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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ダークファンタジー

勘違い勇者の異世界ライフ

作者: 田井ノエル

※胸糞です。ご注意ください※

 

 

 

 俺は勇者として召喚された。


 大きな神殿の真ん中に、全裸召喚。

 弁明しておくが、趣味で全裸になっていたんじゃないぞ。自宅で風呂につかったら、いきなり吸い込まれて召喚されていたのだ。迷惑な話である。


「おお、勇者様! この世界をすくってください!」


 お決まりのように、救いを求める神官たち。どう見てもモブ顔だ。アニメだったら、AとかBなんて名前で表示されていそうだった。


「おう、任せてくれ! 俺が勇者だ!」


 こういうシーンは、小説やアニメの展開で慣れ親しんでいる。

 つまり、俺はこの世界を救う勇者として召喚されたということだ。

 勿論、チート能力も……ある! この場合、なんのチートもなくて恥ずかしい思いをする、なぁんてパターンもあるあるだけど、そんな心配はなかった。


 お手軽に魔力を測れる道具をつけられた結果、俺には想定以上の魔力があったらしい。しかも、詠唱なしで強力な炎を操る特典付き。


 能力そのものは地味だが、周りの反応から察するに、スーパーチートなのだろう。

 なんでも、俺の能力は【浄化の炎】と呼ばれるらしい。

 大袈裟に「この方こそが、我らの求めていた勇者様だ!」「すくいの神だ!」「これで、この地はすくわれる!」と騒いでいた。


「ゆ、勇者サマ、こちらでお召替えを……」


 恥ずかしそうに頬を染めながら、モブの中から出てくる少女。

 ピンクの髪と尖った耳が特徴的だった。幼い印象の顔立ちだが、カジュアルな服装の下に隠された胸は控えめに言っても大きかった。紛うことなきおっぱいである。柔らかそうだ。


「は、はいィっ!」


 悲しいことに童貞の俺は声を上ずらせながら、少女について歩いた。

 なんと言っても、こちらは全裸だ。多少、いや、かなり恥ずかしい。


「勇者サマの瞳……と、とても神秘的です……」


 着替えを済ませた俺に、少女が顔を真っ赤にして話かけた。白い頬が真っ赤に染まる様が愛らしくて、こちらまで緊張してしまう。


 きっと、彼女はハーレム要員に違いない。

 チート能力を手に入れたのだ。ハーレムも形成出来るはず。目指せ、チーレム!


