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【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
一章

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戦闘

「はぁ……寝れなかった」

「大丈夫か? ……いてっ!」


 コイツ、昨日あれほど追い込まれていたのに、もういつもの雰囲気に戻ってる。

 わたしは、人を殺したという事実に向き合ったせいで、まったく寝れなかったというのに。


(まぁ、元気になったのはいいことか。壊れかけた状態でいるよりずっといい)


 幼馴染のあんな姿なんて、もう二度と見たくない。たとえ、より悪い方向へと変わっていたとしても。


「おまえら、ブリーフィングがあるから早く来い」

「は、はい!」


 ルーク上等兵に呼ばれて、わたしたちは先輩方の元へと向かった。

 足が重い。眠れていないせいだけじゃない。昨日の光景が、まだ頭の奥にこびりついて離れない。


 けれど、アインは違った。

 わたしの横を歩きながら、いつもの調子で鼻歌なんか歌っている。


(ほんと……どうなってるの、この子)


 昨日のあの壊れかけた顔を思い出すと、胸がざわつく。

 でも、今のアインは笑っている。

 それが本当に戻った笑顔なのか、戻ったふりなのか、わたしには判断できなかった。


「おい、新人ども。遅いぞ」


 グレン小隊長は、わたしたちを見て、そう呼び掛けてくる。

 昨日、殴られてたことを思い出す。今まで、孤児院の子供たちに殴られたことはあったが、大の男に殴られたことが無かった。だから、グレン小隊長に見られるだけで、足がすくんでしまった。


「おい、この距離を走ることもできねェのか?」

「小隊長、もしかして昨日何かやったんですか?」

「あァ? 少々懲らしめただけだ」

「なんで、初めての戦場からそんなことをやったんですか? それなら足がすくんで当然でしょう」

「アイツらがいなきゃ、もっと進めたんだ。ゴフとベッツの死を無駄にしたんだぞ」

「はぁ、それはそうですね」


 ルーク上等兵は、ため息をつきながらも小隊長に逆らう気配はない。

 わたしとアインは、ただ黙って立っているしかなかった。


(……ゴフさんとベッツさんの死を、わたしたちのせいにするの?)


 胸の奥がじわっと熱くなる。

 怒りなのか、悔しさなのか、自分でもよくわからない。


 でも、グレン小隊長の目がこちらに向いた瞬間、その熱はすぐに冷えた。


「おい、ガキども」


 低い声。

 昨日の殴られた痛みが、記憶の底から蘇る。


「今日の突撃は昨日よりキツいぞ。覚悟しとけ」


 アインが小さく息を呑んだ。

 わたしの手も、無意識に震えていた。


「昨日の分、取り返すんだよ。わかったな?」

「……」

「チッ」

「ストップストップ! まだ朝ですよ! お前らも返事!」

「「は、はい!」」


 ルーク上等兵の声が、張り詰めた空気をわずかに和らげた。

 でも、それは救いじゃない。

 ただ、殴られるタイミングが後ろにずれただけ。


 グレン小隊長は舌打ちをして、わたしたちを睨みつけたまま言った。


「今日からはおまえらに配慮をしねェからな。死にたくねェのなら、死んでもついてこい」

「……いや、小隊長の辞書に配慮なんて言葉は無いでしょうに」

「あァ? 何か言ったか?」

「なんでも」


 昨日より辛くなる?

 そんなの信じられない。昨日だって、わたしの人生で一番ひどい日だったのに。


「セラ、大丈夫だって」


 アインが小声で囁いた。

 その声は、昨日の夜よりずっと軽い。軽すぎて、逆に怖い。


「今日も俺が守るからさ」


 笑っている。

 なんで、笑えるの? 昨日は、あれほど人を殺したことに苦しんでいたのに。もしかして……。


(……壊れた?)


