その3
実物を見た瞬間、私は自分の文章の技量の無さを嘆いた。
言葉にするのも難しい、この美しさをどう表現したらいいのか?写真なんか実物の前ではゴミも同然だ。
(ああ、私の妄想がパレードする)
思っている事は、もはや自分でも訳が分からない。
ただ、この目の前の人物を目にした瞬間、私の中のイマジネーションが限りなく羽ばたいていくのを感じた。
だから、声をかけられるまで、自分がどこで何をやっていたのかも忘れてしまっていたし、他に人がいるなんて全く気が付かなかった。
「ルッティ・エヴリエだな。ぼーっと突っ立っていないで、さっさと中に入れ。」
そういわれて、初めて自分がノックをして恐る恐る扉を開けた瞬間、そこにいる人物を見て呆然としていたことに気が付く。
さすがは我らが世界王。姿を見ただけで、私の魂を抜いてしまうとは恐ろしい!!
そう、今、私の前にはなんとあの世界王陛下フィリー・ヴァトル様がいらっしゃるのよ!!
(ああ、私の妄想を現実にした…いやそれ以上の美しさ!!)
頭に血が上る感覚。鼻血は…うん出ていない。
だけど、間違えないでこれは恋なんて陳腐なものじゃない。それ以上に美しくて崇高な私の夢!
現に私の中では早速、世界王陛下とその横で私の名を呼んだ、これまたまずまず美形な知的青年の絡みが展開されている。
私が想像していたより意外と華奢そうな世界王の柔和な笑みは儚げだし、横に立つ黒尽くめの眼鏡をかけた青年はクールそうだ…ふむ、これは王道的な展開かな?
『陛下…これはお仕置きですね。』
『や…やめて』
臣下のSな青年にお仕置きされる美王様…ううん、これは前にも使ったネタだな。
それよりこんなに美しい陛下の美しさをより引き立てるために、野獣みたいなタイプはどうだろうか?
例えば…おお!!近衛騎士団長のレグナ様とか!!野獣な上に親父萌え……読者を選ぶかもだけど斬新でいいかも…それとも―――
「聞いているか!!!」
「はい!!!」
初の『生』世界王陛下に興奮しまくりの私は、呼ばれた声に咄嗟にとりあえず返事をした。
すると、相変わらずこちらを見てにこにこしている陛下の横で、Sな(もう勝手に決めつけている)青年が青筋を立てている。
いけない、いけない、興奮するのはわかるけれど、とりあえず今は我慢しろ私!