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かん・・・かん・・・かん・・・

作者: 唐揚げ
掲載日:2026/07/26

 全身が傷んだ。

 真っ暗にも近い中、身動きをしようにも痛む体は動かせず、それどころか圧迫されているようだ。

 かろうじて動かせるのは右手なんとか肘先だけという所である。

 何が起きたのか。

 私は確かマンションのキッチンでコーヒーをマグカップに注いでいた。

 近所の赤ん坊の夜泣きがうるさいので、コーヒーでも飲んで落ち着こうと思っていたのだ。

 そうだ。そこで、スマホが突然鳴り響いて――


 地震だ。


 と、すると、今、私は瓦礫の下敷きになっているのか。あちらこちらでパラパラと聞こえるのは私が住んでいたマンションの残骸が崩れている音なのだろう。いや、待て、一体、いつから私はここにいるのだろうか。

 のどの渇き具合は1時間や2時間の程ではない。

 もっと長い時間、この瓦礫の下にいるのではないか。

 確か東日本大震災の時、4時間後には災害派遣が行われたはずだ。

 すると、今ちょうど自衛隊の災害派遣が行われたタイミングか。


「~~~~ツツツ」


 助けを求める声を出したが、出ない。別にのどが潰されているのではない。

 乾ききって声が出ないのだ。

 バラバラバラとヘリコプターの音が聞こえる。マスメディアの報道ヘリコプターだろう。

 つまりは報道ヘリコプターが来る程度には時間が経過している。


 72時間。


 一般的には、人命救助の生存率が急激に下がるタイムリミットが72時間だ。さすがにそこまでの時間は経過していないだろうが、それでも、今の私の状況としてあまり時間がないのは明確だ。どうにかして助けを求めなければならない。


「おーい! 誰かー!」


 突然に声がと瓦礫をかき分けるような音が聞こえた。

 誰かはわからないが瓦礫の上から、生存者を探している人物がいるらしい。

 どうにかして、自分がいる事を伝えなければならない。

 何ができる。

 動かせる右肘から先をなんとか動かす。すると、指先が固いものに触れた。いいや違う。それは、私が愛用していた陶器のマグカップだ。毎日使っていたから見えなくともわかる。手触りはそれだとすぐにわかる。

 持ち手に指を入れる。


カン


 手首の動きだけで音を出すことが出来た。マグカップを瓦礫にぶつける事で音は出せる。

 いける。


カン! カン!


 このマグカップの動きだけでなら、何とか音が出せる。私の体はなんとかそれくらいしか出来る事はない。だからこれで、音を出し続けて知らせることが出来れば、助かるかもしれない。


「おい! 誰か来てくれ! 音がするぞ!」

「エンピもってこい!」


 やった。

 マグカップをさらに力強く瓦礫に叩きつける。

 瓦礫を除ける音がする。

 マグカップにヒビが入った音がした。


カン! カン! カン! カンッ! カン!!!


「いたぞ!」

「赤ん坊だ!」

「両親もいるぞ」


 私の上の方。

 瓦礫をこえた向こう側でそんな声が聞こえた。

 違う。

 私もいる。


カン! ぱきっ


 突然に手が軽くなった。

 違う。

 マグカップが持ち手で割れてしまったのだ。


「よし! 全員、次を探すぞ!」


 誰かが瓦礫の向こうで言った。

 動き出す音がする、声が遠のく。

 違う。

 私はここにいる。

 まだ、ここにいる。


かん・・・かん・・・かん・・・


 持ち手の残った部分で瓦礫を叩く。

 しかし、それは先ほどまでの強さはなく。


 ただ、か細い

でも、陸上自衛隊の活躍によって助け出されました。

サンキュー陸上自衛隊。

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― 新着の感想 ―
その状況を想像したら身がすくむほどの恐怖を感じました。マグカップが割れた絶望は計り知れませんね。 少なくとも救われた命があった……。と感傷に浸っていたら、あとがきの温度差に笑いました。 無事救出された…
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