その4
「ウォルフ。女性相手に大きな声をだすものじゃない。」
(しゃべった!)
にこやかに穏やかに言葉を発した、陛下相手に当たり前のことですら感動してしまう。
だって、『生』!『なま』!『ナマ』なのよ!!!!
はあ、同じ空気を吸っているというだけで、気が遠くなる。
「しかし!」
「ウォルフ」
「……はい。申し訳ありません。」
口答えしようとするウォルフと呼ばれたSっぽい青年を、笑顔だけれど有無を言わせぬ圧力を感じさせる声で陛下は黙らせる。
お美しい人の笑顔はそれすらも凶器!?
おお!ウォルフ青年!これはSと見せかけて、実はヘタレ!?
陛下も穏やかそうに見えて、実は!実は!攻め!?
<以下、しばしルッティの妄想にお付き合いください>
新米文官ウォルフは優秀だけど、真面目すぎるのが玉に傷な性格で、この仕事に就くまで挫折を経験したことがなかった。
しかし、美しすぎる王の前ではいつも緊張のため様々な失敗をおかし、挫折を味わう事となる。その度に屈辱に顔を歪めるウォルフ。
そんな彼を美王は舌なめずりをしながら見つめ、今宵、彼の失敗を責める為に執務室に呼んだ……が、次第に妖しげな雰囲気になる両者。
『ここで服を全部脱いだら、今回の失敗は水に流してあげましょう。』
『ふ…服を?』
いつもの頑ななほどに真面目で無表情なウォルフが泣きそうに顔を歪めるのを見て、昏い喜びを覚える美王。
『別に嫌ならいいのですよ?貴方の代わりなどいくらでもいる。』
『!!』
美しいこの王の妖しげな魅力に憑りつかれてしまったウォルフは、それだけは嫌だと―――
「おい、涎が垂れているぞ。」
と、これからがめくるめく妄想の始まりだと思った瞬間、聞こえてきた声とこちらを軽蔑したような視線にはっとした。
ああ!またやってしまったのね、私!
陛下の前で涎を垂らすなんて……だけど、本当に見ているだけで妄想が湯水のごとく湧き出てくるわ!!
「もう少し君が落ち着くのを待ってやりたいところだけれど、私も時間がない。君をここに呼んだ本題に入らせて頂いてもいいかな?」
「は、はい!申し訳ありません!!」
そういえば、私ったら陛下に呼ばれていたんだったわ。
そのことにようやく気が付いて背筋を正して、私は口元の涎をぬぐった。
「実は面白いものが巷で流行っていることを知って。これを君に見てもらおうと思ったんだ。」
そう言って陛下が取り出したのは2冊の本。
(あれ……何か見覚え)「あああああああっ!!!」
その正体に気が付いて、途中から私の心の呟きは、実際の叫びに変わった。
そのあまりの大きさにウォルフは顔を顰めているけれど、陛下の方はその反応が予想範囲内だったのか、変わらずににこにこと笑っている。
「見覚えはあるな?この『美王様の裏後宮』、作者の名前はペンネームだが、調べはついている。君だ。」




