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森の白い守り人

作者: 龍ケ崎 檸檬

 僕の自信作です。初めて企画に投稿させていただきます。よろしくお願いします。

「カヤー。カヤー?」


(名前を呼ばれたような気がする。目を覚まさなければ……)


 そう思った僕は重たい瞼をゆっくりと開け、寝ている僕の顔を覗き込むようにしてみている一人の女性の影が、僕を暗くした。


「お、母……様……」


 僕の名前を呼んでいたのは母の『ミヤビ』だった。母は『ニホン』という不思議な国からやっきて、もともとここに住んでいた父に求婚を申し込むと、そのまま結婚して、そして僕が生まれた。


「カヤ、おはよう。今日の調子はどう?ご飯食べれるかしら」

「うん、ご飯食べれるみたい。何故か今日は調子がいいみたいなんだ」

「よかった。今日の朝ごはんは梅干しの乗っかった雑炊ぞうすいよ」


 優しい温かい声が僕の耳に届く。ゆっくりと母の腕に支えられながらベッドから起き上がった僕は、母が丹精込めて作った雑炊を両手で受け取った。雑炊を冷ますように「ふー、ふー」と息を吹きかける。そして、そっと蓮華れんげに乗せた雑炊を口元まで運んだ。


 少し熱かったりもしたが、母が作ってくれた雑炊はいつもおいしく感じることができた。


 食べ終わった僕は、また母の腕に支えられながらゆっくりと体をベッドへと倒していった。僕は、誰かの手を借りないと生きていくことができない体になってしまったのだ。それは、僕が3歳か4歳の時。定期検査で村の外の街の病院に行った時だった。そこで、今は治せることができない不治の病にかかってしまったのだ。


 その時の僕は、まだ事の重大さに気づいていなく、母や父が悲しんでいるのをただただじっと眺めているだけにすぎなかった。そして、僕が10歳になった時に母と父からそのことが告げられた。その時でも体がどんどんと動かなくなり、しまいには今見たく誰かの力を借りないと生きていけなくなるような体になってしまったのだ。


 悲しみに浸っていると、それを打ち消すように母はこういった。


『大丈夫よ、きっと治るわ』


 それを聞いたとき、絶対に治るんだ。とかなんとか思ってしまったが、12歳になった今、全然そのことがわからなくなっていったのだった。そして、今に至る。


「あ、そうだ」


 母がいきなり声を上げた。何事かと思い、僕は勢いつけて母のほうへと顔を向けた。


「どうしたの?」

「忘れていたわ。カヤ。今日ねお父さんと少し村を出て街に行って買い物をしてくるわ。少し帰りが遅くなってしまうけれど、食べ物はリンゴを摩り下ろしたものを食べてね?ここの冷蔵庫に入れておくから。あなたが動かなくても取れるように、冷蔵庫をお父さんが改造してくれたわ。自由に食べてね」

「わかったよ、お母様」

「何かあなたのためにも買ってくるのよ。何がいい?」

「いらないよ。だからお母様とお父様は街に行ってきてね」

「ありがと、カヤ」


 そういうと、母は僕の額にキスをすると、にこりと笑って僕の部屋から出ていった。数分経ったとき、玄関の扉の閉まる音が、二回の僕の部屋までも届いてきた。寝ているだけでも暇なので、僕は枕元にあった僕の持っている数少ない絵本を手に取った。『森の白い守り人』という絵本だ。


『この村には、昔からとある言い伝えがあった―――――』から、冒頭が始まる。何回も読んでしまって覚えた僕は、一旦本を閉じて口に出し始めた。


「あるところに、小さな子供がいました―――――。


―――――

――――

―――

――


 その子供は、体が弱くいつも寝てばかりでとても動ける状態ではありませんでした。彼女は言いました。


『体調がよくなって、お外に行けるようになりたいな……』


 そういったとき、いきなり部屋がまばゆい光に包まれていったのです。彼女が驚いていると、小さな男の子が部屋の隅に立っているのが、シルエットでわかることができました。光が男の子のほうに吸い込まれていくように消えていき、男の子の姿がはっきりと鮮明に見えていきました。身長は彼女と同じくらいの身長でした。


『わぁ……』


 彼女は思わず声をあげました。彼女は思いました。この子はきっと私の夢を叶えてくれる妖精なのだと。すると、男の子が言いました。


『君の夢を叶えてあげるよ。何がいい?』

『夢……?』

『そう、夢』


(……夢?私の夢は体調がよくなってお外に遊びに行くこと。そんなことできるの……?)


