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その15

 そして、変化その3。


―――カリカリカリカリ


 薄暗い部屋に断続的に響く乾いた音。それは小さな光に映し出された人影が、一心不乱に机に向かって何かを書き続けている音。

 果たしてその人影の名は乙女界小説家代表(?)ルッティ・エブリエ―――なんちゃって?……はい、ごめんなさい。【美王様の裏後宮】の執筆に勤しむ、一見すると妖しさ満点な私の他の何者でもありません。

 え?それの何処が『変化その3』なのかって?何も変わってないじゃないかって?いえいえ、ちょっとお待ちください。私は何一つ変わってなくとも、変化はあるのですよ。


―――カリカリカリカリカ……ガタン!!


「ウガー!?う~ん??」


 筆を放り出し、思わず大きく唸る。その声は確実に薄い壁を通り越し、隣室には騒音となるレベル。

 今までならば、もし本当に私がそれを喰らっていたならば悶絶確実と思われる衝撃が、お隣様から私の部屋の壁へと無言の訴えとして与えられるのだけど………無音。ウフッ!

 どうしてだと思う?ちなみに、お隣さんが私の崇高な趣味を理解したとか、私の出す様々な音に我慢強くなったとかではなく、話は簡単。私が侍女部屋の密集地帯からお引越ししたの!!(それでも今までの習性が染みついちゃって、大声出した後は思わずいないお隣様の反応を窺うべく、壁を凝視して構えてしまうんだけど)

 そして、引っ越し先は―――



▼▼▼▼▼



「ルッティ。君には後宮に部屋を与えようと思う」


 誕生祭が終わって色々な事が一段落した後、陛下の執務室に呼びだされた途端の第一声がこれ。ひたすらに事務的に告げらたその言葉に、何はともあれ首を横に大きく振って叫んだ私。


「陛下の側室になんてなれません!!申し訳ありません!!(だって、私は陛下よりアイルフィーダ様の方が好きなんです!!)」


 叫んだ直後にひたすらに冷たくなった室内の空気は、『シーン』ていう効果音がどこからともなく聞こえてきそうなほど。

 それを感じて、ようやく私は自分が酷く空気を読んでいない発言をしたと理解させられる。


「誰が側室になれと言ったかな?」


 ゆったりと座り心地のよさそうな椅子から背中を離し、陛下は肘を机について前のめりになると天使の如く微笑む。だけど、その笑みにはまったくもって温かい心が籠っていない。


(ハッ!!ブラック陛下降臨!?お綺麗だけど、やっぱり怖いぃぃぃいい!)


 思わず回れ右をして逃げ出したくなるけど、ここで陛下の機嫌を損ねてアイルフィーダ様の侍女から外されたら堪らない。


(アイルフィーダ様、私、耐えてみせます!見ていてくださいね)


 心の中でそう叫んで、ぐっと両足を踏ん張って口を開く。


「え?でですが、後宮にお部屋を頂けるのは妃だけでは??」


 うん。そう!私、何一つ間違ったことを言ってない!

 側室になるというのが私じゃなきゃ、新たな恋敵登場というのは話の展開としては中々に面白い。まあ、もちろん、誰がこようが側室なんてアイルフィーダ様の敵じゃないけどね!

 だけど、まるで私を馬鹿にしたような陛下・オーギュスト様、そして、何やら私を同情の目で見てくるウォルフさんに、思わずたじろいでしまう。


「まあ、言い方が分かりにくかったことは謝ろう」


 それから、一呼吸おいて陛下は本題に入る。

 その一呼吸の間に、『だけど、どうして現状で君が側室になれるなんて考えに至るか、私には理解できない』と言わんばかりの盛大な呆れを感じたのは私の被害妄想?

 まあ、私に言わせてもらえばそれに『私が愛しているのはアイルフィーダだけなのだから、側室なんて入る隙がない事は分かるだろう?』くらい付け足させて頂いて然るべきだと思うけど。


「君に入って欲しい部屋は妃に与える部屋じゃなくて、後宮の中の侍女の控えの間だよ。今まではアイルフィーダの護衛上の関係もあったし、拒否する侍女も多いだろうと要請してこなかったけど、君は拒否しないだろう?」


(ええ、もちろん!)


 心の中では満面の笑みを浮かべつつ、とりあえずは出来る侍女を装うために小さく微笑むに留め、了承の意を示すために小さくお辞儀をする…と陛下は相変わらずの笑みを浮かべながら、一つ言葉を付け足す。


「これでよりアイルフィーダに近い所にいられることになる…嬉しいか?」

「……」


 これに私は何と答えるべきなんだろう?


(えっと…これは侍女としてってことよね?)


 だけど、内心では私がアイルフィーダ様をネタにしていることを、暗に揶揄されていると確信を持つ。

 同時にある意味、陛下よりアイルフィーダ様に近い場所にいる私へのやっかみ?なんて美味しい妄想も膨らむ…けど、それを頭の中で整理する前にただなぬ陛下の気配に、夢と妄想だけしかない私は太刀打ちできずに慄くしかない。

 背筋につうっと一滴、汗が流れるのを感じ、ここは下手に言葉を返すより、何も言わずに微笑み返しをするのがベストだと判断。幸いに陛下もそれ以上は何も言ってこなかったので私は無事に陛下の執務室という名の、私にとっては鬼門ともいうべき場所を退出した。

 かくして、私はアイルフィーダ様のお部屋のすぐそばに部屋を頂き、名実ともにアイルフィーダ様の第一の侍女!になった事になる。喜び勇んですぐさまアイルフィーダ様に伝えると、


『私は嬉しいけれど、ルッティはいいの?私の近くばかりにいることは、ルッティにとって良い事ばかりじゃないでしょう?』


 と、あくまで私という個人を尊重しつつも、喜びを表現してくださるアイルフィーダ様のお言葉!!


