第7話「ロボット計画始動」
東峰村の夏祭りまで、残された時間はわずか二週間。
修一は作業場の奥から、これまで集めてきた木製パレットを引っ張り出した。乾いた木の香りが立ち上り、鼻腔をくすぐる。何枚も釘を抜き、板を切り揃え、頑丈な骨格を組み上げていく。
「おい、これ、何メートルになるんだ?」
作業を覗き込んだ古賀が眉を上げる。
「予定では……三メートル半。見上げるくらいでないと、守護神らしくないですから」
「ははっ、やるなあ」
骨格ができると、今度はタイヤの出番だ。村の農家や整備工場から集めた大小さまざまなタイヤを関節部分に組み込み、腕や脚が少しでも動くよう工夫する。古賀は器用に金具を取り付け、若者たちはクレーン代わりにロープを引いて部品を持ち上げた。
次に、古レンガと陶器の破片をモルタルで貼り付け、装甲を作っていく。小石原焼の刷毛目模様や髙取焼の深い藍色が、光を浴びてキラリと光った。
「これ、動かなくても迫力あるな」
「いや、胸と目は光らせるんです」
修一はガラス瓶を持ち上げ、笑った。瓶を切って研磨し、内部にLEDを仕込むと、まるで宝石のような光を放った。胸部にはランプシェードを応用した円形の光源を配置し、目には緑と青の瓶底を使った。
「マントはどうする?」
「古布をつなぎ合わせて作ります。風になびくように軽く」
村の女性たちが持ち寄った着物の端切れやカーテンの生地が、次々と長い布に縫い合わされ、赤や紺、生成りの色がパッチワークのように繋がっていく。その光景は、まるで村中の思い出が一枚の布に縫い込まれているようだった。
作業は連日夜遅くまで続き、集会所の前にはいつしか即席の工房のような賑わいが生まれた。子どもたちは放課後になると駆けつけ、「今日は目がついた!」「マントだ!」と歓声を上げる。大人たちも麦茶やおにぎりを差し入れ、作業の合間には笑い声が絶えなかった。
そして、ロボットがほぼ完成に近づいた日。修一は提案した。
「名前は、みんなで決めませんか?」
子どもたちは色とりどりの短冊に案を書き、集会所の壁に貼っていく。
「ゴロゴロマン」「タイヤキング」「ビッグ守」……笑えるものからカッコいいものまで、壁はすぐに埋まった。
最終的に残ったのは三つの候補。投票箱を囲む子どもたちの間に、期待と興奮が混ざる。
開票の結果、一番票を集めたのは──「リボーン」。
「リボーンって、どういう意味?」と尋ねる年配の女性に、悠真が胸を張って答えた。
「生まれ変わるって意味! 修一さんが捨てられたもので色んなもん作ってくれたみたいに、このロボットも生まれ変わったんだ!」
その言葉に、修一は胸が熱くなった。
都会で居場所を失い、価値のない存在だと感じていた自分。だが今、村人の笑顔と信頼の中で、確かに「再び生まれて」いた。
夜の作業場で、巨大なロボット「リボーン」を見上げる。月明かりに照らされたその姿は、すでに村を守る守護神のように見えた。
「さあ、次はお披露目だ」
胸の奥で静かに燃える高揚感を抱えながら、修一は工具を握り直した。