 そう疑問に思った彼女は、男の子の存在で少しずつ恐怖心と不信感がなくなっていきました。


『私の夢は……お外に行きたい!体調がよくなって、思いっきり遊びたい!』

『そんなことでいいの?』

『うんっ!』


 勢いよく答えた彼女はゆっくりと起き上がり、ベッドから降りようとしたが、男の子が「大丈夫だよ」と言いながら、こちらにやってくるのでした。男の子は彼女の手を取ると、彼女の体が徐々に軽くなっていきました。彼女は怖くなったのか、男の子の手を握ると男の子は安心させるように、彼女の手を握り返すのでした。軽くなった彼女は自分の体を見てこういいました。


『このままお外に連れてってくれるの?』

『うん。だけど、僕の姿はほかの大人たちには見えないんだ。つまり君にしか見えないってことだよ。一人で遊んでいるようにしか見えないんだよ。それでもいい?』

『大丈夫だよ!遊べるだけでも楽しいから!』

『なら、早速行こうか!』

『うんっ!』


 男の子がそういうと、ゆっくりと宙に浮いてきました。そのあとに壁をすり抜け、外へ飛び出していきました。彼女が見た景色は、それはそれは美しい景色でした。家の周りには数多くの草木が立ち並び、お花畑があるようで幻想的な風景となっていました。


『すごいっ!』

『でしょ?』


 彼女と男の子は顔を見合わせて笑いあいました。二人は日が暮れるまで遊んでいました。そして突然でした。男の子が言ったのです。


『君と遊べて本当に楽しかった。けれど、ここでもうお別れなんだ。楽しかったよ!』


 彼女は、名残惜しい気持ちでいっぱいだが、これも運命なのだと感じて諦めることにしたのでした。


『別れたくないけれど、私もあなたと遊べてとても楽しかったわ。ありがとう!』

『だからね、君が少しでも自由にしてあげるために、おまじないをかけてあげるよ』

『おまじない?』

『うん』


 男の子は彼女の左手を取り口元に運ぶと、優しく指先に口づけました。彼女はくすぐったそうに身をよじると、スッと離してくれました。


『これで君は少しだけだけど、自由になれたよ。明日になったらわかるかな』

『うん……』


 彼女は寂しいような悲しいような気持ちでいっぱいになりました。男の子は安心させるようにぎゅっと彼女を抱きしめました。


『大丈夫。君の近くにはちゃんといるから。安心してね』

『うんっ』


 彼女の家に帰ってきて男の子は彼女をベッドに寝かせると、おやすみと言って寝かせました。そして翌日。体が少しだけ軽くなったような気がしました。昨日まであんなに重たかった体が、こんなにも軽くなるなんて信じられませんでした。


『あの子のおかげ?』


 にこりと微笑んだ彼女は、軽くなった体を実感しゆっくりと立ち上がり窓から外を眺めました。妖精はこの世にいるんだと。改めて感じることができたのでした。


 めでたし、めでたし―――――。


――

―――


―――か……」


 カヤは絵本を読み終わると、窓から外を眺めた。もしもこれが本当にあるのであれば、これが実話なのなら僕にも体験……というより、僕にも同じことができるのではないかと思ってしまった。


「妖精か……。でてきてほしいな」


 するといきなりまばゆい光に包まれたのだ。絵本と同じようなことが起きた―――――。そう思ったカヤは絵本を両手で胸に抱え込むようにして持った。すると、絵本と同じように部屋の隅に一人の子供が姿を現した。ただし、何かが違う。違和感が生じた。この子は男の子じゃない……。


 ―――――女の子だ……。


 一度父親から言われたことがある。妖精と出会うことを願った子供が仮にも男の子であれば、妖精は女の子になるだろう。そして、カヤみたいに男の子だった場合は妖精は女の子になってしまうのだと。それが今起きているのだ。


「こんにちは、貴方が夢を叶えたい人?」


 透き通るような綺麗な声。赤い色と桃色が見事にグラデーションチックになっている綺麗な瞳。白い長い髪の毛に白いワンピース。いかにも折れてしまいそうな細い手足。カヤは初めて女の子を見て顔が赤くなったのがわかった。