 その言葉が頭に浮かんだ瞬間、心臓がぎゅっと縮んだ。

 でも、すぐに打ち消す。


(違う、違うよ……そんなはずない)


 否定したいのに、アインの笑顔は軽すぎる。

 昨日の涙も震えも、全部なかったことにしたみたいに。


「ほら、立ってねぇで聞け。今日の配置を説明する」


 グレン小隊長に指示されて、ルーク上等兵が地図を広げる。

 その瞬間、胸の奥がざわっと波立った。


「ここだ。昨日より前に出る。敵も警戒してるだろうから、反撃は激しいはずだ」


 昨日よりも、より奥にある塹壕。そこを目指して、わたしたちは突撃するのだ。

 しかも、昨日とは違って、そこは完全な平地で、銃弾を遮る物は何一つない。今日の突撃は、昨日よりも危険なものになるということは、誰の目から見ても明らかだった。

 

「これで、終わり。十分後に突撃するから、準備をしとけ。一秒の遅れも許さねェぞ」

 

 ルーク上等兵が地図を畳むと、周囲の空気が一段と重くなった。

 突撃は、もう決まっている。わたしたちに選択肢なんてない。






「よし、突撃ィ!!!!!」


 グレン小隊長を先頭にして、わたしたちは敵の塹壕へと走り出した。

 敵兵もそれに気づき、銃弾の雨をわたしたちに向けて降らしていく。けれど、それらの弾がグレン小隊長に当たることは無かった。


「なに……あれ……?」


 昨日は初めての戦場に戸惑って、気付くことが出来なかったのだが、改めて見ると、グレン小隊長が異次元なことをしていることに気付いたのだ。

 まずは一つめ、グレン小隊長の目の前に、くの字のような、透明の盾が出来ており、それが銃弾をあらぬ方向へとはじき飛ばしていたのだ。

 そして、もう一つ……それは、弾き飛ばした銃弾の中で後続に当たりそうな弾を、その手に持っている二本の剣で斬っていたのだ。あの銃から放たれた、目視出来ないほど速い銃弾を、そんなこと信じられるはずがない。


(銃弾を斬る? そんなことを出来るの?)


 グレン小隊長のすぐ横を、何発もの弾丸が通り抜けていく。

 跳ね上がる土。

 砕け散る石。

 後続の兵士が倒れる音。


 なのに、彼だけは一歩も乱れない。


「走れェェェ!! 止まったら殺すぞ!!」


 怒号が背中を叩く。

 わたしは反射的に足を動かした。

 考える余裕なんてない。

 ただ前へ、前へ。


 アインが横で笑っている。

 その笑顔が、昨日よりずっと壊れて見えた。

 

「はっ、俺も敵を殺さないとな」


 すぐ近くで発砲音がする。アレンの右手に握られている銃から出た弾は、敵兵の脳天を貫き、彼岸花のような血を噴き出し始めた。

 思わず目を背けそうになる。でも、この戦場でそんなことをしてしまえば、一瞬で死んでしまう。

 だから、それを見届けるしかなかったんだ。


「ははっ、まずは一人目」


(躊躇いが……無くなってる)


 アレンは、昨日とは違い、躊躇う事無く銃弾を撃っていく。

 アレンの指が、引き金を引くたびに軽く跳ねる。

 その動きが、まるでゲームのボタンを押しているだけのように見えた。


(昨日まで……あんなに震えてたのに)


 胸の奥がざわつく。恐怖じゃない。

 もっと、嫌な感情。


 アレンはもう、わたしの知っているアレンじゃない。


「セラ、遅いぞ!」


 振り返ったアレンの目が、妙に澄んでいた。

 澄んでいるのに、どこか空っぽで、底が見えない。


 その目が、いちばん怖い。


 その瞬間――赤い流れ星が降って来た。


「魔導隊だ! 避けろォ!」


 グレン小隊長の怒号が響いた瞬間、地面が跳ねた。

 赤い光が空を裂き、尾を引きながら落ちてくる。


「伏せろォ!!」


 叫び声と同時に、わたしは泥の中へ身を投げた。

 耳の奥がキーンと鳴る。

 次の瞬間、世界が赤く爆ぜた。


 熱風が背中を焼く。

 泥が跳ね、破片が頬を切る。

 肺に焦げた空気が流れ込んで、咳が止まらない。


(死ぬ……!)