『いいえ!役得ですわ!!』


 と大きく胸を張って返事をした私に、アイルフィーダ様は淡く笑って下さる。ああ、その控えめな通常モードと、容赦なく他者をを圧倒する女王様モードのギャップが堪りません!!

 おかげで周りには侍女のいないお部屋を頂き、いくら騒いでも怒られなくなった。アイルフィーダ様のお部屋はすぐ傍だけど、寝室とは隣り合っていないのでアイルフィーダ様の安眠を妨害はしていないはず。

 警備の兵の方に時々胡乱気な視線を向けられる事もあるけど、それくらいなら問題なし!

 かくして、陛下の目は怖いけど、執筆活動において騒ぐことが前提な私にとって非常に好環境に恵まれたのである。(アイルフィーダ様にもより近くでお仕えする事ができるし)


 だけど、そんなこんなで後宮にお部屋を賜った私は、とある事件に巻き込まれることになった。



▼▼▼▼▼



 それは今日も今日とてせっせと小説を書いては消し、書いては消し、中々進まない執筆活動に唸っていた時の事。


「う~ん??結局、アフィールは攻めにすべきかしら?それとも受け?」


 【アフィール】(性別は男)とは言わずもがな、私の小説内のアイルフィーダ様をモデルとしたキャラクターの名前だ。何となくアイルフィーダ様との類似点が強すぎて、思わず名前まで似通ってしまったのはご容赦願いたい。

 このキャラの設定を今は色々と練っている途中なのだけど、そもそもの根本、所謂攻め受けの属性で悩み中なこの頃。

 それとも美王様ことフィアライン王が、攻めであろうと受けであろうとバッチコイなパーフェクトキャラなのだから、いっそ二人が想い合ってくっついた後も、色々なバリエーションが楽しめるようリバというのもあり??

 何にしても現実のお二人を見ていても、微妙にどちらが主導権を握っているのか分かりにくいのが問題な気がする。現実がはっきりすれば、妄想もそれを主流にするのが道理だもの。(それを敢えて外すのもありだけど)

 だけど、お二人を近くで見ていれば、私が求めるラブラブ?イチャコラ?目くるめく?展開には、ほど遠いのが現実だというのははっきりしていて…それはそれで美味しい部分もあるんだけど、ぼちぼち色めいた妄想も欲しい所。

 そのためにも現実を先行してでも…とは思っているんだけど、モデルのお二人の影響が私の中で強すぎて、お二人に進展がない限り微妙に妄想ものってこない。

 ちなみに周りのメイド仲間達にアフィールが攻めと受け、どちらがいいかと聞くと半々の答えが返ってくるし(アイルフィーダ様を応援し隊結成にあたり、お二人をモデルにした小説の話を執筆する予定だと伝えたところ、ものすごく喜ばれた)、とりあえずは【リバ】設定で話を進めるか。


「よしっ!じゃ―――」


 と方向性が決定したところで、誰がいるでもないけど基本的に独り言の多い私が掛け声一つ、次の設定に思考を移そうとした瞬間だった。


―――カタ


 近くで物音が聞こえた。

 私がこうして執筆活動に勤しむのは、メイドとしての仕事が終わった後となるので基本夜遅くとなる。夜が遅かろうと後宮という場所柄、もちろん警備の兵の方はいるし、後宮にはその他にも出入りする使用人が存在する。

 だから、物音がしても特段不思議ではないし、今までだって物音の一つや二つはあった。だけど、その音が妙に大きいような、近いような気がした。

 何となく気になって、紙に向かっていた意識が急速に現実に戻る。と同時にまた物音。


―――ガチャ


 そこで何となく可笑しいと思う。


(ガチャ?)


 それはまるでドアノブを回す時と同じ音。

 妙に近いその音は、まるで私の部屋のドアを誰かが開けたかのような音ではないか!私はそこで背を向けていた扉を振り返る。

 そうしながら自分は確かに部屋に入った時、施錠をしたはずだと記憶を巡らす。なのに―――


―――ギギギギ


 後宮だというのに、メイドの部屋ともなれば扉に油をさしてくれなくて、錆びついた音と共に扉が開い…ってちょっと待て!!!

 そこでようやく私ははっとした。

 だけど、驚きとか、動揺とかで頭は忙しく動くけど、鈍い体はうんともすんともいわず、体を半分扉に向けたまま私はただただ固まってしまう。

 そして、開いた扉の奥からまるでホラー映画に出てくるような、いかにも…なお面を付けた奇妙な井出達の人が佇んでいて……


「き・きゃああああああああ」


 私は腹の底から絶叫を上げた。

ルッティは妄想の源としてはアイルもフィリーも同じくらい好きですが、実際の人柄でアイルフィーダの方が好きな度合いが大きかったりします。

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