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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第一章 エレナ王国、旅立ち編
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(4)

 

 気が付いたら大地がいたこの町は、アーリ町というらしい。

 周囲を緑豊かな地形に囲まれたこの町では農業が盛んのようで、町の人は農作物とともに日々を過ごしている。

「リーシェもそうなのか?」

「う~ん、私の家はお母さんと料理屋をやってるから、単純に農家ってわけじゃないよ」

「へぇ~」と大地は相槌を打った。

 気が付いたらアーリ町にいたという大地は、ここが地球ではない事に最初こそ困惑した。だが、リーシェの言葉で帰る方法を探そうと決意をした。

 エレナ王国、ましてやパンゲアの事を何も知らない大地は、帰る方法を探す前にこうしてリーシェからこの国や世界の事を教えてもらっていた。

「エレナ王国は比較的に豊かな国だけど、そうじゃない国や地方もあるから――。みんな精一杯暮らしてるんだよ」

 そこで、大地はふと気が付いた。

「王国って事は、この国は王様がいるのか?」

「うん。私は直接見た事はないんだけど――。みんなから(した)われてて、親和(しんわ)(おう)なんて呼ばれてるわ」

「親和王?」

「うん。敵対してた隣国と和平結んだり同盟結んだり、先代は戦争が絶えなかったけど、その状況を変えた王様だからね」

 リーシェの話を聞いて、大地は納得する。

 どうやら、この世界ではどこの国も王様や皇帝が国を治めているようだ。大統領や首相という存在はいないらしい。

「その王様は、元の世界へ帰る方法知ってないのか?」

「それは分からないわ。会った事も話した事もないんだから――。聡明(そうめい)な人だってのは、聞いた事あるけど」

「そっか……」

 そもそも王様に見える事が出来ないだろう、と大地は考える。一般人が皇族に会う事がなかなか叶わないのと同じように。

「じゃあ、誰か物知りな人知らないか?」

 気を取り直して、大地はリーシェに尋ねた。

 王様に会う事は出来なくても、物知りな人物くらいはリーシェでも知っているだろう。その大地の期待に答えるように、リーシェは口を開く。

「ん~、学校の先生とか――かな?」

「先生? その学校はどこにあるんだ?」

 座っていた椅子から身を乗り出すようにして大地は聞いた。

「この町にはなくて、隣町にあるの。学校の先生なら、大地のような現象とか力ももしかしたら知ってるかも」

 現象や力という言葉を使った事も疑問に感じたが、大地はまず目の前の問題を解決する事に意識を向ける。

「その隣町は遠いのか?」

「そこまで遠くはないわ。馬車で一時間くらいよ」

「ば、馬車!?」

 リーシェの言った単語に、大地は大きく驚いた。生まれて一六年経つが、大地は馬車など見た事がない。この世界にはどうやら自動車はないようだった。

 一方のリーシェも馬車がおかしかったのだろうか、と戸惑いながら「え、えぇ」と答えた。

「馬車なんて乗った事ないぞ……」

「そ、そうなの? でも歩いていったら、もっと時間かかっちゃうし――」

「そ、そうなのか……」

(迷ってる時間もない――か)

 ここでじっとしていても解決策は思い浮かばない。隣町に詳しい人がいるのなら、まずは向かう事が大事だろう。そう判断した大地はリーシェの言う馬車で隣町を目指す事を決めた。

「馬車はどこから出るんだ?」

「町の広場から出てるわ。お金は……持ってないよね?」

「あ、あぁ……」

「うん。じゃあ、私が大地の分も払うわ」

「そ、そこまでは――」

「大丈夫。気付いたらこっちの世界にいたんでしょ? お金は持ってなくて当然よ」

 壁にかけてある時計をちらっと見て、リーシェは立ち上がった。

「もう少ししたらお昼の便が出るわ。それに乗って行けば、すぐに隣町よ」

「ほ、本当にいいのか?」

 リーシェがここまで優しくしてくれる事に、大地は申し訳なくなる。

 突然気付いた場所がどこか分からずに右往左往している所を助けてくれただけでなく、事情を話せそうな人の元まで案内してくれる、というのだ。世話になりっぱなしになっている事に、大地は肩身が狭くなっている。

