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雨が降る。しとしと降り続ける。
曇天模様の天井を見上げながら、僕は小さくため息を吐き出した。
「外に出たくないなー」
「いえ、まだ迷宮の中なのですが」
一体何処から取り出したのか、ボロボロの黒い傘を差しながら、呆れた顔でカボチャ頭が答える。そんな彼に僕は、分かってないなと、アンニュイっぽい表情を浮かべながら、首を振る。
「部屋を一歩でも出たら外なんだよ。ああ、だるい。帰りたい」
更に帰巣本能をアピールする為、盛大にため息を吐き出した。そんな今すぐにでも横になりたい僕の気持ちを察してか、近くを浮遊していた巨大な人参が近づいてくる。
おお、君は僕の気持ちを理解できている良い人参だね。
ぽふぽふと馬を撫でるように軽く人参を撫でてから、僕はそれにまたがる。そして、そのまま天井から落ちてくる雨も気にせず、ぐでーっと横になった。
「あの、一応、今後の命運を握るであろう迷宮の視察なんですが。もうちょっとやる気だして欲しいんですが」
「嫌だ。帰る」
人参の頭をぺしぺしと叩くと、僕の言葉を理解したのか、ふらーっと迷宮の最奥、つまり私の部屋へ向かって移動し始める。
こいつは 天地に還らぬ巨大人参と呼ばれる迷宮モンスター。
人を乗せて浮遊する他に、人参のヘタの部分から強烈な刺激臭がする液体を吐き出す事ができる。殺傷能力はほぼ無いけど、液体が身体に何度もかかると嘔吐とか眩暈とかの状態異常にかかるらしい。非常に厭らしいモンスターだ。
更に云えば不死性も持っている。
不死性とはこの迷宮に雨が降り、床にふかふかの地面がある限り、どれだけ切り刻んでも成長して復活するという特性。二つに切ったら破片が地面に落ち、一瞬にして復活して二匹となって襲い掛かってくる。更に細切れにしたら刻んだ分だけ復活する。まあ、完全に消滅させるとかだと復活しないらしいけど。
つまり、こいつは死なずに臭い液体を噴射し続けるだけのモンスター。とりあえず、能力的には完全に嫌がらせ専門だ。
「疲れた」
「いえ、何もしていないんですが」
そんな巨大人参に跨りながら、僕は自分の部屋にしている菜園室へと向う。他にも色々と部屋はあったが、何というか、ここが一番僕にとって落ち着く場所だった。
ほら、柔らかな日差しの中でガーデニングなんて、儚い僕に似合うだろ。
外には出たくないけど、何となく土を弄ったりするのは嫌いじゃない。
それに、あのカボチャ頭が何処から拾ってきたのか、良く分からない種を持ってきた。何が育つのか分からないが、最悪カボチャぐらいは育つだろうとそいつを育て始めている。
まあ、まだ芽も出てないけど。
既に目覚めた部屋にあったベッドは菜園室に運んでいる。更には扉を叩くとカボチャ頭がご飯を持ってきてくれる仕様になっている。これで引き篭もる準備は万全。ついでに、迷宮の準備も出来るところは大体終了させた。
迷宮のいいところは、部屋の中でも遠隔操作で弄れる所だと思う。頭の中でイメージするとイメージ通りに障害物とか罠が生み出される。非常にお手軽。引き篭もりにも安心のシステムだ。
まあ、モンスターを生み出すのは、ダンジョンコアの所に行かないといけない仕様で、そこが一番面倒なんだけど。でも、適当に三種類ぐらい生み出した後に互いに細切れにするように命令したら一気に増えた。
カボチャ曰く迷宮から降っている雨も、ダンジョン・ポイントを使用して降っているそうなので、完全にコスト0という訳じゃないらしい。でも、ダンジョンコアから生み出すよりは安価で、モンスターを揃えられているとの事。
非常にいいことだ。
ちなみに生み出したモンスターは人参以外は、巨大な玉葱とジャガイモ。完全にシチューでも作るかのような材料だ。
それぞれが特殊能力の他に、不死性も兼ね備えている。このまま無限に増えていけば、侵入者が入る隙間もなくなるだろう。そうすれば、完全に安全なダンジョンが生まれる。
誰にも邪魔されない完璧な世界。すごくいい。
「……せめて、自分からベッドに移動してくれませんか?」
そんな事を考えていると、カボチャ頭が呆れたような声でそう言ってくる。どうやら、既に菜園室についていたようだ。更にいえば、ベッドの前にいる。
賢い人参だ。それに比べて、カボチャはどうだ。ベッドに下りるのすら、面倒くさがっていると思っているのだろうか。
小さくため息を吐き出して、僕は寝返りの要領で僕はそのままベッドに飛び込む。
カボチャ頭が更に呆れたように何か言っていたが、僕は気にしない。そのまま目を瞑り、静かに快眠へとシフトチェンジしていく。今日は良く働いたし、良く寝れそうだ。




