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第8話「守護神リボーン」

夏祭りの朝、東峰村は朝からざわめいていた。山の向こうから届く蝉の声に混じって、太鼓の練習の音や、屋台の支度をする人々の笑い声が響く。

 修一は作業場の前に立ち、そこにそびえる巨大なロボット──「リボーン」を見上げた。三メートル半のその姿は、木製パレットの骨格にレンガと陶器の装甲をまとい、胸には丸く輝くランプ、背中には風に揺れるパッチワークのマントが広がっている。


 昼過ぎ、ロボットを広場へと移動させる作業が始まった。若者たちがロープで引き、古賀が掛け声を飛ばし、子どもたちは「がんばれリボーン!」と走り回る。村人総出の大移動だった。

 広場の中央に立った瞬間、まるでその場の空気が変わったようだった。観光客が驚きの声を上げ、スマホを構える手が一斉に空へ向かう。


 夕暮れ時、いよいよ点灯の瞬間がやってきた。

 村長が合図をすると、修一は胸部のスイッチを押した。

 ふっと光が灯り、やがて胸のランプが暖かな黄金色に輝きだす。同時に、目に仕込まれたガラス瓶の緑と青が淡く光り、陶器の装甲が夕闇の中で反射して宝石のような輝きを放った。


 「わあ……!」

 その声は子どもたちだけでなく、大人たちからも漏れた。


 「修一さん、肩に乗ってもいい?」

 悠真が聞くと、修一は笑ってロープ梯子を下ろした。子どもたちは次々とよじ登り、リボーンの肩にまたがって手を振る。まるで本当に村を見守る守護神の背に乗っているかのようだ。

 その光景を見つめながら、修一の胸にこみ上げてくるものがあった。


 ――俺も、この村で生まれ変わったんだ。


 都会で、もう必要ないと背中を押されて去った日。すべてが終わったように感じたあの瞬間。

 けれど今、こうして誰かの笑顔の中に、自分の存在が確かに刻まれている。


 「修一さん!」

 古賀が声をかけ、缶ビールを差し出す。

 「お前のリボーン、村の宝だぞ」

 その言葉に修一は照れくさく笑い、空を見上げた。リボーンのマントが夜風になびき、胸の光が広場を柔らかく照らしている。


 祭りの終盤、SNSに上げられたリボーンの写真や動画が、瞬く間に拡散されていった。

 「この村に行きたい」「すごい再利用アートだ」「感動した」――そんなコメントが次々と寄せられ、翌日から観光客やボランティアが訪れるようになった。


 灯りの下、笑顔で記念写真を撮る人々を見ながら、修一は静かに思った。

 捨てられたものも、人も、必ずもう一度輝ける場所がある。

 リボーンはその証であり、そして自分自身の姿でもあった。


 夜空には、満天の星が瞬いていた。

 リボーンはその中で、村を見守るように立ち続けていた。

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