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13 灰に


 いつの間にか振動と騒動が止んでいた。ビルは不吉なほど静まりかえっていた。

 おそるおそる、店主が立ち上がる。

 怒り狂った架空請求詐欺業者の気配は消えていた。

「……どうした? 何で架空請求詐欺業者どもは踏み込んでこないんだ?」

「踏み込みましたよ。でも、うちではありません。お隣にです」

 助手が平然と言った。

「隣?」

「お隣さんと何でも屋の表札を取り替えておきました。玄関先の看板もお隣さんの店先に動かしました。一番シンプルな策が、一番有効なものです」

「なんと……」

「店長が殺されるのは勝手ですが、私まで殺されるのは非常に困りますからね。ここはごちゃごちゃした雑居ビルです。それが、防御となるのです。それを見越してテナント契約したのでは?」

「違う。家賃が安かったからだ」

 店主は首を振った。それから壁へ目をやり、

「お隣さんに迷惑をかけてしまったな。申し訳ないことをした」

「大丈夫ですよ。お隣さんは、架空請求業者ごときがどれだけ束になっても歯が立たない業種の方々ですから」

「隣って何の店だっけ?」

「関北勢力連合『練神会』。特定指定暴力団の事務所です」

「ああ……廊下ですれ違うとき、妙なプレッシャーを感じると思ったらそんな業種の人々が入っていたのか。知らなかった」

「架空請求詐欺業者ぶぜいが、暴力専門家のヤサを強襲しちゃったんですよ。面子を潰された暴力専門家がどう対処するのか見物です。でっかい花火が上がりそうですね。こりゃ目が離せませんよ」

 そう言って、彼女は無邪気な笑い声を上げた。

「楽しんでくれているようで嬉しいよ」

 店主は力ない声で言った。

 店主は崩れたオフィス機器のせいで、足の踏み場のない何でも屋オフィスを、どうにか横切って押入の前にたどりつく。

 それから、振り返って言った。

「ありがとう。君がいなかったら、俺は業に食われていた」

「いえいえ」

 店主は押入を開いて、紙の束を取り出した。

「さっき見つけたんだが、俺の書いた架空請求詐欺のマニュアルがここにある。詐欺師業界に出回っている、コピーじゃない。オリジナルの初版だ。君にあげるよ」

「いりません。私はすでに見るべきものを見ました」

 助手はにっこり笑って言った。

 店主も応じて笑うと、懐からライターを取り出して、マニュアルに火を点ける。マニュアルは、あっという間に灰になった。


「さて、これからどうします、タロウさん?」

「さあな。何か、とても悪いことだよ、ハナコさん」

 店主は笑って言った。


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