「さ、早速ですが、明日は魔物の討伐をお願いしますっ。不肖ながら、このナガルもお供いたします……」


 ナガルと名乗った少女は恥ずかしそうに目を伏せた。

 尖った耳がピクピク動くのが可愛らしい。緊張しやすいタイプなのだろうか。ずっと、もじもじと服の裾を弄っていた。めっちゃ可愛い。すっごい可愛い。やっばい。

 これは初っ端から好みの女の子だ。メインヒロインに任命したい。


「お、おう。がんばろう……ナガルちゃん」

「ナガル、とお呼びください……」

「わかった、ナガル!」


 序盤から親密度の高い呼び方を許されて、正直、テンションあがった。これはイケる。チーレム作れる。


 そんなこんなで、恥ずかしいことにチーレムを作ることだけを考えていると、興奮するとなかなか寝つけず――眠れないまま朝を迎えた。


「勇者殿、期待しているぞ」

「一緒に、この世界をすくいましょう」

「お手伝いしますにゃ!」


 硬派そうな姫騎士に、清楚な聖女、元気いっぱいの猫耳娘がパーティとして加わった。どの子も美人である。大中小のおっぱいも選べるとは、嬉しいことだ。

 でも、一番はやっぱり、


「ゆ、勇者サマ、早速魔物の討伐に向かいましょうッ……!」


 ナガルは相変わらず恥ずかしそうに顔を赤くしていた。きっと、そういう性格なのだろう。だが、そんな態度を取られると、こちらも緊張してしまう。

 控えめに言って、超可愛い。


「魔物って、どんな奴らなんだ?」


 魔物がいるという村に案内されながら、俺は軽く問う。

 その問いかけに、ナガルはもじもじと恥ずかしそうに俯いきながら答えた。


「魔物は排除すべき対象です。それ以上でも、それ以下でもないです……排除しなければ、世界が滅びます」


 きっと、ゴブリンやオークの類だろう。召喚されて初っ端から、ドラゴンなんかと対峙したくはないものだ。

 そんなことを考えているうちに、魔物がいるという村についた。


「で、魔物はどこだ? まだ現れていないのか?」


 俺はキョロキョロと辺りを見回した。


 そこには、平穏な景色が広がっていたのだ。

 RPG序盤の村にありがちな小さな家が並ぶ長閑な風景。風車が回って、道では子供たちが遊んでいる。

 どこかに花畑があるのか、花冠を被った少女がいやに可愛らしかった。モブっぽいけど、あんな女の子を救って、「ゆうしゃさま、ありがとう!」と言われるイベントも悪くない。


「魔物なら、たくさんいるではないか。さあ、勇者殿、仕事だ。すくって頂こう」


 ぼんやりしている俺の横から、姫騎士が歩み出た。


「救うって……?」

「すくうのだ」


 楽しそうに遊ぶ村の少女の頭で、花冠が散った。

 一瞬、なにが起こったのかわらなかった。

 いや、わかろうとしなかった。


「きゃぁぁあああ! 勇者が来たわ!」

「なんだって……!? ああ……ついに……!?」


 それを皮切りに断末魔が上がった。

 村人たちが一斉に、俺たちの存在に注目した。そして、恐怖の色を浮かべながら、我先にと逃げはじめる。


「あ、あ、あああ……い、いたぃ……」


 花冠の女の子が、目の前でもがいていた。

 地面に血の海を作りながら、必死に立ち上がろうと。されど、その両足は魔法によって切断されており――風魔法の使い手であるナガルの放った一撃だった。


「な、なんで!? どういうことだよ!?」


 血にまみれた女の子を前に、俺は叫んだ。しかし、姫騎士も聖女も猫耳娘も、ナガルも……誰も行為を辞めようとしなかった。

 淡々と作業のように、村人たちを襲っている。


「すくっているのですよ、勇者様」


 俺の隣で、ナガルが平然と答えた。

 相変わらず、恥ずかしそうな赤い顔をしていたが、今はそんな表情は目に入らない。全く可愛らしいとも感じなかった。

 むしろ、いつも通りであることに寒気を覚える。


「こ、この者たちは、魔物です」

「なんでだよ!? みんな普通の人間だろ……もしかして、狼人間とか? 変身しちゃうのか!?」

「おおかみにんげん? そのような種族は存在しませんし、姿も変わりません。特に戦闘力は持ち合わせていないはずです」

「は!? じゃあ、なんで!?」


 俺が問うと、ナガルはいつも通り恥ずかしそうな表情で村人を見た。


「こ、この村は感染源なんです。早く焼却処分しなければ、どんどん病が広がります……」


「感染、源……?」


 ナガルの言葉に耳を疑った。

 およそファンタジーでは聞かない言葉だ。しかし、割とよく知っている言葉でもある。


 足元の少女を見下ろした。

 切断された足が傷ましい。出血量が酷くて、息が細くなっていた。虚ろな瞳で見上げられて、俺は呼吸することもままならなくなってしまう。


 少女の服の下には、黒い斑点が隠されていた。

 痣のようだが、一つひとつが文字のようにも見えた。どこかで見覚えがある――召喚された神殿でたくさん使われていた文字に系統が似ている。が、違う雰囲気だ。


「魔王との戦争で残された負の遺産です……わたしたちは、魔王を討ち倒すことに成功しました。でも、魔王の最期の呪いが世界中に散ってしまって……放っておけば魔力を食い潰して、死をもたらす呪詛なのです。すくうには、異世界から召喚した勇者の魔法【浄化の炎】が必要なのです」

