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閑話 ウォルフの溜息

「うふふ。素直なお嬢さんだこと。」


 王妃付侍女を務めることを承諾したルッティが去った男性しか残って異なはずの部屋で、妙に低いが明らかに女性の口調で誰かが笑った。


「ロダン先輩。普通にああやって男性らしくできるんですから、いつもそうしてくださいよ。」


 半眼で見ながらウォルフがげんなりとした口調で言った。

 それに眉を上げて、ルッティが男らしいと評した美丈夫・オーギュストが先ほどとは打って変わった口調で言い返す。


「お黙んなさい、ウォルフ。一体、誰のおかげであの娘に王妃付侍女を承諾させられたと思っているの?」

「まあ、それはそんなんですけど…っていうか、結局、どうしてあのメイドは一度断ったのにそれを覆したんでしょう?」


 それに対して答えたのはオーギュストではなくフィリー。彼は机の上に残った本を放り投げた。


「結局、これだろう。」

「ちょっと!人の本をぞんざいに扱わないでくれる!?」


 それをキャッチしながらオーギュストが憤慨する。どうやらルッティ小説『美王様の裏後宮』は彼の私物らしい。


「脅しただけではあのメイドが侍女を引き受ける確率は五分だったからな。脅しがだめなら、餌で釣るまでだ。あのメイドが食いつきそうな状況を提供してやったまでだ。」


 どうやら先ほどルッテイが胸をときめかせた状況はフィリーによって仕組まれた罠だったらしい。


「あんなワザとらしくて恥かしい芝居一つで王妃付侍女が決まるなら安いもんだが、あれの何にそんなに反応ししているかは正直理解に苦しむな。…まあ理解したくもないが。」

「ははは。そうですよね。私も正直、引きました。」


 ウォルフはオーギュストの手の中にある本を読んだわけではないが、その中身がどんなものかは教えられている。

 趣味嗜好は個人の自由だと分かっているが、一個人としては正直あまりかかわりたくない趣味思考であるのは間違いない。


「さっきのはある意味、王道のシチュエーション!恋愛初期で意識しすぎる二人を表現するもどかしい光景!!ありふれたシチュエーションだろうが、それに胸をときめかせない乙女はいないわね。まして、この本の内容からあのお嬢さんが王道大好きなのは丸わかりだし。うふ、今頃、フィリーとあたしの事を彼女がどんな妄想膨らませているか想像がつくわぁ。」

「気色悪いこと言うな。」


 自分を抱きしめるように身悶えるオーギュストに酷く冷静にフィリーが告げる。


「まあ!言っとくけど、あたしだって恋愛の相手にあんたなんてお断りよ!抱きしめるなら、可愛くて柔らかい女の子が良いに決まってるでしょ!」


(だったら、普通の男でいた方が女性にもてるだろうに)


 言葉にしたら何十倍で反撃されるのであえて口にしないが、ウォルフはだいぶ長い付き合いになるが未だに理解不能な上司に心の中でツッコミを入れた。


「大体、あんたが王妃付の侍女に絶対服従を強いるための弱みを握りたいっていうから、あたしが一肌脱いであげたのにその言い草はなんな訳?」


 詰め寄るオーギュストの顔を片手で押しのけて、フィリーはルッティの前ではわずかにしか見せなかった人の悪い笑顔を浮かべる。


「それは感謝しているさ。彼女に絶対害を与えない侍女を付けるためには、ただ世界王に服従しているだけの侍女じゃ駄目だからな。そのためには弱みより、褒美をちらつかせておくに限る。それを得るためには王妃に害を与えないことだと後は覚えさせるだけだな。」


 穏やかな顔に底意地の悪いオーラを纏うフィリー。

 それを感じとってウォルフが顔を引きつらせた。


(あのメイドもあのまま部屋を去っていればよかったものを…まあ、この人たちが一度狙った獲物を逃がすわけはないんだけど)


 そう思いつつ心の中でルッティに向かって合掌。

 公では普通にできる男でいてくれるのに、近しいものの間だけでは強烈お姉キャラに変貌する上司に、絶対的な人当たりの良い仮面を被りながらも、どうにも腹黒い印象を拭い去れない主君に挟まれて神経をすり減らし続けてきたウォルフ。

 彼はこれから自分と同じような立場に立だろうルッティに同情は禁じ得ないが、それでもそれを助けようとは絶対にしない。

 もし、それをしたらこの二人に自分がどんな目に遭わされる想像するのも恐ろしいことを肌身に感じているのだから。


『ふふふふ』


 どうきいても悪そうなことを考えているとしか思えない笑い声を聞きながら、ウォルフはこれからの事を思うと一層気分が塞ぐような心地で大きく息を吐いた。

読んで頂いてありがとうございます。活動報告に後書きありますので興味がある方はどうぞ。

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