「君が白い守り人?」

「そうね……。一般的にはそう呼ばれているけれど」

「一般的?」

「そう、一般的。私にはちゃんとした名前があるのだけれど、忘れてしまったの」

「そっか……。あ、僕はカヤ」

「知っているわ。カヤのことは小さいころから見ているわ」

「―――え?」


 僕のことを昔からわかっていると答えた彼女。まさか、言い伝えである『白い守り人』が本当に姿を現すなんて、これが現実だなんて思ってもみなかった。


「それで、君の名前は?」


 僕が問うと、彼女は首をひねる動作をした。


「たくさんあるのよね……。例えば、”白”……とかね」

「”白”?」

「そ、白い守り人だからだそうよ?最近の子供は単純ねー」

「そう、……じゃぁ、僕も名前を付けてもいい?」

「いいわよ」


 僕はベッドから近い窓を見た。そこから空を見上げると青い空に白い雲が泳いでいるように見える。家の庭には大きな桜の木があって、雪が少し残っていた。だけど僅かだが蕾がちょこちょこある。僕は、真っ先にこれだ!って思った。


「”サクラ”……」

「サクラ?あぁ。外の桜の木からとったのね」


 彼女は僕と同じように外を見つめた。少し嬉しそうな表情をしているのを見て、僕は嬉しかった。


「うん。桜の木、僕は好きだし、それに。君にピッタリだと思って……。ダメかな?」

「そう。私もこの名前、少し気に入ったわ。ありがと」

「どういたしまして。よろしくね、サクラ」

「こちらこそ、よろしく。カヤ」


 サクラと僕はぎゅっと握手をした。サクラは、これは契約だといった。何のことだかさっぱりわかんなかった僕に対し、サクラは気にしないでね、と言って気を使わせてしまったようだ。そして、サクラは最初にあった時と同様、「あなたの願い事は?」と言ってきた。


 僕は少しだけ困惑していた。だって外に出たいと言って外に出たとしてもやることは限られている。それに、絵本と同じになってしまっては面白みがないんじゃないかって思ったのだ。だから、僕はこんなことを考えた。


(街のことを、知りたい……)


 そう思った僕は、咄嗟に口に出していた。


「街に、行きたい」

「え?」

「空を飛んで、街に行きたい!街の様子をこの目で確かめてみたいんだ!」

「……いいわよ」

「やったー!」


 サクラは僕の右手を取って口元に運んで指先に口付けると、僕の体は少しずつ軽くなって、いつの間にか宙に浮いている状態にまでなっていた。サクラは驚いている僕を安心させるように、右手をにぎったままだ。


「さぁ、いくわよ!」

「うんっ!」


 サクラは右手を窓のほうに向けると、魔法のようにばんっと一気に窓が開いた。


「すごいよ!サクラ‼」

「あたりまえでしょ?私なんだから」


 サクラは自慢しているように言った。小さな村を出ていって、隣町の大きな山を越えていき、やっと大きな街へと辿り着くことができた。ほかの人は宙を浮いている僕たちのことなんか、まるでないモノ扱いにしているようだ。サクラと僕の姿は見えていないらしい。もやもやの原因はそれだったのか。


 早く歩いて急いでいる人もいれば、のんびりと散歩をしている人もいる。街ってのはこんなにもにぎやかで、楽しいものなんだって実感することができた。


「こんなに人を見るのは初めてだよ……」

「私もよ。私も、ずっと誰にも見つからないで暮らしてきたもの。驚くのも無理ないわ」

「僕のようなお願いは、初めてだったってこと?」

「そうね。大体はお外に行きたい。っていうお願いばかりだったもの。私も一つの願いが、今ここで果たせたって感じがしたわ。ありがと、カヤ」

「お礼を言うのはこっちも同じだよ。ありがと、サクラ」


 僕たち二人はお互いの顔を見合って笑いあった。僕は、サクラに出会って本当に良かったって思えることができた。大体、街の様子を見て回ったところで、僕は気になるものを見つけた。


「サクラ。ちょっと降りてみてもいい?」

「いいけど、どうするつもり?」

「へへっ、いいから」


 僕は、サクラにあるものを渡そうとしていた。かんざしである。絶対サクラに似合うんじゃないかって、ある店で見つけたのだ。僕が地上に降りたとき、ほかの人には見えていなかったのに、ほかの人から見えるようになっていたのだ。そして、さっき見つけたお店に向かった。