 目の前の塹壕から姿を現す、無数の盾兵とその奥に隠れた数名の魔導隊。そして、その中央に立つ無数の勲章を着けた兵士。どうやら、コレは彼らの仕業だったようだ。

 盾兵たちは、まるで壁のように整列していた。 分厚い金属板に刻まれた紋章が、赤い爆炎の光を反射している。

 その後ろで、魔導隊が淡々と詠唱を続けていた。


 そして中央――勲章をいくつも胸にぶら下げた男が、わたしたちを見下ろしていた。


「撃てぇ――!」


 再び放たれる赤い星々。

 それらは大地に着弾し、その爆発に巻き込まれて何人かの兵士が焼け死んでいく。


「全員、散開しろ! 魔導隊を優先して潰せ!!」


 グレン小隊長が叫び、剣を構えて爆炎の中へ突っ込んでいく。それに続いて、わたしたちも敵兵がいるところへと突撃した。

 

 盾兵の列が揺れ、魔導隊が詠唱を早める。

 また放たれた星々……けれど、それらが大地に着弾することは無かった。


「右方向二弾、正面三段、左方向一弾、すべて相殺しました!」

「よくやったァ!」


 上空の爆発によって吹き降ろされる風で、わたしたちの髪と泥が一斉に後ろへ流れた。

 耳鳴りがひどい。

 世界の音が、爆発と怒号と詠唱でぐちゃぐちゃに混ざっている。


 それでも――敵は止まらない。


「盾列、前進ッ!!」


 勲章をつけた指揮官の声が響く。盾兵たちが、まるで巨大な獣のように一斉に動いた。

 金属の壁が迫ってくる。その隙間から、黒い銃口がこちらを狙っていた。

 

 けれど――


「オレを、なめるなァァ!!」


 グレン小隊長の二振りの剣が、まるで紙を切るようにつ金属の盾を斬り裂いていく。


「きょ、狂鬼!!」


 敵兵がその姿を見て叫ぶが、次の瞬間には体を真っ二つにされ、血飛沫を上げる噴水になる。


「オレに、続けェェェ!!」


 グレン小隊長があけた穴を、わたしたちが食い破って、より大きな傷口へと変えていく。

 盾兵は、重い盾と鎧を持っていて、近づいてしまえば、わたしでも対応出来るほど鈍かった。


「この小娘ごときにィ!」


 頭の上を、重い盾が通り過ぎる。

 でも、それをぎりぎり躱し、その鎧の隙間に銃口を突っ込んだ。


「ごめんなさい」


 引き金を引く。ソレと同時に、鎧の隙間から赤い液体が飛び散り、わたしの頬にまで飛んできた。

 温かい。

 生きていた証が、わたしの肌に触れて消えていく。


 盾兵の身体が、重い音を立てて崩れた。

 その倒れ方が、妙にゆっくりに見えた。


(……殺した)


 胸の奥が、ぎゅっと縮む。

 でも、立ち止まる暇なんてない。


「味方ごとでも構わん! もう一度撃て!」


 敵兵の指揮官がそんなことを言っている。けれど、もう二度と赤い星々がわたしたちを襲うことは無かった。


「てめェらの敗因は、オレの存在だァ!」


 グレン小隊長が高く飛び跳ね、赤い星を斬り裂いていく。

 そして……そのまま――


「くたばれェェ!」


 敵の指揮官の身体をグレン小隊長の二振りの剣が十字に裂いた。

 体中にある骨ごと、まるで柔らかい布のように。

 その瞬間、敵の指揮官の口から声にならない息が漏れ、赤い液体が弾けた。


 その身体が地面に落ちると同時に、周囲の敵兵たちの動きが止まった。

 盾を構えたまま、震えている。

 魔導隊の詠唱も途切れた。


「ひ、ひぃ……! 狂鬼だ……本物の……!」

「逃げろ! あんなの相手にできるか!!」


 敵兵たちが蜘蛛の子を散らすように後退し始める。

 その背中を、グレン小隊長が血まみれの剣を振り上げながら追う。


「逃がすかァァ!!」


 怒号が空気を震わせる。

 敵将を殺したというのに、未だ足を止めず、残る敵を斬り殺していく。


「今日死んだ奴らの命を、無駄にするなァァ」


 そうして、わたしの二日目の戦闘が終わった。

 五十人中、軽症者十八人、重傷者九人、死者八人という結果だった。


 

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