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その5

(どうしよう?どうしよう?どうしよー?!)


 心の中で他の言葉を忘れたかのように私は絶叫し、顔から滝のような脂汗を流す。

 この部屋に入った瞬間、陛下のご尊顔を拝した喜びに支配されて、呼ばれた理由なんて全く考えていなかった。

 だけど、考えてみれば世界王直々に一介のメイドに過ぎない私に用事があることなんて……普通ありえない。

 ここでシラを切りとおすにしても確信がないのに私を呼びつけるはずもないし、『美王様の裏後宮』は誰が何と言おうと私の作品よ!

 例えそれでお咎めを受けようとも、私は私の作品に誇りを持っているんだから!


(乙女が夢を見て何が悪いっていうのよ!!)


 焦る気持ちがなくなったわけではないけど、譲れない気持ちを確かにして私は目の前で小説をヒラヒラさせている陛下に視線を合わせた。


「はい。それは確かに私が書いたものです。」


 言い切った瞬間、ウォルフがあからさまに引いた。

 まあ、普通の男だったらこの反応が正しい。きっと、男という生き物は想像力が女よりも劣っているに違いない。だから、ただ男性同士の恋愛というだけで拒絶反応を示し、その美しい物語の価値を一向に分かろうとしない。

 私の趣味を知って去って行った愚かな男たちの記憶を僅かに思い出して、私は心の中で悪態をつく。


「ふーん、否定しないのか。では、もう一つ聞くがこの作品の主人公のモデルは私だな?」


 しかし、そう言いながら、ぱらぱらとつまらなそうな顔で本を捲る陛下のリアクションは私も初めてのパターンで戸惑う。


(あら?もしかして結構大丈夫??)


 モデルにされているという自覚がありながら、どうしてこんなに平然としていられるのか……、もしかしてリアル!??


「ああ、言っておくがこの小説のような嗜好は私にはないから」


 鼻息を荒くした途端、まるでこちらの心を読んだようにそう告げられて心が萎む。……なんだ。違うのか。ちぇ。

 まあ、どっちでも私の妄想が変わる訳ではない。ちゃんと分かってますよ。現実と妄想が違う事くらい。


「で?私がモデルというのは認めるのだな?まあ、これだけ容姿やら境遇やらそっくりだったら言い逃れはできないと思うが。」

「……はい」


 そのお美しいお顔で問われたら、私、嘘はつけません。

 妄想も一緒に湧いてくるけど、今だけはそれも封印だ。ここで対応間違えたら、もしかしたら城を追い出されるだけじゃない。小説を二度と書けなくなるかもしれない!

 それだけは無理!私から妄想取り上げたら、何が残るの!!!


「まあ、自慢じゃないけど、私もこの容姿で昔から色々面倒な目にはあってきたからね。私に直接、問題がおこらないならこの手の出版物とかには煩く言うつもりはないんだ。」


 その言葉に無罪放免かと喜ぶ…とそれが表情に出ていたのか、私の顔を見て【にやり】…うん、【にやり】という表現が正しい雰囲気で陛下が笑った。

 それはそれまで見せていた穏やかで優しげな表情とは一線を画して、何だか怪しげなその表情に私の妄想が新たに―――って駄目よ、私!今だけは!!


「だけど、教会のお偉方は取り締まりたいみたいだよ?私という権威がこういうモノによって穢されるってね。」

「そんな!!私たちは寧ろ(男性と並んでいる美しい)陛下を尊敬し、(男同士で美しい恋物語を展開する様を)慕わしく思っているだけなのです!」

「何も知らなければ嬉しい言葉なんだろうけど、額面通りの意味じゃないんだろうな。…まあ、いいよ。」


 陛下は読心術でもお持ちなのか、私が口にできない心の中の想いすらも感じ取ったかのように微妙に顔をひきつらせながらそう言うと、小説を私に差し出した。


「ルッティ…君はまだこの小説を書き続けたいかな?」

「は、はい!!!」

「なら条件がある。私にモデル料を払ってもらおうか?その体でね。」


(あれ?なんかひじょーに嫌な予感がしますよ?)


 にっこりと笑顔を見せながらも、その笑顔から寒いものを迸らせている陛下の新たな魅力を感じつつも、妄想より防衛本能が私の中で警鐘をガンガンと鳴り響かせていた。

H23.1.18誤字訂正させて頂きました。ご連絡頂いてありがとうございます。

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