「お姉さん。その簪、一つもらってもいいかな?」

「いいわよ、……。あなた、可愛いからおまけしちゃう!これ、貰って行ってもいいわよ?」

「え、でも。お代は?」

「大丈夫よ。私からあの子に言っておくわ」

「あの子?」


 僕は、少し疑問に思ったが、お姉さんの好意に甘えて簪をもらうことにした。そして、簪は大事そうに僕の袂に入れておくことにした。サクラのところに戻って、また宙へと浮かんでいく。サクラは何にも問うことはなく、そのまま自分の家に戻っていくのだった。


 サクラとお別れの時間になってしまった。もう少しでお母様とお父様が帰ってきてしまいそうな時間帯。僕は、急いでサクラを引き留めた。


「サクラ!」

「なーに?」

「僕、サクラに渡したいものがあるんだ。受け取ってくれないかな?」

「渡したいもの?」

「うん」


 そして、僕はさっきの簪を袂から取り出した。全体が桃色でところどころに桜の模様が浮かび上がっている綺麗な簪。僕は咄嗟に、これはサクラに似合うんじゃないかって思ったから、お姉さんにもらってきたんだ。と、話した。


「綺麗……」

「でしょ?つけてあげる」


 僕は、白い髪を上に纏め上げ、一段と栄えるようにした。そして、僕は部屋にあった大きな鏡の前にサクラを座らせた。


「いいの?もらっても」

「うん、僕からの今日での出来事での感謝の気持ちだよ。僕のこと、ずっと見ていてくれてありがとう」

「カヤ……。ありがとっ」


 僕とサクラは別れた。僕にとって今日はとても大切な一日となった。僕は、今日でのことを一生忘れることはないだろう。そう、胸に刻んで、明日から病気に負けないように頑張っていくのだった。



 【サクラside】


 カヤと別れてから、私は簪を売っているあの人のもとへと行っていた。それはもちろん、さっきカヤが言っていたお姉さんのことである。


「いらっしゃい……って、真白だったのね」

「本名で呼ばないでって言っているじゃない。―――――ミヤビ」

「あなたもね……」


 そう、私が会いに行ったのは、カヤの母親。ミヤビのところだった。私とミヤビはもともとニホンという国にいたのだが、わけあってここの街で暮らしているのだ。


「カヤの調子は、どうだった?」

「大丈夫よ。私が少しだけカヤの調子をよくしてあげたわ。一応、貴女の子供ですもの。厄介ごとに巻き込まれないように、手は尽くしといたわ」

「ありがとう、真白」

「だから、本名で!……まぁ、いいわ。いつ、カヤに正体をばらすつもり?あの子、本当に貴女のこと、実の母親だって――――」

「言わないで、おくのよ」

「どうして……」


 ミヤビはそれっきり黙ってしまった。それもそのはず、病気にまでかかってしまって今だって不安定な状態なのに、そこにまた追い打ちをかけるように言うなんて、ひどいにもほどがある。それを、承知の上で、あの子に嘘をつき続けるミヤビはほんと、すごいと思うわ。


「だけど、このまま黙っていたままでも、意味がないって思っているわ。だから、あの子がちゃんと大人になったうえで話すつもりでいるわ」

「……、そう。貴方がそれでいいなら私だって構わない。だけど、無茶だけはしないでほしいわ。大切な親友だもの」

「ありがと、真白。それにしても、あの子なかなかのセンスの持ち主ね。真白にそんなきれいな簪を贈り物として送るなんて、ロマンチックだわ」

「ミヤビ……!」


 私は思わず両手で顔を隠した。ちらりと指先から覗けるミヤビの表情は本当に楽しそうで嬉しそうで何よりだった。


「まぁ、私のほうが、センスあるけれど?」

「まぁ。嫉妬?」

「そんなわけないじゃない!」

「あはは!」


 私はミヤビと笑いあった。こんな生活がずっと続けばいいなんて思う私はぜいたくすぎる。私は、森の守り人として、子供たちを見守っていかなきゃいけない使命がある。それを破るなんて絶対に無理。一人ずつ、大切に見守っていこうと思う。カヤも、含まれることだろう。カヤも大きくなって立派に成長したら、ミヤビは本当のことを素直に話さなきゃならない。私の姿は見えなくなったって構わない。だって、私は――――。



 『森の白い守り人』なのだから――――……。



END

 カヤの存在は僕の中でも大きな存在となりました。僕は、大きな病気にかかったことはありませんが、もしも勇気づけられるのがこれならば、勇気がついてくれるのではないかと思ってこの作品を書きました。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。これからも龍ヶ崎檸檬をよろしくお願いします。

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