表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまじない  作者: 針山
7/11

柚希

「柚希っ!」

 柚希を選んだ。

 体力的に、佐奈よりも柚希の方が危ない。だが、それを見た佐奈の表情は、悲観に染まる。

「……鯨」

「大丈夫っ! 大丈夫だからっ! 佐奈! ちょっと待って!」

 鯨によって引き上げられる柚希は、恐怖に震え、思うように動けないでいた。

 それでも、柚希は信じる。これが柚希だ、と。

 いつものバカな姿を否定するわけじゃない。

 けれど、これだって、柚希だ、と。

 なんとか柚希を引き上げ、すぐに佐奈飛びつく。

「柚希! 手伝って!」

「はっ、はっ、はっ……!」

 声をかけるも、吐息荒く柚希は未だ混乱の中にいた。死が目前まで来たのだ。生きることを何よりも愛し愛おしく接してきた柚希にとっての、天敵が。

「柚希っ! 手伝ってっ!!」

「だ……だって、また……そこ……」

 鯨の叱責に、柚希は頭を振って拒否する。また、死へ近づくのが嫌だった。また、死が目の前に行くのが嫌だった。せっかく助かった命を、危険に近づけたくない。バカにされた対価を、貰っただけ。

「あんたが助けなくて、どうすんの!?」

 その言葉に、殴り飛ばされた。顔を上げ、見た視線の先に鯨がいる。柚希を助けてくれた、友人が。佐奈と仲のいい、柚希とは対価を支払う仲の、人が。

「友達でしょ!」

 違う、と叫ぼうと思った。あんたらは良い想いをして、バカにして、浸っていたいだけだろと。だから助けてもらうのは当然だと、これ以上は不平等だと、叫ぼうと思った。気が付いたら、佐奈の腕を掴んでいた。

「……え?」

「ほらっ! しっかり持って!」

 いつの間にか、考えるより先に、体が動いていた。ダメ、怖い、嫌だ、死にたくない。感情が理性と本能に呼びかけ、退避を命じる。命じた結果、柚希は佐奈の腕を引き上げる。何をやっているのだろうか。何をしているのだろうか。なんで、こんな事をしているのか。解らない。

「んっ」

 力を振り絞り、佐奈を引き上げることに成功した。鯨は疲れ座り込んで、佐奈は息荒く震えていた。茫然と見ていた柚希の頭を、力ない手がポンと叩く。

「ありがと」

 鯨が疲れた笑顔で、言ってきた。それが凄く、不思議だった。


 柚希に声をかける鯨を見ていた佐奈の心には、不満が募っていた。なんで、自分よりも柚希を先に助けたのか。柚希なんかより、自分を先に選んでくれなかったのか。不満は嫉妬に代わり、嫉妬は蓄積していく。

「く、鯨……」

 柚希が鯨を見る。佐奈は選ばれた柚希を見る。膨れる憎悪が、収まらない。今すぐにでも、突き落としたい。

「なに?」

「……なんで」

 二人が会話することが許せない。二人が一緒にいることが許せない。鯨に関わることを、許せない。

「なんで」

 黙れと言いたかった。けれど、

「なんで……私を助けたの?」

 柚希の言葉に、止められる。

「なんで、佐奈の方が仲良いのに、先に私を助けたの?」

 本当に理解できないと、顔が言っていた。佐奈も思った。その通りだと。なんで、仲がいい、鯨をこんなにも愛している佐奈ではなく、柚希を先に助けたのか。

「はぁ……」

 鯨はため息をついて、「わかんない」と。


選択肢→①虚像

    ➁虚構


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