朝起きてみたら今年の漢字にされていた
秋桜星華さまからいただいたアイデア『朝起きたら漢字になっていた』で書きました
「それでは、今年の漢字を発表する時が参りました」
朝 (だと思う)、俺が目覚めると、そんな声が響いていた。マイクを通したオッサンの声だ。
俺は立派なカーテンの裏に隠されていた。
この状況から察するに、どうやらは俺は今年の漢字になっているらしい。
しかし、自分では自分の姿が見えない。
俺はどんな漢字になっているのだろう?
マイクのオッサンが読み上げてくれるまで、俺は自分の姿がわからない。
漢字になってる感じがひしひしとする。
「それでは、発表いたします! 今年の漢字は──これでーすっ!」
カーテンが開かれた。
俺の前に大勢の観客が集まっているのが露わになった。TVカメラも俺を一斉に捕らえている。
「な……」
「なん……だと……?」
みんなの反応がおかしい。
マイクのオッサンが俺を読み上げた。
「今年の漢字は──『てつ』です!」
て……
てつ……?
てつって、どの漢字のてつ? 哲学の哲だったらカッコいいな……なんて俺が思っていると──
会場の後ろに設置されている大型スクリーンに、自分の姿が映し出されるのが見えた。
『 鉄 』
な……
なぜ、『鉄』……?
今年、鉄にまつわる何かいいことでもあったか? 記憶にないが……
そう思っていると、オッサンが解説した。
「鉄という字は、『金』と『失』から出来ています。消費税爆上げ、物価も爆上がり、そして給料はやや下がり。こんな国民の現状を表した漢字となります」
いや……
今年の漢字って──
一般から募集して、多数決で決めるもんじゃないの?
この漢字が選ばれるとは、とても思えんのだが……
俺がそう思っていると、オッサンが説明した。
「今年の漢字は公募ではなく、日本初の女性首相、椎名総理大臣が独断と偏見で決定しました」
袖からその椎名首相がいそいそと登場した。そしてオッサンから勢いよくマイクを奪うと、言った。
「ハーハハハ! 愚民ども! オマエラも貧乏になってしまえ! この私のようにな! 困窮して鉄になれ! ざまぁ!」
会場のみんなが憎むように俺のほうを見た。
申し訳なかった。
こんな漢字が今年の漢字でごめんなさい。
かくなる上は切腹するしかないと思った。
俺はちょうど隣にあった『刀』という漢字を手に取ると、勢いよく腹に突き立てようとしたが、何しろ鉄なので刀のほうが折れてしまった。ごめん!
誰か!
誰か斬鉄剣を持ってきてくれ!