「気にしないで。自分で言うのもおかしいけど、困ってる人を放っておけない性格なの。助けた人が違う世界から来たなんてのは驚いたけどね」

 そう答えたリーシェは、少し苦笑していた。

「ご、ごめん……」

「謝る事じゃないよ。――きっと、大地が元の世界へ帰る方法も分かるよ」

「ありがとう」

 大地の感謝の言葉に、リーシェは「どういたしまして」と笑顔を見せた。

 隣町へと向かう馬車はアーリ町の広場から出ている。その広場は、大地が気付いた時にいた場所だ。

「どう?」

 先に広場の様子を(うかが)ってきたリーシェに、大地は待ち切れず尋ねた。

「大丈夫。さっきの人たちはいないみたい――」

「良かった」

 ほっとため息を吐く。

 先に広場の様子を窺ったリーシェの後を追って、大地も広場へ足を踏み入れた。

(……どうして、俺はここで目が覚めたんだろう)

 胸の内に疑問が湧きあがるが、それを口にはしない。

 何度も同じ疑問を言ったところで、すぐには解決しない。湧きあがる疑問を解消するために、リーシェの案内で隣町へ向かっているのだ。

 広場内にある馬車の停車位置で、大地とリーシェは馬車がやってくるのを待つ。

(大丈夫。きっと帰る方法が見つかる)

 不安が強くなっていく心を、希望を言葉にして静める。

 観測的希望でしかないが、それでも今の大地には大きな効力があった。

「来たわ」

 広場へとやってきた馬車を見て、大地は強く息を吸った。

「行こう」

 目指す隣町へ。

 大地が望む答えが見つかる事を期待して、二人は馬車へと乗りこんだ。



「エリーナ様。本当に自ら参られるのですか? 我々が宮殿までお呼びしに参ります。エリーナ様はクルスでお待ちください」

「そんな心遣いはいらないわ。この目で早く勇者の姿を確かめたいのよ」

 王都クルス。

 都で一際壮観な建物であるベルガイル宮殿の大広間前で、少女は自身の護衛隊の男と話していた。

 護衛隊の男は少女が王都を離れて遠くの町まで行く事に反対して、少女を説得していた。

「しかし! 近頃は盗賊の被害も増えております。万が一、エリーナ様に危険が及ぶと――」

「マルス。私を誰だと思ってるの? 盗賊など、返り討ちにしてやるわ」

 強気に言い放つ少女に、マルスと呼ばれた護衛隊の男は何も言い返せない。少女の剣術の実力をマルスは誰よりも知っているからだ。

 嘆息をついて、マルスは少女の言葉に従う。

「……わかりました。しかし、外出は視察とさせて頂きます。また護衛も国内視察とし、十分な数をつけさせて頂きます」

「えぇ、それは構わないわ」

 (うなず)いた少女を見て、マルスは控えさせていた護衛隊に準備を促した。

「それで、どちらへ向かわれるのです? 勇者がおられるという場所は分かっているのですか?」

「ヨーラが言うにはアーリ町らしいわ。昔一度行った事があるってお母様は言ってた。もう記憶にないんだけど」

 必死に思い出そうと難しい顔をしている少女。

 その表情を見て、マルスは仕方がないと言うように頭を左右に振った。

「アーリ町はクルスのほぼ中央にある小さな町です。モルゲン平原を越えた先にある、農業が盛んな町ですね。急げば半日で着けない事もないですね」

「そう。――半日じゃ遅いわ。陽が落ちるまでには到着するわよ」

 颯爽と少女は大広間から出ていく。少女が向かった先は宮殿の正門ではなく、軍用馬が何頭も繋がれている厩舎(きゅうしゃ)だった。慌てたマルスと護衛隊が、少女の後を追いかける。

「エ、エリーナ様!? すでに馬車を用意しています。わざわざご自分の馬に乗られなくても――」

「もう随分乗ってないのよ。このままじゃ愛馬に顔を忘れられてしまいそうだわ。それに、馬車よりもこっちの方が早く着けるしね」

 それ以上の制止を聞かずに、少女は厩舎へと入っていった。

 少女の愛馬は薄茶色の毛並みが綺麗な雌の馬だ。王国自慢の軍用馬であり、ヨルネという名前は少女の武勇とともに、パンケアに広く知れ渡っている。

 手綱や(くら)(あぶみ)をすぐに用意して、少女はサッとヨルネに(またが)る。

「ほら、マルスたちも急いで」

 真っ先に馬に乗った少女は、護衛隊を急かす。

「は、はっ!」

 慌てて、護衛隊の男たちも軍馬に(またが)っていった。

 マルスを先頭にして、少女は護衛隊に囲まれながらアーリ町を目指して出発した。心地良い疾走感を肌で味わいながら、少女はまだ見ぬ勇者に想いを()せる。

(待ってて、勇者様。私にはあなたの力が必要なの――)




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