「そんな……だって、みんな元気そう……」

「じきに死にます。そして、その死体が咲かせる花の種が、新たな呪詛へと変化するのです」


 俺は無意識のうちに耳を塞いでいた。

 しかし、目の前の村では美少女達の蹂躙が続いている。


 姫騎士が剣を薙げば、老人が片足を失って倒れた。紅い花のように血液が飛び散って、姫騎士の甲冑に模様を付け足していく。

 聖女が白いリボンのような武器で、泣き喚く子供たちを縛り上げて拘束していく。暴れれば暴れるほどリボン状の武器が肉に食い込んで、手足を少しずつ引き千切っていった。


「殺してはなりませんよ。【浄化の炎】で焼かなければ、呪詛は消えません」

「勇者殿の炎で焼却しなければ、無意味!」


 まるで本物の魔物を処理するように――否、彼女たちにとっては、呪詛の病に感染したこの村の人々こそが魔物である――易とも簡単に蹂躙が行われていく。


 命は奪われない。


「さあ」


 ナガルが俺に声をかけた。


「勇者様」


 呆然とする俺の前に、手が差し伸べられた。


「すくってください」


 とどめを刺せと言わんばかりに。


「さあ、勇者様。はやくこの世界を浄化(すく)ってください」


 俺が異世界転移で得たチートは【浄化の炎】。


 この世界を救う能力。


 魔王はいない。


 ただ、後片付けのために呼び出された勇者。


 辺りを見回す。

 蹂躙され、動きを封じられた人々。目の前の少女も、失血でほとんど息がない状態だった。このまま死ねば、呪詛が広がるらしい。もしかすると、俺自身も感染するかもしれない。


「はやく浄化(すく)ってください」


 ナガルが俺の手を握って、笑いかけた。

 はにかむような照れ笑いがおぞましい。悪寒が走って、俺は一歩も動けなくなってしまっていた。


 握られた手が温かい。

 人肌の温もりではない。直感で、魔力が流れ込んできているのだと思った。

 魔法というものについて、俺はなんの教育も受けていない。だが、感覚で使い方も大雑把な知識も備わってしまっていた。きっと、召喚の副産物だろう。


「や、やめ――」


 俺の右手に炎が宿る。

 ナガルによって、強制的に魔法を使用させられたのだ。


「やめろって……」


 泣きそうになりながら、俺はナガルの手を振り払おうとした。

 しかし、俺の手に生まれた炎はどんどん大きさを増していく。その勢いは俺の制御出来る範疇を越えており、止めることなど出来ない。


「やめてくれ!」


 炎が俺の腕に纏わりつく。だが、熱さはない。


「こんな能力要らない! ハーレムも要らない! 勇者なんて、やりたくない……! 嫌だ! 元の世界に帰してくれよ!」


 自分がどんなに身勝手なことを言っているか、理解しているつもりだ。

 俺は、この世界の事情をよく知りもせず、度重なるお約束に興奮して二つ返事で勇者を引き受けてしまったのだ。それは理解している。理解しているが――。


「こんなの嫌だ!」


 俺は手を振って炎を払おうと試みた。けれども、逆効果。炎が周囲に飛び散っていった。

 足元で倒れていた少女に炎が燃え移る。虫の息のように思われた少女は途端に熱さで苦しみはじめ、残った力で四肢を動かした。呪詛の模様が火傷で上書きされていく。


「ぎゃぁぁぁああ! あああああ! あづいよ……やだ、タスケテ……!」


 その様を見て、俺は吐き気がこみ上げた。耐え切れずに、左手で口元を押さえる。


「さ、流石は勇者様ですっ! すごい……本当に、浄化されている!」


 ナガルがうっとりとした視線で両手を合わせた。

 目の前で人が死んでいくのに。


「これで、世界がすくわれる!」


 希望に満ちた瞳が俺を見ていた。

 その表情は本当の神様や仏様を見ているようにキラキラと。溢れんばかりの歓びを表現していた。


「勇者様!」

「勇者殿!」

「勇者にゃん!」


 村人を狩っていた姫騎士や聖女、猫耳娘も同じだった。

 みんな、俺のことを真の英雄として見つめていた。


 炎が広がっていく。

 村の家も、動けなくなった人も、全部全部呑み込んで。


「俺を……見ないでくれよ……」



 そんな目で見るなよ。



 自分が正しいのだと、勘違いするから――。

 

 

 

《おしまい》

 なにも考えずに憂さ晴らしで書きました。

 本当はおっぱいの大きい美少女を虐殺する話を書こうと思っていましたが、途中で面倒になりました。今度はちゃんとヒロインを殺す話が書きたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 注意にあったように確かに胸糞悪かったです。でも上手いですね。
[良い点] すくい(浄化)は有るがすくい(救い)は無かった… 空回り感がハンパなくいいですねぇ キングの「ミスト」並の後味の悪さでした (大好物です、ごちそうさまでした!) [気になる点] あれ…?…
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