛び起きる。

 一体何が起きたのか。まだ覚醒しきっていない頭を無理やり動かし、慌てて周囲を見渡した。


 もしかしたら、また知らない部屋で目覚めるのではないか、と不安が過る。



 だが、そこにあるのはいつもの白いベッドに、ふかふかの土。そして、ようやく芽が出始めた菜園。良かった。いつもの菜園室だ。


 心臓は痛いほどにバクバクといっている。頭を触ってみるが、心臓とは対照的に、どういう訳か痛みはないし、どこか体の部位に異常も無い様だ。


 一先ず安堵のため息を吐き出す。そして、一体何があったのかと周囲を見渡すと、大きく振動している迷宮の手引きがあった。手引きからは不思議な音楽が奏でられており、ほら見ろよとばかりに存在を主張しまくっている。



 いや、なんだろう、これ。




 とにかく自己主張の激しい迷宮の手引きを、僕は首を捻りながら観察する。すると更にぐわんぐわんと迷宮の手引きは暴れだし、それに連動するように先ほどと同じような脳への衝撃が起きる。


 ぐううう、何だこれ。こ、こいつが原因か!


 痛む訳ではない。ただただ脳をブルブルとシェイクされる様な衝撃が響き続ける。



 無理だ無理だ無理だ無理だ。

 これは無理だ。耐えられるような衝撃ではない。


 どうすればいいのか、僕は慌てて目の前にある迷宮の手引きを開く。



 その瞬間、頭に響いていた衝撃はぴたりと鳴り止み、迷宮の手引きが唐突に光り出した。そして、眩しいほどに射出された光は、壁に何処かの地図を映し出した。


 え? なにこれ?



 プロジェクターの様に映像を投影する迷宮の手引きと、写される地図を意味が分からず眺めていると、突然誰かの声が響いてくる。


【──、これで全員が揃われましたね】


 それは言葉ではない。意味を直接脳内に投げつけられたかのような、その発言。口で発言し、耳で聴きとるという過程を無視したかのような発言の違和感に、僕は思わず頭を押さえる。


【どうやら、まだ慣れない方もいらっしゃるようですね】


 その声は男のようであり、女のようでもある。機械のようでもあり、動物の咆哮のようでもあった。つまりは、全くよく分らない声なのだ。


【さて、今回迷宮の手引きをお渡しさせて頂きました、皆さま。改めましてありがとうございます】


 何が何だかわからない状態の僕を置いて、迷宮の手引きから投げられる発言はそう言い始める。


【ああ、申し訳ございませんが、ご質問にはお答え出来かねません。ご了承ください】


 申し訳なさそうな感情を乗せ発言するソレ。

 そんな状態を見て、僕はなんとなく状況を把握し始める。



 なるほど、これが黒幕か!

 よく分らないけど、こういう感じで登場して、何か重要な事を言い始める。最初はその存在はよく分らないけど、物語の終盤には貴方の助けが必要なんですとか言ってきたりするキャラクターだな。あー、逆にここまで成長されては邪魔ですよとか言い出すパターンもあるか。



 とりあえず、今気にしても仕方がない存在なのだろうと、僕は検討をつける。


【では、今回のご連絡につきまして、簡単にご説明させていただきます】


 この現象に納得し始めている僕に、ソレはそう発言すると壁に投影している映像を変化させる。



 映像は砂時計であった。

 砂時計の砂がほぼほぼ全て落ちかけている映像だ。なんだろうか、これ。



【皆様が迷宮創造を行い始め、約一週間が経過しました】


 そういえば、それぐらい時間が経った気がする。あんまり覚えてないけど。


【そして、一週間が経過する事。つまりこの砂時計の砂が全て落ち切ったタイミングで、迷宮の機能の一つである出入り口の設定が可能になります】


 あー、その話もどっかで聞いた気がする。確か、あのカボチャ頭がそんな事を説明していたような。殆ど聞き流してたけど。



【出入り口の設定ですが、幾つか条件があります】

 ソレはそう発言し、条件を提示し出した。その条件とは、こんな感じだった。


 同じ場所に2つ以上のダンジョンは作成できない。

 今回ダンジョンが作成された場所の半径30キロ以内にもダンジョンの作成はできない。

 海中や土の中など、200年以内に人類が到達する事が出来ない場所にダンジョンの作成も出来ない。

 ダンジョンの場所指定は早い者勝ちである事などだ。


【以上の条件を満たした場合のみ、ダンジョンの出入り口の作成が可能になります】


 まあ、それはそうだろうなという感じの内容である。人が来ないとダメなんだろうし、他の迷宮が近すぎても面倒くさいし。

 取り敢えず、なんとなくわかった様なふりをして、僕は頷いてみる。



 そんな僕を尻目に投影される映像が砂時計から、地図へと戻る。


【また、ダンジョンの出入り口は現在表示している地図に指で触れていただく事で設定が可能となります】


 タッチパネル式なのか。壁に投影されているのに、どうなってるんだろうか。あー、それを言い出したら今更かな。それじゃあ、迷宮ってどうなってんだって話だし。



 どうでもいい事を考えていると、ソレは話を締めるように発言する。


【では、そろそろお時間です。皆さまがダンジョンを成長させ、ご返却させていただく事を楽しみにしております】


 それだけ発言すると、ソレの言葉は止まる。

 あれ? 終わり?



 なんかもっと、こう人間どもを葬るのだーとか、私のもとにたどり着くのを待っているぞーとか、そんなのがあるんじゃないの?


 そんなどうでもいい事を考えるのとほぼ同時に、地図の一部に赤い丸が付く。

 んー? どうなってるんだろうか?


 地図をよく見ると、ある地点を中心に30キロメートルが赤く色づいている。ああ、なるほど、これがダンジョンの作成か。こうやって早い者順にダンジョンが埋まっていくのか。





 って、やばいじゃん!

 急がないと、いい場所取られるんじゃん!



 僕は慌てて、地図へと視線を向ける。僕が視線を向けるのとほぼ同時に、彼方此方に赤い丸が付きだす。うわわわわ、い、急がないと。


 慌てて空回りしそうになる自分を何とか抑えて考える。


 どんな場所がいいか。人間の国が近いところ? それともなるべく来ないところ? 前人未到の場所はダメだし。えーと、なんか魔族が住む魔界とかもあるのかな? あー、でもそこはパスかな。

 とりあえず、考え続けるけどいい案なんか浮かばない。それどころか、さらに速度があがるように彼方此方に赤い丸が付き始める。



 こ、こうなったら、もう適当だ!


 下手な考え休むに似たり! やるときは、やるんだ!

 思考を完全に放棄し、僕は大きく吸い込むと目を閉じて適当な場所をタッチする。







 その瞬間、地面が大きく揺れるのを感じだ。

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