(2)
エレナ王国。
王都、クルス。
国内で一番大きな建物であるベルガイル宮殿のあまりに煌びやかな一室に、少女はいた。
肩口で切りそろえられたウェーブのかかったブロンドの髪が、開けてある窓から入る風で静かに揺れている。瞼を閉じて心地良い風を感じている少女は、ある一報を待っていた。
「姫様! 姫様!」
一人でいるには無駄としか思えないほど広い部屋に、豊かな口髭を蓄えた老人が入ってきた。着用しているマントの大きさに身体が合っていない印象を受けるが、エレナ王国で、大臣を務めているほど聡明な老人だ。
「来たの!?」
「はい! さきほど予見者が視たそうです! 間違いありません。勇者がこの国にお降りなさいました!!」
興奮気味にまくしたてた大臣の話に、少女は顔を綻ばせる。
「ついに伝承を継ぐ時がきたのね。出発の用意を! 今日中には勇者に会いに行くわ!」
「はっ」と応じて、大臣は少女の部屋から出ていく。
大臣の話を聞いた少女は自らも身だしなみを整えていく。窓から外の景色を眺めていたが、すぐに鏡の前に立ち衣裳を合わせていく。天井まで届きそうなほど大きな鏡だが、高揚している少女を映すには、それでも小さいように思えた。
(この日をずっと待ち望んでいた――。何代も続く戦乱の世も、私が救ってみせるわ!)