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江戸急進派

もう一回くらい山科で松之丞と新三がグダグダやる話をやるつもりでしたが、忠臣蔵の恋を見て江戸の話に変えました。

大石内蔵助らが赤穂にて事後処理を行っている頃、江戸のほうでは、赤穂より戻った堀部安兵衛らが評定で決まったお家再興の為に尽力はせず、主君の仇討ちの為の同志を集めていた。

表向きは評定の通りお家再興の為に活動はしているが、その様子は明らかに気が入っていない。


彼ら江戸詰の藩士にしてみれば、目の前で主君を失ったのだ。


その悔しさたるや、赤穂の国許藩士の比ではない。

叶う見込みの無いお家再興より、吉良上野介を討って浅野内匠頭への供養とする事を選ぶのは当然だった。

しかし江戸詰も決して一枚岩ではない。


まずお家再興に賛同する者、これが一番多い。

筆頭家老の意向である上に、お家再興が成れば一番なのは誰にとっても同じだからだ。


次に赤穂を見限って他所へ士官を探す者。

武士とは仕える先があってこそ武士である。特に家庭を持っている者はすぐに次の勤め先を探しだした。

この時代、侍が侍以外の仕事に就く事は許されていない。

そのため士官していない浪人は傘張りなどの内職で食いつなぐしかないのだ。

内職で得る雀の涙のような金で家族を養う事はできない。

生活がかかっているからには仕方のない事だ。


そして最後に仇討ちを目的とした、急進派である。

その急進派も堀部安兵衛を中心とした武官による急進派と、片岡源五右衛門を中心とした文官による急進派の二つに別れていた。

もともと安兵衛と源五右衛門はあまり仲が良くなかったのだが、ここにきてそれが決定的な溝となってしまったのだ。

仇討ちとなれば武勇に秀でた安兵衛達が中心となり、源五右衛門ら文官の肩身は狭くなる。

太平の世において出世するのは剣より算盤が得意な者、つまり文官である。

そのため文官は優遇されていたのだが、ここにきてそれが逆転してしまった。

その事が文官達の矜持を傷付けてしまい、源五右衛門らは独自の方針を取ると言い、安兵衛らとは別行動をすることになったのだ。


「だいたいよぉ、殿が切腹されたってのに側用人の身分でありながら墓前で断髪だけとかふざけてんじゃねえっての!」


郡兵衛は卓上に乱暴に杯を叩きつけた。

馴染みの店で話し合っていた安兵衛ら三人の話題は、別行動を取るようになった源五右衛門らについてである。


「後を追って腹を切るのが筋ってもんだろ!」


「そうは申すが、殉死は幕府によって禁止されている」


「オッサンも別に腹まで切らなくて良いと思うぜ」


熱くなっている郡兵衛とは逆で、安兵衛と孫太夫は冷静だった。


「なんだよお前らは片岡の味方かよ」


「別にそういうわけではないが、慎重に吉良の情報を集めるという片岡達のやり方に一理あるのも確かだ」


源五右衛門に賛同した者らは吉良家の周辺に散り、屋敷の警備情況や出入りする人や物資の情報を探っていた。


「一理どころじゃねえな。吉良の屋敷があるのは呉服橋だ。奉行所とは目と鼻の先で、何かあればすぐに十手持ちが飛んでくるぜ」


孫太夫の説明に郡兵衛も唸る。

吉良を討つには屋敷の場所が悪すぎる。

役人相手に事を構えては大義が失われ、ただの蛮行になっていまう。

吉良が外出でもすれば好機なのだが、吉良は手傷を負ったことで高齢ということもあり家督を孫の吉良左兵衛に譲り、隠居している。

そのため公務で外出する事が無くなり、行動を把握し難くなっていた。

さらに赤穂城が開城され、赤穂藩士が赤穂の外へ出た事で警戒感を強めた吉良屋敷の警備はより厳重となっており、とてもではないが乗り込んで吉良を討つというわけにはいかない。


「チッ、こうして飲んだくれるしかないってのかよ!」


「腐るな腐るな、今は堪える時だぜ」


警備が緩くなるのは当分は先だと予測できるので、今はその時の為に一人でも多くの同志を集める時である。


「酒と言えば、磯貝がどうしてるか知ってるか?」


「あん? とうせ片岡と一緒に居るんだろう」


磯貝十郎左衛門は源五右衛門と同じく側用人であり『右に片岡、左に磯貝』と称されるほど浅野長矩に信頼されていた。

事件後は源五右衛門と行動を共にしている事は郡兵衛も知っていた。


「それが実はな、酒屋を開いてやがったんだ」


「酒屋だあ!?」


「ああ、ちょいと安兵衛と覗きに行ったんだが、なかなか繁盛してたぜ。なあ?」


孫太夫に同意して安兵衛は頷く。


「呆れたぜ。奴は武士を何だと思ってやがる!」


「言うな郡兵衛。奴は矜持より実利を得るためにあえて酒屋などやっているのだ」


「実利ってなんだよ?」


「無論、吉良邸の情報を得る事だ。吉良が屋敷から出ずとも出入りする商人、家人や女中の口から得られる事はある。酒が入れば口も軽くなるしな」


吉良邸に出入りする者でなくとも、今の江戸の町人の関心は赤穂と吉良家に向いており、客から得られる情報は多かった。


「実際に吉良家の者も客としてよく利用しているらしい」


だが安兵衛は二度と磯貝の店を訪れる気はなかった。

側用人として重宝されていた男が酒屋に身を落としている姿を見るのが忍びないからだ。


「ちなみに女の客が多かったぜ」


「やってられっか!」


孫太夫の言葉に郡兵衛は激昂した。

磯貝十郎左衛門とは一言で言えば美男子。二言で言えば芸事に通じた美男子である。

つまりーーーモテるのだ。

次回は14日に更新……できたらいいな

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