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第6話「信頼と夢」

夏の盛り、東峰村は山からの涼しい風と、どこか浮き立った空気に包まれていた。

 集会所の壁際に並んだランプシェードは、夜になるたびに柔らかな光を放ち、村の子どもたちが影の模様を追いかけて遊んでいた。その光景は、いつしか村の日常の一部になっていた。


 そんなある日、村長の小野が修一の作業場を訪ねてきた。

「修一さん、今年の夏祭りなんじゃが、飾り付けを全部あんたに任せたい」

「えっ、俺にですか?」

「もう村の誰も、あんたの作るもんを疑っとらん。むしろ楽しみにしとる。頼むよ」


 突然の大役に戸惑いつつも、胸の奥では嬉しさがじんわりと広がる。都会での最後の職場では、意見を求められることも、何かを任されることもなかった。それが今、自分の手仕事を信じてくれる人たちが目の前にいる。


 祭りまであと三週間。修一は飾りの案を考えようと、広場のベンチに腰を下ろした。すると、学校帰りの子どもたちが駆け寄ってきた。

「修一さん、また光るやつ作ると?」

「うーん、どうしようかな」

「もっと大きいやつがいい! 動くやつ!」

 小学二年生の悠真が、目を輝かせて叫ぶ。

「そうだ、ロボットがいい! おっきくて、村を守るやつ!」

「それだ!」と別の子が手を叩く。


 子どもたちの声はあっという間に広場を駆け巡り、買い物帰りのおばあさんや畑仕事中のおじさんまで「ロボットだって?」と笑顔で集まってきた。

 古賀も腕を組み、「ロボットか……面白ぇじゃねぇか」と頷く。


 修一はしばらく考え、にやりと笑った。

「いいね、それ。よし、作ろう。この村の守護神ロボットを」


 その言葉に子どもたちは飛び跳ね、大人たちも声を上げた。

「どうやって作るんだ?」

「材料はどうする?」

「廃材なら、いくらでも出すぞ!」


 修一は、頭の中にある設計図の輪郭を確かめながら答えた。

「木製パレットで骨組みを作って……タイヤで関節、レンガや陶器で装甲……ガラス瓶を使って目や胸を光らせる。それから、古布でマントをつけたらかっこいい」


 まるで秘密基地の計画を練る子どものように、村人全員の顔が輝いていた。

 その夜、修一は作業場の机に向かい、紙と鉛筆を手に取った。

 鉛筆の先が紙を走り、背の高いロボットの姿が描かれていく。四肢は力強く、胸にはランプシェードを応用した光源、背中には風になびく布のマント。

 完成予想図を見つめながら、修一は静かに呟いた。

「名前は……みんなで決めよう」


 窓の外では、夏祭りの準備で張られた提灯が風に揺れていた。

 捨てられたものから光を生み出したように、この村にも新しい物語が生まれようとしている。

 修一の胸の中で、かつて都会で失った「夢」という感覚が、ゆっくりと温度を取り戻していった。


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