第2話
橙色の空を舞う烏が鳴いている。
暖かな風が時折吹き、満開を迎えた桜を散らす。
ビルや車、電信柱を見る事が出来ず、よく見るアスファルトはそこには無かった。時たま通る人の服装は和服ばかりであった。
「六園寺殿、次はいつ戻られるのですか?」
六園寺と呼ばれた青年の腰の高さ程の小さな少年は、寂しそうな表情を浮かべ問う。
「わからないな。今度は前回よりも遠い所へ行く予定なんだ。帰ったら報告へ行くから待っていてくれないかな。」
優しく微笑み答えるが、少年は寂しさをいっそう覚えた様だった。
「前回よりも長いのですね…。気をつけ行ってきてください。」
「ありがとう。さ、もう暗くなるから気を付けて帰るんだよ。」
近くの家からは今晩の夕食であろう匂いがする。少年の母親も夕食を作って、帰りを待っている事であろう。
「はい、ありがとうございました。さようなら。」
少年はお辞儀をすると、自宅へと帰って行った。
青年は、少年を見送ると母屋へと入る。
そこにはどう考えても周りの者たちから浮いてしまうであろう服装の者が立っていた。
「桔梗、いいのかい?嘘をついてしまって。ボクらまた"今日"に戻って来る事が出来るのだから嘘をつく必要は無いじゃないか。」
2人の会話を聞いていたのだろう。面白そうに、青年六園寺桔梗に問う。
「その方がいいんだ。あの子はもう少し同世代の子と遊んだ方がいい…。余計なお世話だろうけどね。」
「あの子の保護者のようだね。まぁ、面倒みがいい桔梗らしいけれど。」
苦笑しながらも照れる桔梗に、問いただした本人は微笑む。
「ところで、菫はどうしてここに?何か用があったのだろう?」
自分が家から出るまで居なかった相手が今ここに居る事に対し、今度は桔梗が問う。
そして、問われた相手、二堂菫は当然の様に答える。
「遊びに来ただけだけど?ボク、暇で暇で仕方なくてさ。それと、ついでに、我らが團長様から伝言があってさ。向こうの組織が依頼を受けたらしいから、急いで来てくれって。」
「なるほど。今回は正当な理由があったのか。だが、瑞香をついでみたいにするな。」
我らが團長とは一ノ瀬瑞香の事である。
一ノ瀬瑞香、二堂菫、六園寺桔梗が所属する団体は計7名。全員が自身の時を別の時代に持っている。
「そんなにボクが来られたく無いのかい?」
「そりゃ、遊びに来て茶と茶菓子を樽ほど食っては帰って行くからね。僕の生活が成り立たなくなってしまうよ。」
「そういいながらもお茶とお菓子を出してくれる所好きだよ。」
部屋の中へと招き入れ(既に家には上がっていたのだ)、腰を下ろしためんどくさい客人にお茶と茶菓子を出す。
「はいはい。僕は準備して来るから、それ食べながら待っててくれないかな。」
「はーい。やっぱり桔梗のお茶は美味しいな。」
客人を居間に置いたまま、自分の部屋へと行ってしまった。